撮影日記


2023年09月23日(土) 天気:晴

動作しないのは接点のゆがみ

AF RIKENON 50mm F2というレンズは,おそらく世界ではじめて市販された,一眼レフカメラ用のオートフォーカスレンズである。このレンズは,被写体までの距離を測定する機能とレンズのピントリングを動かす機能をもっているKマウント用のレンズなので,多くのKマウントの一眼レフカメラに装着することで,オートフォーカス撮影ができるようになる。このレンズと組み合わせて発売された,RICOH XR6「スクープアイ」のセットを,世界ではじめて市販されたオートフォーカスの35mm判一眼レフカメラであるとみなしてよいだろう(2023年6月22日の日記を参照)。

このレンズでのオートフォーカスの動作は,カメラの動作とは独立している。レンズの電源スイッチをONにして,側面の測距ボタンを押すと,被写体までの距離を測定し,それに応じた位置にピントリングを動かすようになっている。レンズの正面上部には,被写体までの距離を測定するための窓がある。測距ボタンを押すと,カチッと小さな機械が動く音がする。そして,向かって左側の窓のなかで,小さな部品が動いているのが見える。よくある二重像合致式の距離計のようにミラーが動くことで,三角測量のようなことがおこなわれ,センサでピントが合致する距離を読み取っているようである。

40年以上前の電気製品だから,もしかしたら動作しなくなっているかもしれないと思いながら入手したが,入手してしばらくは,ときどき動かなくなることがありながらも,このレンズはおおむね順調に動作していた。しかし,突然,まったく測距をおこなわなくなった。このレンズは,電源スイッチをONにしているときに測距ボタンを押していないと,ピントリングが無限遠の位置に戻るようになっている。ピントリングを適当に動かしてから電源スイッチをONにすると,ピントリングが無限遠の位置に戻るので,電源回路やモーターなどには異常がないと考えられた。
 一方で,測距ボタンを押したときの,カチッという音が聞こえなくなっていた。測距ボタンから連動する機構に,なんらかの異常が発生しているようである。単純な機構のトラブルだろうと見当をつけ,まずは内部の状態を観察してみることにした。

背面にある2本,上面にある2本,あわせて4本のネジをはずすと,本体の前部をはずすことができる。すると,問題点は一目でわかった。測距ボタンを押すことに伴って動くようになっている部品がなぜか上向きに曲がってしまっており,そのためにひっかかって動かなくなっていたのである。

測距ボタンを押していないときにこの下の空間に収まっているべき部品が,上に曲がってひっかかっていた。(画像は修復後)

ひっかかっていたところから離しても,接点部分は基板から浮いたままであり,またすぐに同じところにひっかかってしまう。だからこの部品を曲げて,元どおりに基盤に接触するようにしたい。しかしこの部品は強い弾性があって,少し力をくわえた程度では変形してくれない。かといって,薄い金属なので,無理になんども曲げたり伸ばしたりをしていると,破断してしまいそうである。そこで慎重に逆方向に曲げて,そのあとは洗濯ばさみを利用して押さえつけるようにした。そして数日間,そのまま放置しておいたところようやく,接点が元のように接触するようになってくれた。ただし無理に変形させたので,本来の精度は失われていると思われる。

本来の状態であれば,測距ボタンを押すと距離計部のミラーが動くと同時に,1の部品が(右から左へ)動く。そして,センサーに一定の信号が入ったときに,2の接点がどこに接触しているかで距離が決まり,それに応じてレンズを駆動するようになっていると考えられる。

だから,基板上にある接点の数が,このレンズでのオートフォーカスの段階数になると考えられる。数えてみると接点が18個あるので,オートフォーカスでの最短撮影距離である1.0mから無限遠までを18段階に判定し,それに応じてピントをあわせられるようになっていることになる。もし誤って計測したときには誤った位置へ迷いなくピントリングを回し,距離を判定できなかったときは測距不能として動かない。このようなしくみのため,ピントの位置を判断できなくて「ピントリングが迷う」ような動作をすることがない。測距を誤ったかどうかは,ファインダーの像を見ればすぐにわかる(わからない場合は,ピントがあっているか,少しずれていたとしても許容範囲内であろう)ので,そのようなときは測距ボタンを押しなおせばよい。
 このレンズは一眼レフカメラ用のオートフォーカスレンズとしてはじめて製品化されたもので,発展途上にあるわけだが,システムとしての使い心地は意外と実用的である。このしくみを見ると,それもうなずけるというものだ。


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