撮影日記


2007年09月14日(金) 天気:曇ときどき晴

サモカはどこへ行った?

これは,うちに古くからあるスライドプロジェクタである。いつごろのものかは,わからないが,電動式フィルム送りの「オートマチック型」の高機能な製品である。そして,これの入手経緯については,「倒産したメーカー」の「試作品」が流出したものを安く入手したという「話」だけを聞いていた。
 さて,現在でも日本国内でよく流通しているスライドプロジェクタとしては,「CABIN」ブランドのものがあげられる。このスライドプロジェクタは,もちろん「CABIN」ブランドのものではない。長い間,「どうせ無名の知らないメーカーのものだろう」と気にとめることもなかったのだが,あるとき箱に「SAMOCA」と書いてあることに気がついた。「サモカ」といえば,さまざまなユニークなカメラで知られる「三栄産業」のブランドである。たしかに,消えてしまったメーカーではあるが,決して無名のメーカーではない。であれば,この製品が実際にはいつごろ売られていたものか,わかるのではないだろうか・・・・。
 「三栄産業」については,1960年代初め頃に消えたメーカーであるらしいことしか,私にはわかっていない。そこで,入手できたかぎりの古いカメラ雑誌等になにかのヒントが載っていないか,それらのページをめくってみることにした。

まず,日本国内で流通していた主要なカメラ・写真用品であれば,「日本カメラショー」の「カメラ総合カタログ」になんらかの広告を出していることが期待できる。まずは,最近入手したり貸していただいたりした,1960年版と1961年版の「カメラ総合カタログ」を見てみた。残念ながら,これらにはすでに「サモカ」や「三栄産業」の名称は見あたらなかった。
 その他「アサヒカメラ年鑑1961」,「写真工業」1960年12月号,「サンケイカメラ」1959年9月号,「アサヒカメラ年鑑1958」にも,「サモカ」や「三栄産業」の名称は見られないのである。この時代にはすでに廃業していたか,独自に広告を出すような活動をしなくなっていたのかもしれない。そしてようやく,「アサヒカメラ年鑑1957」に,「サモカフレックス35オートマット」や「ロマンスライド映写機F-500型」などの広告を見ることができた。
 さて,「アサヒカメラ年鑑1957」に掲載されていた広告には,スライドプロジェクタ「ロマンスライド」シリーズが掲載されている。つまり,「サモカ」はこのころすでに,スライドプロジェクタの製造販売をおこなっていたわけである。また,「ロマンスライドF-500」は手差し式のクラシカルなスライドプロジェクタであった。この後に電動式のより近代的なスライドプロジェクタを開発して販売しようと考えることは,まったく自然なことである。少なくとも,うちにある「サモカ スライドプロジェクタRC-300」型は,1957年よりは後の製品であることは間違いないだろう。

ところで,現在,スライドプロジェクタの代表的なメーカーといえる「キャビン工業」は,いつからスライドプロジェクタを製造販売していたのだろうか。「日本カメラショー」の「カメラ総合カタログ」では,現在でも見かけることのある名称であるが,1960年版および1961年版には,まだその名称は見られない。1962年版から1966年版は未入手なのでそのころの状況はわからないが,1967年版には「CABIN」の製品が存在していた。そのうち,「オートキャビン」という製品が,ちょうと「サモカRC-300」と似た機能をもった製品のようである。「オートキャビン」の説明のなかに「発売以来5年間」というフレーズがあることから,「オートキャビン」の発売は1962年ころであり,「キャビン工業」が活動を開始したのもその時期にあたると思われる。
 こういうとき,インターネットを参照してみよう。早速,キャビン工業のウェブサイト(*1)を参照してみる。すると,キャビン工業は2006年12月末をもって,その事業を別会社に譲渡した,と書いてあるではないか!しまった,間に合わなかったか!?落ちついて,その譲渡先である「ハインズテック株式会社」のウェブサイト(*2)を参照してみると,この会社は,日置電機株式会社とキャビン工業株式会社が合併したものであることがわかる。そこに記載されているキャビン工業株式会社の歴史をみると,「1950年 サンビーム光機設立」「1956年 社名をワルツフィルター製作所に変更」ということがわかる。昭和30年ころのカメラ雑誌等の広告でよく見かけた,写真用品の「ワルツ」が「キャビン」の前身であることを,初めて知ったのであった。そして,「1961年 社名をキャビン工業株式会社に変更」となったようである。
 1960年版の「カメラ総合カタログ」には,「ワルツ」は広告を出していた。しかし,そこに取り上げられている製品には「スライドプロジェクタ」は含まれていない。しかし,「キャビン工業」としてその翌年ないし翌々年あたりに,突如,高機能な「オートキャビン」を発売している。

ここからあとは,まったくの空想になるのだが・・・・
 「キャビン工業」は,末期の「サモカ」から,「試作品」が完成していた「サモカRC-300」を引き継いだのではないだろうか?そして,それをベースに「オートキャビン」が開発されたのではないだろうか?そして,ある程度は完成していた「サモカRC-300」がどこかのルートから流出した・・・・たとえば,「三栄産業」が廃業に伴う債務整理等の関係で,残っていた製品が市場に流され,換金された・・・・などの可能性は考えられないだろうか?
 「サモカ」と「キャビン」を結びつける直接の根拠はないのだが,時期的な面を含めて,妙に符合しているのである。
 また,「サモカRC-300」用スライドマガジンと「オートキャビン」のスライドマガジンの形状が似ているように思われることも,少し気になる。「サモカRC-300」用マガジンには24枚しかセットできないのに対し,「オートキャビン」用のマガジンは36枚セットできることから,直接,部品等が共用されているわけではなさそうだし,直進式スライドプロジェクタのマガジンは,必然的にこういう形になるものなのかもしれないが。

ちなみに,「サモカRC-300」がうちにやってきた正確な年代は,いまとなってはわからない。ただ,うちにある古い写真のなかにある数少ない「モノクロスライド」のなかに,「1964年1月」ころに撮影されたものがあることがわかっている。想像するに,当時,安価に高機能スライドプロジェクタを入手することができ,その機会にスライドをつくってみた,という状況が考えられる。すると,入手したのは1963年後半である可能性が高い。
 こういう点からも,時期的な符合が感じられるのである。

サモカキャビン
1957健在「ワルツ」として健在
1958広告が見られなくなる健在
1959広告が見られなくなる健在
1960このころ廃業?健在
1961すでに廃業?「ワルツ」が「キャビン」に社名変更
1962 「オートキャビン」発売
1963「サモカRC-300」を入手? 

※1 http://www.cabin-kogyo.co.jp/index.cfm/1,181,3,html

※2 http://www.hinstec.co.jp/company/history.html


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