撮影日記


2023年04月30日(日) 天気:晴

謎のレンズ,トムソン・ブラザーズ

暗箱とセットで入手した古そうなレンズ(2023年4月29日の日記を参照)は,アプラナット型あるいはラビッド・レクチリニア型のものだと思われる。アプラナット型あるいはラピッド・レクチリニア型のレンズが主流だったのは,ペッツバールレンズよりも後で,アナスチグマットよりも前の時代とされる。たとえば「写真鏡玉」(藤井光蔵, 藤井竜蔵 著,浅沼商会,1908年)(*1)では,「第四期 スタインハイル氏時代則ち千八百六十五年より千八百八十六年に至る期間」に該当する。このレンズが,実際にアプラナット型あるいはラピッド・レクチリニア型のものであるとすれば,19世紀末ころのレンズである可能性が高いと考えられる。
 このレンズには,焦点距離や明るさを示す文字は刻まれていなかったが,製造者を示すと思われる文字は確認できる。
 その文字は,「Thomson brothers London 2024」と読むことができるものである。

「London」とあるからには,イギリス製ということだろう。少なくとも,イギリスの業者による製品ということである。そして,「2024」はシリアルナンバーだと思われる。
 ともかく,「Thomson brothers」という固有名詞らしき名称が刻まれているのだから,Webを検索すればなにか関係する情報が見つかるだろうと考えた。しかし,世の中はそんなに甘くないようである。まず,「トムソン・ブラザーズ」という名称は平凡なもののようで,同じ名前のいろいろな組織が見つかる。そして,それらのなかに,このレンズに関係しそうなものが見つからないのである。「トムソン・ブラザーズ」のレンズは,「ダルメイヤー」のレンズなどと違って,かなりマイナーな存在だったレンズのようである。それでも,同じ業者によると思われるレンズの画像を2つ見つけることはできた。それらはどちらも「THOMSON BROTHERS」とすべて大文字のブロック体で表記されており,シリアルナンバーらしき数字は「2820」と「3826」だったので,それなりの期間にわたってそれなりの数が供給されていたのだろうとは考えられる。

写真やカメラに関係しそうな「Thomson brothers」という単語をさがしていたところ,John Thomson氏のバイオグラフィのなかで「Thomson brothers」という単語が使われているのを見つけた。John Thomson氏は,19世紀後半に活動していた写真家である。とくに,清朝末期の町の写真を残していることなどが知られている。
 見つけたバイオグラフィ(*2)のなかではJohn Thomson氏の経歴として,1837年にエジンバラに生まれ,学校を修了した後に光学技術者のところで仕事をしたことになっている。どんな学校に何歳まで通っていたのかは,ここには記されていない。なお,イギリスで公教育制度が整ったのは1870年以降とのことであり,当時の学校制度などがどうなっていたのかはよくわからない。そして,1862年にシンガポールに渡り,時計職人の兄と「Thomson brothers」を興したということが示されている。
 John Thomson氏の経歴を紹介している別のWebサイト(*3)では,シンガポールを拠点に仕事をしたのち1872年にイギリスに帰ってロンドンに定住したとのことが示されている。ただし,イギリスでも「Thomson brothers」をやっていたのかどうかは,どちらのWebサイトにも書かれておらず,わからない。ただ,1872年以降であれば,アプラナット型あるいはラピッド・レクチリニア型のレンズの時代として整合している。
 John Thomson氏の写真家としての業績は,いろいろな書籍などでそれなりに紹介されているが,職人あるいは商人としての活動について詳細に語られている書籍などは,いまのところ見つけていない。その方面ではたいした仕事をしておらず,このレンズとの関係もないのかもしれない。
 さて,このたび入手した「Thomson brothers」のレンズとJohn Thomson氏は,なにか関係あるのだろうか。それとも,関係ないのだろうか。そしてこのレンズの製造された時期は,いつごろなのだろうか。19世紀中のものである可能性は高いと思うが,もう少し時期を絞り込み,それを確実なものにしたい。

*1 「写真鏡玉」(藤井光蔵, 藤井竜蔵 著,浅沼商会,1908年) (国立国会図書館デジタルコレクション)
https://dl.ndl.go.jp/pid/902527/1/74

*2 Biography (Through the Lens of John Thomson)
http://www.johnthomsonexhibition.org/biography/

*3 John_Thomson (Store norske leksikon)
https://snl.no/John_Thomson


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