撮影日記


2023年09月12日(火) 天気:晴

分解しやすいのが組み立てやすいとはかぎらない

オートフォーカスの一眼レフカメラが一般化してから,交換レンズに見られるようになった変化の1つに,「無限遠が浮いている」などと表現されるものがある。繰り出し式のレンズを使うカメラでは,交換レンズの繰り出しをいちばん短くしたときにピントが無限遠にあうようになっていた。遠方にピントをあわせるときには,ピントリングを(最短撮影距離とは反対側に)いっぱいまで,なにも考えずに回しておけばよかったのである。

しかし,オートフォーカスの一眼レフカメラ用の交換レンズでは,必ずしもそうではないものが少なくない。レンズをいっぱいまで回すと,無限遠のピント位置を通りすぎてしまう場合もある。このことが「無限遠が浮いている」と表現されているのである。

このことは,レンズをマニュアルフォーカスで使うときには,歓迎できないものである。近いものを撮る場合は,被写体が大きく見えるし,わずかにピントリングを動かすだけでもピントの状態が大きく変わるので,ピントをあわせやすい。しかし遠くのものを撮る場合は,被写体が大きく見えないし,ピントリングをかなり動かしてもピントがあった位置が見えにくい場合がある。とくに,標準レンズよりも広角側のレンズを使う場合で,開放F値があまり明るいものではないレンズを使うときには,被写界深度が深くなることもあって,遠方のピントが確認しににくいものになる。遠方の被写体を広角レンズで撮る場合には,少し絞りこんで無限遠にあわせておく,という撮り方をやりにくいのである。
 オートフォーカスの一眼レフカメラで使うことが前提であるから,無限遠が浮いていても実用上は問題ないということかもしれないが,たまにマニュアルフォーカスで使おうと思うととまどうことになる。たとえば,TAMRONの71Aという28-200mm F3.8-5.6というマニュアルフォーカスのレンズは交換マウント式になっているので,マウントアダプタを確保しておけば,いろいろなマウントのカメラに装着できる。標準レンズ以外の,広角レンズや望遠レンズを入手しにくいシステムのカメラを使いたいときでも,いちおう28mmの広角レンズから200mmの望遠レンズまでを確保できるのである。しかし先に書いたような事情から,28mm側を使うのはかなり難しいものになっている。

ニコンから発売された,初期のオートフォーカス用ズームレンズの1つ,AF Zoom-NIKKOR 35-135mm F3.5-4.5Sをいただいたが,カビが目立つ状態のものであった(2023年9月3日の日記を参照)。そこで,掃除のために分解することにした。
 まず,鏡胴先端部にある3つのネジを緩める。

この状態で前玉をおさえたまま,ピントリングや距離目盛と一体になっている鏡胴をひねると,その鏡胴が下に抜けるようになっている。そして,いちばん前のレンズ群を取り出すことができる。

いちばん前のレンズ群は,カニ目回しで前面のリングを回すことで分解でき,内側も清掃できるようになる。また,絞りよりも前側にあるレンズ群は,いちばん前のレンズ群をはずしたあとに,前側からカニ目回しで緩めてはずすことができる。そしてそれぞれ分解して,内側も清掃ができるようになる。
 絞りよりも後ろ側にあるレンズ群は,レンズマウント側からカニ目回しで緩めて取り出すことができる。これらも取り出したあとは,分解して清掃ができる。
 清掃したら,元通りに組み立てていく。カニ目回して緩めて取り出したレンズ群は,そのままはめなおせばよい。
 そしてさいごに,いちばん前のレンズ群をはめなおす。そして鏡胴を下からはめて,周囲のネジを締めれば元通り…に,ならないのである。すなおにはまる位置のままでは,ピントの位置と距離目盛とが大きくずれたままになる。
 だからといって,前群のレンズを回して無限遠にあわせた状態では,下からの鏡胴をかみあわせられない。

ここは次のような手順で組み立てる必要がある。
 まず,適当に鏡胴をかみあわせる。まだ,ネジを締めて固定をしない。
 つぎに,前群のレンズを動かして,ピントを無限遠にあわせる。このとき,鏡胴は動いてもかまわない。
 そして,こんどは,前群のレンズが動かないようにおさえながら,鏡胴を回して,距離目盛が無限遠になるようにあわせる。それから,鏡胴のまわりのネジを締めて固定する。

この方法では,精密にピントの位置を調整することは難しいかもしれない。しかし,大丈夫。組み立てたレンズは,「無限遠が浮いている」のである。少しくらい距離目盛がずれていても,実際にピントをあわせるのには,問題ないのである。組立が面倒なレンズであるが,そこは少しくらいいい加減でも,あまり問題はなさそうなのである。


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