撮影日記


2006年01月25日(水) 天気:晴

コダックの落ち着いた発表

全人類に大きな衝撃を与えた,ニコン様の重大発表から2週間が経過した。それにともなうかのように,カール・ツァイスおよびコシナ,コニカミノルタ,そして,富士フイルムから,相次いでさまざまな発表がなされた。それらの騒動が先週末でおさまって,ようやく静けさを取り戻したころ,ひそかに,コダックも1つの声明文を出していた。
 (http://wwwjp.kodak.com/JP/ja/corp/info_012406.shtml)
 その内容を一言で言えば,「需要がある限り,コダックは写真で商売を続けますよ。」というものである。
 先週末の富士フイルムの声明文と同様に,「もう,フィルムはなくなってしまうんじゃないか?」というユーザの動揺を鎮めるための声明文であろう。コダックや富士フイルムという,写真フィルムの大手メーカーが,ともに「まだまだフィルムを供給しますよ」という姿勢を示してくれたことは,たいへんありがたいことである。

しかし,富士フイルムの声明文と,コダックの声明文では,明らかにその姿勢が違う。コダックは,「市場に需要がある限り」という断り書きを入れているのに対し,富士フイルムはそのような断り書きを入れていない。まあ,断り書きがあろうとなかろうと,需要がなくなれば,メーカーは製造をやめてしまうだろうことは容易に想像がつくわけだが,その言葉が表明されているのといないのとでは,消費者として受け止める印象はずいぶんと違う。
 また,富士フイルムの声明文では,「写真文化を守り育てることが使命」という姿勢を見せているのに対し,コダックの声明文では,「写真業界を発展させていく」という姿勢を見せている。
 両者とも,同じようなことを考えているのだろうが,受け止める印象は,ずいぶんと違う。富士フイルムの方は,商売抜きで写真という文化を支えるためにフィルムを供給し続けます!という態度を取っているように見えるのに対して,コダックの方は,まだまだ商売ができる状況だからフィルムを供給するよ,という態度に見えるのである。「需要がある限り」ということばが示すように,需要がある程度以下に減ったら,ドライに撤退してしまうのかもしれない,という不安を,かえって煽っているような気もするのである。
 もっとも,よく考えてみれば,両者ともに営利企業であるならば,コダックの声明文に示されている態度の方が,ごく自然なものであろう。ここは,富士フイルムの声明文のテンションが高すぎる,と感じるべきことなのかもしれない。

そんな富士フイルムにしても,「大幅な構造改革を」すすめているわけで,市場の動向によっては,フィルムのラインアップが大幅に整理されてしまうことだって,十分にありえることだろう。そんなとき,「写真文化を守るんじゃなかったのか!?」という批判が出るかもしれない。コダックの声明文は,そういう批判を避けるというところまで想定してのものではないか,と勘ぐりたくなってしまうのである。今のところ私としては,富士フイルムの声明文を額面どおりに受け取って,今後の展開に期待したいところである。

ところで,コダックのフィルムをおもに使用する私としては,コダックがいつ,フィルムのラインアップの整理を発表するだろうかと,不安な日々を過ごしている(大げさか)。たとえば,コダクロームのシリーズは少しずつラインアップを減らしてきた。これは,現在世界で唯一の「外式」とよばれるタイプのカラーポジフィルムで,現像工程が独特で複雑なものになっている。現像所はすでに集約されているので,少なくとも広島のような地方都市では,現像処理にある程度の日数がかかるのはしかたない状況だ。そのため,不便である。ディジタルカメラが普及しつつある現在においては,現像処理に何日もかかるようでは,不便きわまりないものに見える。そして,ユーザがさらに減っていき,現像所がさらに集約されて処理にさらに日数がかかるようになり,ユーザがますます減っていく・・・・という悪循環にいつ陥ってもおかしくないわけだ。それでもなお,使い続けられているのは,その独特の落ち着いた発色や,退色に強いといわれる保存性に大きな魅力があるからだろう。
 もっとも,私はコダクロームをほとんど使っていない。現像処理に日数がかかることと,すでに35mm判しか供給されていないためだ(価格が少々高いのは問題ではないのだが)。そのため,コダクロームのラインアップが減少してきたことについては,直接には影響を受けない。

コダックのカラーポジフィルムには,「外式」のコダクロームのほかに,「内式」のエクタクロームがある。現在では「内式」が一般的なカラーポジフィルムである。ところで,エクタクロームには2つの系統がある。「プロ用エクタクローム」という従来からのシリーズと,新しい「Eファミリー」と呼ばれるシリーズだ。「プロ用エクタクローム」は,「EPR」「EPN」「EPP」・・・などと,「EP」ではじまる記号がつけられている。「Eファミリー」は「E100GP」「E100VS」・・・などと「E100」(あるいは「E200」など感度をあらわす数値)ではじまる記号がつけられている。これらのしくみの違いなどの詳細は知らないが,使った印象として,発色傾向が違うように思われる。傾向としては,「プロ用エクタクローム」は落ち着いた色で透明感があり,「E100ファミリー」は透明感が少ないが鮮やかだ,という印象を感じている。
 ところで,市場では,富士フイルムの「ベルビア」など,彩度が高いとされるフィルムの人気が高い。極めて不自然ながらも実際以上に鮮やかに見える発色と,微粒子という性質が,人気の理由の1つのようだ。「Eファミリー」は,「プロ用エクタクローム」に,ややそういう傾向を持たせるように改良したものに見える。販売店でも,あまり大きくないところでは,コダックのカラーポジフィルムは店頭においてないか,あったとしても「Eファミリー」の一部だけということが多い。
 ときどき,コダックのサイトを見てみるのだが,製品紹介のコンテンツでは,「Eファミリー」が前面に出されて紹介されている。一方,「プロ用コダクローム」は,そのコンテンツでは紹介が見あたらない。製品一覧のコンテンツを覗いて,はじめて,「プロ用コダクローム」の紹介を見つけることができる状態だ。まるで,人目につきにくいように,わざわざ隠されてしまっているかのようだ。そのため,「プロ用コダクローム」は,ある日,ひそかに製造・販売を終了してしまうのではないだろうか,と懸念していたりするのである。

私がよく使うコダックのカラーポジフィルム。

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