撮影日記


2014年6月27日(金) 天気:くもり

ほぼ絶滅したと思っていたが
35mmフィルムコンパクトカメラはまだ新品で買える!?

今日は,八百富写真機店の大阪駅中央店のジャンク品コーナーから,こんなカメラを救出した。

GOKOの「MacromaX FR-350」だ。
 「マクロマックス」シリーズは,接写に特化したコンパクトカメラのシリーズである。
 「接写」とは,被写体に接近して撮影することを指す。コンパクトカメラでは,最短撮影距離が1mくらいになっていることが多い。それより接近してもピント調整が厳密におこなえないことが,その大きな理由の1つになるだろう。「マクロマックス」シリーズは,「十分に絞りこんで」「至近距離からフラッシュ撮影する」ことで,ピンボケとカメラブレとを防ぎ,実用的な接写をおこなえるようにしたものである。この工夫がおもしろいので,安価に見つかれば保護したいと考えていたカメラである。

「MacromaX FR-350」のピント調整は3段階になっているが,基本的には固定焦点のカメラである。
 「ノーマルモード」では,ピントのあう範囲は1mから∞ということになっている。搭載されたレンズは31mm F6.7なので,被写界深度にじゅうぶんに収まっているとは言い難いが,3mないし5mくらい離れてふつうに記念写真を撮るときには,大きな支障はないであろう。
 「スーパーマクロモード」は,0.3mから1mの範囲にピントがあうということになっている。レバーで切り替えることによって,鏡銅が繰り出し,レンズのなかに絞り板が出てくる。かなり絞ることで,被写界深度を稼ぐわけだ。
 さらに「ウルトラマクロモード」にすると,ピントがあう範囲が0.1mから0.3mの範囲になる。鏡銅がさらに繰り出して,さらに口径の小さな絞り板が出てくるようになっている。この「ウルトラマクロモード」こそが,「MacromaX」のセールスポイントだ。

ファインダー内には,「N」「S」「U」という3つの指標が見える。それぞれ「ノーマルモード」「スーパーマクロモード」「ウルトラマクロモード」のときの,撮影範囲の中心を示している。このことからじゅうぶんに想像できることは,実際にマクロ撮影するときには,ファインダーはあまり役に立たないだろうことである(笑)。本来は「10cm接写用フレーム」が付属しているので,少なくとも「ウルトラマクロモード」での撮影には,それを使うべきだろう。今回は残念ながら,それが入手できていない。

「GOKO」というブランドが「日本カメラショー」「写真用品ショー」カタログに登場したのは,1970年代である。「写真用品総合カタログ No.2」(1972年)には「GOKO」の掲載はないが,「写真用品総合カタログ No.4」(1974年)には掲載がある。「G/Tカラー(株)」という名称で,GOKOブランド製品を扱っている。このときに掲載されているものは,カラー現像セットや8ミリフィルム編集機だが,8ミリフィルム編集機がこの後のGOKOの主力商品になる。だがよく知られているように,家庭用ビデオカメラの登場によって8ミリフィルムの市場は一気に縮小する。
 8ミリフィルム関係を主力にしていた企業の場合,そのままカメラ業界から姿を消す(あるいは完全に姿を消す)ところもあったようだが,GOKOは違った。「写真用品ショーカタログ No.14」(1984年)では,「UF2」という廉価版カメラが新製品として登場し,この後の主力商品は廉価版カメラへと変わっていく。「UF2」の「UF」は,「ユニバーサルフォーカス」という機構を特徴とする。GOKOが言う「ユニバーサルフォーカス」とは,要は固定焦点なのだが,フラッシュを使わない通常の撮影ではやや遠方に,フラッシュ撮影時にはやや近距離に,ピントの中心を置くようにしているもののようだ。フラッシュ撮影時はフラッシュ光の届く5mより手前に被写体があるわけだから,ピント位置をやや近距離に置くのは合理的な判断だ。こうすることで,オートフォーカスなどの複雑な機構を使わず,簡単な操作でピントの精度を高めようという工夫であると言える。
 「マクロマックス」シリーズの「スーパーマクロ機構」や「ウルトラマクロ機構」は,この機構をさらに発展させたものと言えるだろう。

GOKOがその主力を,「8ミリフィルム編集機」から「廉価版カメラ」へ移すあたりの経緯については,GOKOのWebサイト(*1)の記述がおもしろいから参照するとよい。現在のGOKOはさらに,フィルムカメラから医療機器や農業分野へ,主力を移しているとのことだ。そんなGOKOは,まだ新品の35oフィルム用コンパクトカメラを発売している。「MacromaX FR-350」の仕様等を確認するために,GOKOのWebサイトを眺めていて気がついた(*2)。「MacromaX MAC-10 Z3200」という,3.2倍ズームレンズを内蔵したオートフォーカスコンパクトカメラである。「マクロマックス」シリーズだから,当然,「ウルトラマクロモード」も用意されている。直販専用という扱いになっているが,19800円というお手頃な価格で,じゅうぶんに実用になりそうな仕様だ。
 富士フイルムが,35mmフィルムを使うコンパクトカメラ「KLASSE」シリーズの発売を,ひそかに終了していた。もう,新品のフィルムカメラを発売しているのは,ニコンとロモグラフィくらいしか残っていないのではないだろうかと思っていた。ニコンが発売しているフィルムカメラは「一眼レフカメラ」だけだし,ロモグラフィのカメラは「トイカメラ」的なもので,どちらもマニアなどではない人がふつうに使うカメラとは言い難い。それに対して,「MacromaX MAC-10 Z3200」はふつうの人が使うズームコンパクトカメラである。「デジタルではなく35ミリフィルムにて撮影・保存する必要のある方にもご愛用いただいています。」という説明文には,なんとなく泣けてくるではないか。
 「KLASSE」を最後に,ほぼ絶滅してしまったと思っていた35oフィルムカメラが,まだこんなところでひっそりと発売されていたことに,ちょっとだけ安堵している私であった。

今回,「MacromaX FR-350」を救出した八百富写真機店の大阪駅中央店は,いつもジャンクカメラが豊富にあるので,立ち寄るのが楽しいお店である。しかも,21時まで開いている。仕事を終えて広島駅から新幹線に駆けこめば,じゅうぶんに間に合う。
 新幹線に乗ったのは,八百富写真機店に行くためではなく,翌日の仕事のためである。ほんとうは,八百富写真機店には翌日の午前中に立ち寄るつもりだったのだが,営業時間内に間に合うとなれば,やはり立ち寄りたくなるものである(笑)。
 八百富写真機店に立ち寄るなら,「EX-IC」(ネット予約で乗車する新幹線のICカード)ではなく,「e特急券」(ネット予約し乗車直前に受け取る特急券)と普通乗車券の組み合わせで乗るのがよい。「EX-IC」の場合は9140円だが「広島駅から新大阪駅まで」しか乗車できない。一方,「e特急券」+普通乗車券なら合計9250円だが「広島市内の駅から大阪市内の駅まで」乗車できる。「EX-IC」のほうが110円安いのだが,新大阪駅から大阪駅までの運賃160円が別途必要になるので,かえって50円高くなるのだ。
 そんな細かい金額を気にするよりも,いちいち切符を受け取らなくてもよい便利さから「EX-IC」を使っている人が多いとは思うけれど。

*1 沿革 (GOKOグループ)
http://www.goko.co.jp/history/

*2 MacromaX MAC-10 Z3200 (GOKOカメラ株式会社 映像事業部)
http://www.goko.co.jp/camera/compact/z3200.html


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