撮影日記


2006年01月26日(木) 天気:曇

制度の変更があるところには
利益を得る者がある

今年も,「大学入試センター試験」(以下,センター試験)が終わった。
 私が受験したころは,「共通一次試験」とよばれ,国公立大学のほとんどすべての学部・学科と,ごくごくごくごく一部の私立大学だけが参加するものだった(私立大学は,たしか1校だけだったように思う)。
 さて,今年,センター試験にはまた1つ,大きな変化があった。英語の「リスニングテスト」の導入である。これまでの試験問題では,英語の「読み」「書き」の能力を測定することはできるものの,「話す」「聞く」などのコミュニケーション能力の測定ができなかった,とされてきた。日本人全体の,英語によるコミュニケーション能力の弱さにつながっている,という批判がそこにある。
 そこで,取り入れられたものが,リスニングテストである。英語での問いかけに対して,その回答を記入するような内容になっている。ところで,今年は55万人がセンター試験を受験した。この全員が,同じ条件でリスニングテストを受験できるように,「ICプレーヤ」が受験生に配られた。

大学入試センター試験リスニングテストで使われた「ICプレーヤ」

「ICプレーヤ」とは,半導体メモリを使ったメモリカードに記録された音声データを,音として再生するための装置である。「ICプレーヤ」を利用することで,受験会場の設備,スピーカー等の放送設備からの距離などの差がなく,公平に受験ができるとされている。各受験生が,それぞれ自分にとっての適正な音量で,イヤホンから聞こえてくる「問題」に回答していくようになっているのだから,たしかに受験条件は,現在考えられる範囲では十分に公平なものになっているといえるだろう。

ところで,この「ICプレーヤ」は,今年のセンター試験のリスニングテストの問題を聞く以外の用途には使えない。つまり,事実上の「使い捨て」である。もちろん「ICプレーヤ」の製造コストは0円ではないのだから,なにがしかの価値を捨てていることになる。そして,センター試験の受験料は,昨年よりも2000円ほど値上げされている。そういう点を考えれば,「ICプレーヤ」の利用は,大きな無駄にみえる。今年の,「ICプレーヤ」は「持ち帰り自由」だった。そして,これはもう使い道がない。そのため,「無駄なものを2000円という大金で買わされた」という感覚になってしまうのである。
 しかし,よく考えてみよう。試験問題だって,結局は「使い捨て」なのである。解答用紙だって,同じことだ。ペーパーテストは,もう長き年月にわたって同じようなスタイルでおこなわれてきたので,紙を「使い捨て」にしているという感覚がなくなっているだけなのである。英語のリスニングテストという「科目」が1つ増えたのだから,その分,受験料が値上がりするのは,やむをえない面がある。

さて,この「ICプレーヤ」は,少なくとも受験生の人数分,55万台は製造されたはずだ。受験料の値上がり分2000円が「ICプレーヤ」代だとすれば,2000(円)×55万=11億(円)のお金が動いたことになる。また,これをもし1社で独占的に受注したのだとすれば,その会社にとっては,おいしい話になり得るのではないだろうか。今後,仕様が大きく変更されなければ,毎年,新しく製造する分だけ利益を確保できることになるだろう(ただし,製造原価や開発にかかるコストについては,深く考えていないことをお断りしておく)。

ここで,結論。
 制度が大きく変わるときには,そこで大きな利益を得る者がどこかにいる。

などと,たいへん穿った見方をしてしまった理由は,この「ICプレーヤ」があまりにも役に立たないことが腹立たしいからであるに他ならない(笑)。


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