撮影日記


2023年10月09日(月) 天気:曇

暗箱のアダプタをつくりなおす

大判カメラとして古くある形態の1つに,「組立暗箱」というものがある。これは,レンズを取りつける前枠と,ピントグラスやフィルムを入れた取枠を取りつける後枠とが蛇腹でつながれているもので,撮影しないときは底板に重ねるように折りたためる構造になっている。そのため,撮影しないときにはきわめてコンパクトになるのが大きな特徴の1つである。撮影するときには前枠と後枠とを立ち上げて,はめあわせたりネジを締めたりなど,組み立てをする必要がある。そのことから,この種のカメラは「組立暗箱」とよばれるようになっている。暗箱とは,文字通りに暗い空間をあらわしている。シャッターを閉じれば,フィルムには光があたらない。
 それより古いものと考えられる形態に,「テールボードカメラ」というものがある(2020年7月18日の日記を参照)。これは,レンズを取りつける前枠が底板に対して垂直に固定されていて,蛇腹でつながれた後枠が底板の上をスライドするようになっている。底板をたためるようになっているものであれば,「組立暗箱」ほどではないが,少しはコンパクトになる。
 この4月に入手した暗箱(2023年4月29日の日記を参照)は,「テールボードカメラ」のようでいて,少し異なる特徴をもっていた。「テールボードカメラ」とは違って,前枠も底板上をスライドするようになっているのである。そして,底板がかなり長くなっていて,蛇腹をかなり伸ばすことができるようになっている。この暗箱の後枠には,ピントグラスがセットされていた。しかし,ここにあう取枠は付属していなかったので,これだけでは撮影に使えない。
 そこで,別の組立暗箱に取り付けられていた,カビネサイズのピント板を使えるようなアダプタをつくってみた。暗箱とよばれるようなカメラは,レンズでもフィルムホルダでも,なんでもくっつけてしまえば撮影に使えるようになる。レンズマウントの形状の違いや,フランジバックの長さなどに悩まされる必要などなにもない。
 ともあれ,はじめにつくったアダプタでは,コンパクトに一体化するという目的は達成した。しかし,固定しやすいように奥まった位置に取り付けるようにしたため,横位置であれば問題なく撮影できるが,縦位置にすると取枠をはめられないという失敗作であった。

ピント板を横位置に置いたときは問題ないが,縦位置に置くと取枠をはめられない。

いま,呉市立美術館では特別展「明和電機 ナンセンスファクトリー展 in 呉」が開催されている(*1)。展示では,明和電機が開発したさまざまな装置の展示やデモンストレーションのほかか,その背景の説明がおこなわれていた。会場では順路としてまず,土佐信道氏が中学生や高校生のころに描いた絵などを見ることができるようになっている。不安定だった心情を反映しているとされている,それらのシュールレアリスム的な絵を見ていると,なんとなくマネをしたくなってくる。実際にはとてもマネなどできるはずもないのだが,あえて表現すれば,なにか創作をしたくなるのである(そのような意欲をかきたてるために,定期的に「広島市現代美術館」に通っていた時期もあった)。今日も,せっかく呉まで出かけたことだし,展示を見終わったらいろいろと写真を撮ってみようと考えていた。
 しかし,展示の多くを占めるのは,そのような絵ではない。不思議な形をした装置であり,しかもその装置は動くのである。気分は「写真を撮りたい」というよりも,「なにかをつくりたい」というものに変化していった。自分のことながら,いつも影響を受けやすいというか,あるいは,じつに単純であるとでもいうべきか。

ともかく,暗箱の後部のアダプタをつくりなおす必要があることを思い出した。今日は,この工作をすることにしよう。
 方針としては,「後部の高さをそろえ,その上にピント板を固定する」ようにして,ピント板を横位置に置いても縦位置に置いても,取枠の使用にさしつかえないようにすることである。
 後枠に組み合わされていたピントガラスの枠は,厚みがおよそ20mmあった。後枠の下部は10mm幅の溝になっていて,そこにはめこむようになっている。したがって,厚さ10mmの板を組み合わせると,工作が楽であると思われた。

厚さ10oの板をはめ込めるようになっている。

使おうと考えているピント板の厚みは3mmなので,厚さ3mmの板で四隅を固定できるようにする。

厚さ3oの板でピント板を固定する。

上から金属の板をおろせば,ピント板を固定できる。
 これで,カビネ判の取枠を,縦位置でも横位置でも使えるようになる。

木ネジで止めたステンレスの小片をさげるとピント板を固定できる。

横位置でなら使えていたので,急いでいるわけではなかった。それで,なんとなく億劫に感じていた工作だが,展示を見に行ったことがちょうどよい刺激になってくれたようである。曇りがちだったことも,写真を撮るより工作をしたいという気持ちを後押ししたものと思われる。

*1 特別展「明和電機 ナンセンスファクトリー展 in 呉」 (呉市立美術館)
https://www.kure-bi.jp/?cn=100887


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