撮影日記


2014年7月4日(金) 天気:くもり一時あめ

パノラマカメラはいつ出現したの?

先日の「パノラマ写真の日」には,ニコン「F70D Panorama」で写真を撮った。ニコンの一眼レフカメラで「パノラマモード」のあるものは「F50D」「F60D」「F70D」の3機種しかなく,このうち「F50D」(これは未入手である)と「F60D」はいわゆるエントリーモデルで,マニュアルフォーカスレンズで露出計が使えないなど,機能的に制約が大きい。それに対し「F70D」は中級モデルであり,マニュアルフォーカスレンズでも露出計が使えたり,AF-Sレンズでオートフォーカス撮影ができるなど,機能が充実している。言い換えれば,「F70D」はパノラマモードのあるニコンの一眼レフのなかで,もっとも多機能なものである。なお,これ以降のニコンの一眼レフにはパノラマモードが搭載されなくなり,エントリーモデルのニコン「U」でもAF-Sレンズに対応したり,中級モデルの「F80D」「F80S」でもマニュアルフォーカスレンズで露出計が使えなくなるなど,事情は変化していく。
 パノラマモードはこの時代の流行だったようで,当然ながらニコン以外の一眼レフカメラにもパノラマモードが搭載されている。

パノラマモードのある一眼レフカメラ
年(巻)キヤノンミノルタペンタックスニコンオリンパス
1992年
(vol.105)
EOS1000Sパノラマ        
1993年
(vol.106)
EOS1000Sパノラマ α-7xiパノラマ
α-5xiパノラマ
α-3xiパノラマ
     
1994年
(vol.108)
EOS100パノラマ
EOS kiss
α-7xiパノラマ
α-5xiパノラマ
α-3xiパノラマ
α-707si
α-303si
Z-20P
Z-50P
F50Dパノラマ  
1995年
(vol.110)
EOS100パノラマ
EOS kiss
α-5xiパノラマ
α-3xiパノラマ
α-707si
α-507si
α-303si
Z-20P
Z-50P
F70Dパノラマ
F50Dパノラマ
L-10パノラマ
1996年
(vol.111)
EOS55
EOS kiss
α-707si
α-507si
α-303si super
α-303si
α-101si
MZ-5
Z-70P
F70Dパノラマ
F50Dパノラマ
L-10スーパー
1997年
(vol.113)
EOS55
NEW EOS kiss
EOS kiss
α-707si
α-507si
α-303si super
α-303si
α-101si
MZ-5
MZ-10
F70Dパノラマ
F50Dパノラマ
L-10スーパー
1998年
(vol.114)
EOS55
NEW EOS kiss
EOS kiss
α-807si
α-507si
α-Sweet
α-303si super
α-303si
α-101si
MZ-3
MZ-5
MZ-10
F70Dパノラマ
F50Dパノラマ
L-20
1999年
(vol.115)
EOS55
EOS kiss III
α-807si
α-507si
α-Sweet
α-Sweet S
α-303si
α-101si
MZ-3
MZ-5
MZ-10
F70Dパノラマ
F60Dパノラマ
L-20
L-30
2000年
(vol.116)
EOS55
EOS kiss III
NEW EOS kiss
α-807si
α-Sweet
α-Sweet S
α-360si
MZ-3
MZ-5
MZ-7
MZ-10
F60Dパノラマ L-20
L-30
2001年
(vol.117)
EOS55
EOS kiss III
NEW EOS kiss
α-807si
α-Sweet
α-Sweet S
α-360si
MZ-3
MZ-5N
MZ-7
MZ-10
  L-30
2002年
(vol.118)
EOS55
EOS kiss IIIL
NEW EOS kiss
α-807si
α-Sweet II
α-Sweet
α-Sweet S
α-360si
MZ-3
MZ-5N
  L-30
2003年
(vol.119)
EOS kiss IIIL α-Sweet II MZ-3
MZ-5N
  L-30
2004年
(vol.120)
    MZ-3    
2005年
(vol.121)
    MZ-3    

日本カメラショー「カメラ総合カタログ」では,必ずしもパノラマモードの有無が記載されているとは限らない。そのため,上記の表には漏れが含まれているかもしれないので,お気づきの方はお知らせいただきたい。それは,パノラマモードがそれほどセールスポイントにならなかったのではないか?ということを物語っているとも言えるだろう。また,上位モデルにはあまり搭載されず,そして2000年代に入ると一眼レフカメラの新製品にパノラマモードが搭載されなくなっていく。1990年代後半だけに見られた,まさに一過性の流行だったわけだ。

