撮影日記


2016年03月10日(木) 天気:曇

うっくっく こんなこともあろうかと…
専用プレーヤが日の目を見た

いつ,誰が言い出したのかは知らないが,「銀塩カメラ」という言葉がある。フィルムに像を固定するしくみの基本として,銀の化合物の性質を利用していることから,このような表現が考えられたのであろう。この表現に対する賛否をいろいろ耳にすることがあるものの,ディジタルカメラに対してフィルムを使うカメラを示すときによく使われている。
 フィルムを使うカメラを示すために,「アナログカメラ」という言葉が使われることも散見される。フィルムにおける化学変化は離散的なものではなく連続的なものだということでアナログと表現しているのかもしれないが,大半の人はごく単純に「ディジタルじゃないからアナログだ」という発想から使っているように思う。

私は,フィルムを使うカメラのことを「銀塩カメラ」や「アナログカメラ」とよびたくない。
 「カメラ」は,「カメラ」である。

ディジタルカメラが一般に知られるようになるより前,スチルビデオカメラとよばれるものがあった。スチルビデオカメラは,フィルムに塗られた物質の化学変化によるものではなく,電気信号の変化によって画像を記録する。そういう面では,ディジタルカメラと同じように思われるかもしれないが,スチルビデオカメラはディジタルカメラではない。スチルビデオカメラは,VHSやVideo8などのビデオカメラと同様に,アナログの電気信号として画像を記録している。
 このようなカメラが存在する以上は,「アナログカメラ」という言葉を,フィルムを使うカメラだけを示すために使ってはいけない。
 フィルムを使うカメラを「銀塩カメラ」とよぶことは私が主観的に「嫌い」なだけであるが,「アナログカメラ」とよぶことは客観的に「不適切」なことである。
 では,フィルムを使うカメラを示すには,どういう言葉を使えばよいか。「フィルムカメラ」だと,フィルム状のぺらっぺらなカメラのように思える。また,「フィルムカメラ」と「乾板カメラ」と「湿板カメラ」と「銀板カメラ」などとを,区別しなければならなくなりそうだが,それもまた意味のなさそうなことである。
 やはり,「カメラ」は「カメラ」であって,とくにディジタル記録されるカメラを示したいときだけ「ディジタルカメラ」という言葉を使うようにするのが正しいのではないだろうか。まあ,そうはいっても現状は,「カメラ」のなかに「ディジタルカメラ」があるのではなく,「カメラ」のなかに「フィルムカメラ」がある,という関係になっている。
 もしも記録媒体にこだわって「フィルムカメラ」とよぶならば,それに対する表現は,フジが初期のディジタルカメラに対して使っていた「ディジタルカードカメラ」というのが,案外と正確なところをついているように思える。

今のところは,「フィルムカメラ」と「ディジタルカメラ」というよびかたが,無難な落としどころであろう。

「電源が入りません」というジャンク品として入手した2台のスチルビデオカメラ(2016年2月28日の日記を参照)は,期待通り,電源部分を軽く直すことで動作するようになった。電池ボックスにダメージの見られなかったSONY MVC-A10は,バッテリーパックを改造してCR2型電池を使えるようにすることで(2016年2月29日の日記を参照),電池ボックスに重大なダメージが見られたSONY MVC-C1は,電池ボックス内の配線を改造してCR123A型電池を使えるようにすることで(2016年3月1日の日記を参照),それぞれ動作するようになった。
 スチルビデオカメラで撮影した画像は,テレビに映しだすことができる。また,画像を記録した2インチビデオフロッピーは,画像を消去して別の撮影に使うこともできる。だが,これら2機種には,撮影機能しかない。撮影したデータを再生したり,不要なコマを消去したりするには,再生アダプタMAP-T1に接続する必要がある。

ところが,この再生アダプタMAP-T1の動作がおかしい。画像の消去はできるのだが,映像信号が出力されない。これでは,MVC-C1やMVC-A10が正常に撮影できているのかどうか,確認することができない。

