撮影日記


2014年9月7日(日) 天気:晴れときどき曇り

月が出た出た月が出た
お月さま,お久しぶり

8月20日未明の大雨により,広島市内では甚大なる土砂災害が発生した。まずは,この土砂災害の被害に会われた方々に,お見舞い申し上げたい。
 前日は夕方くらいから,尋常ではない激しい雨が降っており,あちこちで道路に水があふれているという情報も入ってきた。それでも最終電車のころには,雨がほとんど止んでおり,水があふれていたといわれていた場所も,ほとんど水が引いているように見えた。
 その夜には,土砂災害への警戒を呼びかける防災行政無線の声も聞こえていた。その後,雨がふたたび激しくなり,土砂災害が発生したようである。私の住んでいるところからあまり遠くないところで起こった災害ではあるが,土砂災害というものは台風や地震による災害にくらべれば局所的なものであり,私自身はこのような大災害が発生しているということに気がつかなかった。

この後も雨模様の日が多く,復旧作業等がなかなか進行しないようであった。それ以前から,夏らしくない天気が続いていたように感じている。7月の梅雨明け以後8月にかけての時期は,からっと晴れて強烈な日差しが容赦なく照らしつけ,毎日のように入道雲がわきあがる。「ここで夕立があれば,少しは涼しくなるだろう」という期待もむなしく雨は降らず,夜遅くなっても暑い。例年は,そんな感じだったはずだ。
 ところが今年は,様相が異なる。
 天気図を見れば,梅雨時期というか秋雨時期のように,日本列島付近に前線が横たわっている。すっきりしない曇りがちの日が,毎日のように続く。しかしながら日差しは真夏のものだから,昼間は暑い。それもからっとした強烈な暑さではなく,蒸し蒸しとしたねっとりした空気が体にまとわりつくような暑さだ。暑いのだが,激しく汗をかかず,じわっと出るような,気持ちの悪さである。
 昼の天気もすっきりしないが,夜の天気もすっきりしない。夜空には毎晩のように雲が広がり,体にまとわりつくねっとりした空気は,夜遅くなっても消えない。星が見えた日が,いったい何日あっただろうか?それが,この夏の印象だ。

「天体望遠鏡の部品をもらった。いらないので,使ってくれる人に譲る。」というありがたいお言葉をいただいたのは,7月半ばのことだった。

送っていただいたなかに含まれていたもので,私が使ってみたいと思っていたのは,ケンコーの「デジアイピース」(Kenko Digi-Eyepiece)というものである。ディジタルカメラの撮像素子が組みこまれており,望遠鏡のアイピース(接眼レンズ)のかわりにはめこむことで,望遠鏡でとらえた像をパソコンに取りこめるようになる。ただし,性能はたいしたものではない。ケンコーのWebサイト(*1)に仕様が掲載されており,それによれば撮像素子は「30万画素」の「CMOSイメージセンサー」とのこと。ディジタルカメラにおきかえて考えれば,ごく初期のもの程度ということになる。とはいえ,30万画素ならば,640ピクセル×480ピクセルくらいの画像は得られるだろう。撮像素子がごく小さいので,ライカ判に換算すればレンズの焦点距離は数倍相当のものになる。画質はあまり期待できないが,かなりおもしろく遊べるのではないだろうか?
 この製品は,あまりあたらしいものではないが,いまでも6000円〜7000円ほどで売られている。たぶん最近の「トイデジカメ」や「Webカメラ」のほうが安価で,画素数などスペックもあがっていることだろう。ただ,Kenko「デジアイピース」なら,余計な工作や改造などすることなく,天体望遠鏡の接眼レンズのかわりに,ポンとはめこむだけである。もう少し安く買えたらいいなと思っていたところで,小型のおもちゃのような望遠鏡とのセット(SKY WALKER SW-I PC)でも8000円〜9000円で売られていることがわかった。反射式で口径76mmというと(*2)かなり「しょぼい」ものに思えるが,「おもちゃ」としてはなんとなくの割安感があっていい。そうだ,これを買ってみようかな…
 と考えていたちょうどそのころに,このたびの「天体望遠鏡の部品をもらった。いらないので,使ってくれる人に譲る。」というお声がけである。これはもう,その好意に甘えるしかない!

そうして無事に私の手元にやってきた,Kenko「デジアイピース」であるが,なかなかその動作を確認することができないでいた。そう,毎晩のように,曇りがちの空なのである。たまに晴れた夜があっても,月齢の関係で月の姿が空になかったりする。動作を確認したいし,無事に楽しめたことを譲ってくださった人に報告もしたい。だが,それができない日々が続いていたのである。

そして今夜は,久しぶりによく晴れている。空には,満月に近い月の姿がはっきりと見える。
 ようやく,Kenko「デジアイピース」の試運転ができたのだ。

Kenko Digi-Eyepice, Vixen D=80mm f=1200mm

1/4型撮像素子なので,受光部分の大きさは3.6mm×2.7mmほど。ライカ判の画面が36mm×24mmであることとくらべると,面積は1/90にすぎない。

月は,フィルム上に「(直径が)焦点距離の1/100の大きさ」で写るので,焦点距離1200mの望遠鏡で得られる月の像の大きさは,直径12mmである。撮像素子の大きさよりも,はるかに大きい。だから,月の一部分しか見えないことになる。これは,かなり無理な拡大撮影をしている,と言いかえることもできる。

Kenko Digi-Eyepice, Vixen D=80mm f=1200mm

さて,画像がいまひとつシャープでない理由は,いくつか考えられる。まずは,被写体ブレだ。実際には,月は猛烈な速さで動いている。ぼーっと空を見ていても気がつかないだろうが,望遠鏡で月を覗いてみるといい。あっというまに,視野から出て行ってしまう。

Kenko Digi-Eyepice, Vixen D=80mm f=1200mm

撮影操作は,望遠鏡に触れることなく,「デジアイピース」を接続したパソコンのほうでおこなえるので,カメラブレはあまり気にしなくてもよいと思う。しかし,ピントあわせは,望遠鏡に触れざるを得ない。このときのブレはかなり大きく,ピントあわせを難しくしてくれる。そして「デジアイピース」から転送された画像データがパソコンに表示されるまでには,どうしても少し時間がかかる。だから,細かいピントあわせがとても難しい。ドローチューブを少し動かしても,ピントの変化が画面にあらわれるまで,わずかだが間がある。しかもその都度,望遠鏡はブレる。そのブレの動きも,少し遅れて伝わってくる。難しい,ピント調整がじつに難しい。だからこの画像は,必ずしもベストピントではないかもしれない。
 天体望遠鏡を通して見る像は,大気の状態にも大きく影響される。上空の風の状況などによっては,像がふらふらしてしまうのだ。これも,画像の鮮明さの低下につながる。そしてこの望遠鏡は古いもので,古典的なただのアクロマートレンズだ。最近の特殊低分散ガラスを使ったものにくらべれば,どうしても画質は落ちるだろう。

そうは言っても,天体望遠鏡の像を拡大して見ることができ,静止画像や動画としてパソコンに取りこめる。これは期待通りに,おもしろい装置だ。譲っていただけたことに,大いに感謝している。

*1 デジアイピース(ケンコー・トキナー)
http://www.kenko-tokina.co.jp/optics/tele_scope/eyepiece/430293.html

*2 SKY WALKER SW-I PC(ケンコー・トキナー)
http://www.kenko-tokina.co.jp/optics/tele_scope/sky_walker/120194.html


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