撮影日記


2012年09月03日(月) 天気:くもり一時あめ

MINOXフィルムをつくる

10数年前のディジタルカメラなど,もはやほとんど見向きもされないだろう。一方,フィルムを使うカメラは,50年前のものでも人気を保っているものがある。たとえば,ライカM3 (1954年)であり,ニコンF (1959年)であり,ローライフレックス2.8E (1956年)などだ。
 これらのカメラは,精密な動作をし,かつ丈夫な機械とされている。また,用意されたレンズの性能にも,高い評価がある。これらのカメラは50年以上前のものであるが,性能的にいまでも十分に通用するものである。また,記録メディアであり消耗品でもあるフィルムがいまでも十分に供給されている。135フィルムとよばれる両側にパーフォレーション(穴)があってパトローネに入った35mmフィルムは,その規格が基本的にかわっていない。かわっていないどころか,フィルムそのものは「生もの」でありつねにフレッシュである。そして,年々,改良がなされてきた。120フィルムとよばれる,幅がおよそ62mmのロールフィルムも,同様である。135フィルムや120フィルムを使うカメラは,つねに最新の性能で写真を撮ることができたのである。
 βや8mmなどのビデオテープ,オープンリールやエルカセットなどのオーディオテープなどを,もはやほとんど見かけなくなったことを考えれば,135フィルムや120フィルムは,メディアとしてとても長寿であるとみなしてよいだろう。

135フィルムや120フィルムがいまでも健在である一方で,すでに姿を消した規格のフィルムも多い。また,完全になくなってはいないが,かなり入手しにくくなっている規格のものもある。
 最近,姿を消した規格のフィルムとしては,たとえばポケットフィルムともよばれた110カートリッジフィルムがある。APSカメラ用のIX240カートリッジフィルムもメーカーが製造販売の終了を宣言しているので,まもなく店頭から完全に姿を消すだろう(2011年7月6日の日記を参照)。discフィルムや,インスタマチックとよばれた126カートリッジフィルムは,前世紀末に姿を消した(1999年7月31日の日記を参照)。110カートリッジフィルムは,最近,限定的な再生産,販売がおこなわれたようだが(2012年5月16日の日記を参照),これからも安定して入手できるとはかぎらない。
 そのカメラにあったフィルムが販売されなくなると,撮影の道具として使うことができなくなってしまう。引き続きそのカメラを撮影の道具として使いたいならば,なんとかしてフィルムを準備しなければならない。ベスト判などとよばれていた127フィルムを使うカメラは,コンパクトなこともあって人気が高い。127フィルムは,富士フイルムやコダックが製造・販売をしなくなってからは入手しにくい規格のフィルムになってしまったが,フィルムそのものは裏紙つきのフィルムがスプール(軸)に巻かれただけのものなので,スプールさえあれば,たとえば120フィルムをカットして巻きなおすことで,自作することが可能である。110カートリッジフィルムも,カートリッジさえあれば,同様に自作が可能である(2010年2月19日の日記を参照)。
 IX240フィルムはフィルムに磁気情報も記録されているため,こういう方法での自作はできそうに思えない。

富士フイルムやコダックからの発売はなくなったが,いまでもまだ入手できる規格のフィルムとして,ミノックス判のものがある。幅がおよそ9mmのフィルムがごく小さなカートリッジに入ったもので,これを使うカメラもとても小さいものになる。ミノックス用のフィルムは,「八百富写真機店ディアモール店」のような,クラシックカメラを中心に扱うようなカメラ店に行けばたいてい置いてあるのだが,欲しいときにいつでもすぐ買いに行けるというわけではない。それでも,これまでに何本か買ったのだが,けっこういいお値段である(笑)。ともあれカートリッジもいくつか入手できたので,そろそろ自作を試みることにした。
 ミノックス用フィルムの幅は,およそ9mmである。また,ミノックス用フィルムに裏紙はないので,120フィルムではなく135フィルムから切り出すことにした。今回は,ジャンク品のカメラを利用して,このような道具を作ってみた。

使ったカメラは,ジャンク品のコニカC35 EF (ピッカリコニカ)である。フィルムを力ずくで巻き取ることになるので,手動巻き上げ,手動巻き戻しのカメラが好都合である。また,電池がなくても空写しができることも重要だ。開口部にぴったりはまるように「貼れパネ」を切り出し,そこに9mm間隔で3本のカッターナイフの刃を埋めこんだ。ここは「貼れパネ」ではなくもっと丈夫な木材を用いれば,精度も高く長期間使えることになって望ましいとは思うのだが,2,3回使う程度なら,これでもなんとかなるだろう。

この道具の使い方としては,次のようになる。
 まず,フィルムの先端を巻取り軸にかけて,はずれないようにちょっと巻き上げる。次に裏蓋を開けたまま暗室に入って,13(〜14)回巻き上げる。こうすれば36枚撮りフィルムから,3回,切り出すことができる。
 巻き上げたら裏蓋を閉めて,フィルムを巻き戻す。このとき,埋めこんだカッターナイフの刃が,フィルムをカットしていく。かなり重いので,巻き戻しクランクは役に立たないかもしれない。私はラジオペンチでつまんで,むりやりに巻き戻しをおこなった。これは,裏蓋がちゃんと閉まっているなら,もちろん明るいところでやってよい。なお,最後まで巻き戻してはいけない。4つに切れてしまったフィルムを,フィルムピッカーでパトローネから引き出すのは,かなり難しいことだった(笑)。
 先端をうまく残して巻き戻したら,ふたたび暗室での作業となる。裏蓋を開けて4つに切れたフィルムを引き出し,切れた部分を切断する。両端のパーフォレーションの部分は使えないが,これで9mm幅のフィルムが2本できることになる。なおこれは,八百富写真機店で買った「30枚撮り」のフィルムよりも少し短い。最後のほうはカブリが生じる可能性があるので,24枚撮りくらいに考えておけばよいだろう。

ミノックス用フィルムが準備しやすくなれば,これから「アクメルMD」の出番も少しは増えるのではないか,そんなことが期待されるのであった。なんといってもあの小ささは,とても楽しいものなのである。


← 前のページ もくじ 次のページ →