そこで,こんなこともあろうかと,あらかじめ確保しておいた装置の出番となる。

フジから発売されていた,テレビフォトプレーヤである。
 フジは,1984年10月に「フジックステレビフォトシステム」を発表した(*1)。その内容は,「カラープリントや撮影されたカラーネガフィルムからビデオフロッピーに録画し,再生機“フジックス テレビ・フォトプレーヤー”でテレビに映し出すシステム」(*2)というものである。そしてこれが,そのシステムのさいしょの製品となる,「フジックス テレビ・フォトプレーヤ P3」である。日本カメラショー「カメラ総合カタログ」でも,1986年版から掲載が見られる。「カメラ総合カタログ Vol.85」(1986年)では,「将来,電子スチルカメラで撮影したフロッピーも再生できます。」という記述が見られ,近いうちにスチルビデオカメラが発売されることが予告されていた(下の画像参照)。翌年にはプレーヤのラインアップも増えており,「カメラ総合カタログ Vo.89」(1987年)では,FUJIX TV-PHOTO PLAYER P3について,「TV-フォトの第一号機」という表現も見られる。

さいしょの製品なのに,型番が「1」ではなく「3」になっている理由は,知らない。

スチルビデオの基本仕様は,電子スチルカメラ懇談会において1984年5月にまとめられた(*3)。1984年のロサンゼルスオリンピックの報道において実用化テストがおこなわれ,フジが発表した先述のフジックステレビフォトシステムは,1985年4月からサービスが提供されはじめるとのことである。
 2インチビデオフロッピーに記録できるスチルビデオカメラは,1988年のSONY MVC-C1やCanon RC-250の発売を待たねばならない。それ以前には,Canon RC-701が1986年に,MINOLTA α-7000/α-9000用のスチルビデオバックSB-70/SB-90が1987年に発売されているが,いずれも高価なものであり,一般の人が気軽に購入できるものではなかった。

さて,FUJIX TV-PHOTO PLAYER P3は,2インチビデオフロッピーに記録された画像を選択し,テレビに表示することができる。機能としては,基本的にそれだけである。写真店でプリントやネガフィルムから2インチビデオフロッピーに記録してもらい,それを映し出すだけの装置である。いわば,スライドプロジェクタと同じ位置づけだ。
 FUJIX TV-PHOTO PLAYER P3からの出力は,アナログのビデオ信号のみである。テレビに映しだすことが目的の装置だから,それでじゅうぶんである。しかし今の私は,撮影した画像をパソコンに取りこみたい。そこで,FUJIX TV-PHOTO PLAYER P3の出力を,ミニDVカメラSONY DCR-TRV33Kで録画して,そこからパソコンに取りこむことにした。古い装置を使うのは,なにかと面倒なのである。
 その結果,SONY MVC-A10は,ほぼ正常に撮影できていることが確認できた。

SONY MVC-A10

ピンボケ気味であるが,本来は1.5m以上離れて撮ることになっているので,これは被写体が近すぎることが問題なのかもしれない。

それに対してSONY MVC-C1は,残念ながら正常に撮影できないようだ。

SONY MVC-C1

ともあれ,これだけ手間がかかってもこのくらいの画質であれば,大きな普及にいたらなかったのも納得できる。もちろん,画像を扱いやすいパソコンの普及がまだだったというのも,スチルビデオカメラが普及しなかった原因の1つなのは間違いないと思う。

*1 富士フイルムのあゆみ−1980年 (富士フイルム株式会社)
https://www.fujifilm.co.jp/history/f1980.html

*2 富士フイルムのあゆみ−創立50周年を迎える (富士フイルム株式会社)
https://www.fujifilm.co.jp/history/dai5-16.html

*3 電子スチルカメラ懇談会の活動とビデオフロッピー規格 (水島昌洋)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/itej1978/39/9/39_9_756/_pdf


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