ところで,最初にパノラマモードを搭載したカメラは,いつ,どこから発売されたのだろうか?
 日本カメラショー「カメラ総合カタログ」を参照すれば,「世界初のパノラマモード搭載」などと謳われている製品がすぐに見つかるだろうと思った。しかし,世の中はそんなに単純なものではないようだ。また,機能があっても大きく扱っていないものもあり,1つ1つの製品の説明などをちゃんと読まないと判別できない。ともあれ,説明文において最初に「パノラマモード」の記述がなされたカメラは,どうやらvol.98(1990年)に掲載されているフジ「HD-Pパノラマ」のようである。

▲HD-Pパノラマ

「狙ったシーンをワイドに伝えるパノラマモード撮影と標準モード撮影が両方楽しめる…」
(日本カメラショー「カメラ総合カタログ」vol.98,1990年)

しかし,その前年版(vol.94,1989年)に掲載されているコニカ「現場監督」には,「パノラマモード」こそないものの,ファインダーにパノラマ撮影に便利なマークが入っているという記述がある。

▲コニカ現場監督

「…パノラマ撮影を容易にするパノラママーク入りファインダーの採用など…」
(日本カメラショー「カメラ総合カタログ」vol.94,1989年)

このことから,カメラに「パノラマモード」が設けられるよりも先に,DPEサービスにおいて「パノラマプリント」が用意されるようになったことがうかがえる。このあたりの経緯は,たとえば富士フイルムのWebサイト等を参照しても明確な情報が見あたらず,今のところはっきりとわからない。
 ところで,「写真用品&映像ショー」のカタログを参照すると,1989年版(No.19-II)にはパノラマ判に対応したポケットアルバムやフレームの記載は見つからないが,1990年版(No.20)ではパノラマ判用フレームが,KING(浅沼商会)とコニカから発売されているのが見つかる。だからパノラマ判のプリントサービスがはじまったのはこの頃で間違いないとは思うものの,そのことを直接に示す記載等は,やはり見あたらない。


▲ノビオパノラマフォトスタンド((株)浅沼商会)

▲木製額縁 家族(コニカ販売株式会社)
(「写真用品&映像ショーカタログ」vol.20,1990年)

カタログ上はあまり目立たずに登場したパノラマモードだが,1991年に突然,目立ちはじめることになる。この年に発売されたオリンパス「IZM220 パノラマズーム クォーツデート」は,世界初となるパノラマ切替機能を搭載したカメラ(*1)を謳っていたのだ。

▲オリンパス IZM220 パノラマズーム クォーツデート

「世界初,“標準”と“パノラマ”がワンタッチで途中切り替え可能。ファインダーも連動して切り替わるので,…」
(日本カメラショー「カメラ総合カタログ」vol.103,1992年)

「パノラマ切り替え機能」とは,1本のフィルムを使用しているときに,あるコマは通常のライカ判で,あるコマは天地をマスクしたパノラマ判で撮影できるようになる,という機能である。IZM220は,これをレバー操作だけで簡単にできるようにした,ということだ。ということは,これ以前のカメラでは,1本のフィルムでライカ判とパノラマ判とを切り替えることができなかった,ということである。実際に「パノラマモード」があると謳いながらも,付属のあるいは別売のパノラマアダプタをはめこんで使うようなものも多く存在した。また,レバーで切り替えるようになっているものであっても,裏蓋を開けてフィルムを装填するときに切り替えをおこなわなければならないようになっていたのである。このほか,1990年4月にはフジ「写ルンですパノラミックHi」が発売され,ミノルタ「P's」やフジ「パノラマカルディア」などのような,パノラマモード専用のカメラも発売されていた。
 APS(アドバンストフォトシステム)の登場時が,「パノラマモード」の最盛期だったかもしれない。その後,APSフィルム(IX240カートリッジフィルム)の販売終了とともに,「パノラマモード」は忘却の彼方へと旅立っていったようだ。,おそらく最後の35mmコンパクトカメラと思われる「GOKO マクロマックス MAC-10 Z3200」には,パノラマモードは用意されていない。


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