撮影日記


1997年07月09日(水) 天気:あめ

ライカおやじを撃退

土曜日のスナップ会の,さらに続きを書こう。

日進堂カメラを出たあと,こんどは電車で平和記念公園へ向かった。平和記念公園に行く前,ついでにカメラのドイに立ち寄った。中古コーナーになにかおもしろいものがでていないか軽くチェックするためである。

店内に入ると,やや小太りのオヤジがショーケースの前につったっている。近くを通ると酒くさい。その横からショーケースの中を覗こうかなと思うと,突然,そのオヤジが話しかけてきた。

「何を探しているの?」

「いえ,別に目的はありませんけど」

酒くさいので,私は相手にする気はなかった。

「最近はどんなのが流行っているんかね」

「さあ,どうなんでしょ。」

何がいいたんだろう,このオヤジは,と思っていたら次にこう言った。

「国産品の寿命は5年くらいだってね」

ああ,きっとこのオヤジはライカを持っているんだな,で,それを自慢したいんだな,とピンときた。案の定,続けてこう言った。

「ぼくはM2とM6を持っているんだがね,レンズは3本あるよ」。

こんな場で,酒くさい息をしながら・・・・・と腹がたった。私の知るライカファンの1人は,「M4-P以降は,もうライカじゃない」ってよく言っている(理由はなんか言っていたがよく理解できなかった。でも,本気でそう思っているみたい)ので,「なんだ,M3じゃなくてM6か」と言ってやったら,このオヤジ,当然ながらムキになる。昔,キャノンAE-1やニコンF3を使っていたが,やっぱりダメだったからライカにした,その前はキャノン7を使っていたが一眼レフはだめだねえ。機械に頼り過ぎているよ,レンジファインダーでなけりゃダメだね,などと一人でぶつぶついっている。

ところで,あなたのまわりに,よくこんなことを言う人がいないだろうか。

「写真は機材じゃない,センスだ」

こういう主張をする人には2通りあると思う。
 1つは,すばらしいウデとセンスを持ち,どんな機材を使ってもすばらしい作品を作りあげることのできる人だ。そういう人は,なんだかんだいいながらも,自分の描いたイメージを表現するために十分な機材を揃えている。もちろん,その人が追求する被写体によっては,コンパクトカメラで十分な場合もあるだろう。しかしそれは,いい写真を撮るために機材にこだわることが無意味であるということではない。その人の撮影対象にとって適切な機材にこだわった結果にすぎない。
 もう1つは,「どんなにいい機材を使ってもロクな写真が撮れなかった」から,機材を意識することをやめてしまった人だ。こういう人は,とくにレンズ付きフィルムを好む傾向がある。そして,そのようなカメラで撮られそれなりに評価された他人の写真を引き合いにだして「ほら,写真はセンスなんだよ」と主張する。決して,自分の写真は引き合いに出さない。さらに「見る目だけはあるんだ」という表現が好きな人も少なくないようだ。自分にはウデがないことを無意識のうちに感じているのだろう。そしてきっと,いつか自分のセンスを見いだしてくれて,楽にその才能を伸ばしてくれる人が現れるに違いないと夢見ているのだろう。

ところでこのオヤジは,「長年どんなにいい機材を使っても,ロクな写真が撮れなかった人」の一種であると推定できる。キャノン→ニコン→ライカという道をたどっており,ライカという「機械の自慢しかしない」からだ。自分がおもになにを撮っているか,そのためにはライカが最適なんだ,その理由はこうだ,などという話はまったくないのである。私は,「センス」だけに偏っても「機材」だけに偏ってもいけない,さらに「ウデ」も含めてバランスよく向上させなければならないという思いを強くした。

さて,件のオヤジのその後であるが,私がライカの自慢話なんかを相手にしていないのに

「国産品よりライカの方がいいでしょ,あんた,そのへんどう思う」

と聞いてくるもんだから,私はこう答えた。

「え?やっぱりハッセルでしょう。ライカって,しょせん35mm判ですもんね。」

そのオヤジはかなりうろたえた状態で,ぶつぶつと

「いや,ライカの方がずっとよく撮れるんだよ」

とかいいながら店を出ていった。「ライカを持っていること」しか自慢のネタがないオヤジの後姿は非常に哀れであった。それにしても,ハッタリとはいえ「ハッセル」弾は強力だ(笑)。実弾も欲しくなった(笑)。でも6×6判は嫌い(笑)。これからもマミヤプレスでがんばるぞ。実用上問題ないんだもの。
 ただ,私はこんなオヤジを見るたびにライカを持っている人が全員,こんな性格をしているんだろうな,というイメージを強めていくのであった。ライカもすっごく可哀相な存在だな。
 大枚をはたいて買ったライカを持っていることを,私のような若造に対して自慢したい気持ちはわからなくもない。しかし,ふつうのカメラ屋の店頭でいきなり話しかけてくるなんて,もうすこし時と場をわきまえてほしいものだと思った。このオヤジ,酒くさくなかったら,あるいはどこかのスナックなどでたまたま隣の席に座っているときとかだったら,私も興味がないわけではないので,ちゃんと話を聞いてあげただろうに。

ちなみにこの日,カメラのドイではバッグを買った。
 小型のショルダーである。中仕切りなどもないが,「Nikon」のロゴが入っている。ブランド品なのだ(笑)。これで500円。このバッグ,通勤用として重宝している。


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