撮影日記 |
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2024年12月02日(月) 天気:晴浅沼じゃない「キング」露出計きれいな写真を撮るためには,調整する必要のある要素が3つある。1つは,ピントである。あとの2つはシャッター速度と絞りであり,これで露出を調整する。これらをきちんとあわせて撮ると,きれいな写真が撮れることになる。ピントを自動的にあわせるオートフォーカス機能と,被写体の明るさに応じて適切な絞りとシャッター速度を選択してくれるプログラムAEとがカメラに搭載されるようになって,まさにシャッターレリーズボタンを押すだけで,だれにでもきれいな写真を撮ることができるようになったのである。なお,デジタルカメラの時代になると,露出の調整に「ISOオート」という概念が加わるようになった。用語としてはやや意味不明なところがあるが,「感度を自動的に設定する」という機能をさす。これによって,たとえば暗い被写体を撮るときに,自動的に高感度に設定することで,ある程度以上のシャッター速度が確保できるようになり,手振れを防ぐことができるのである。これも,きれいな写真につながることである。 「キング露出計」というものを入手した。袋には,「森芳太郎先生考案」「写真家必携の利器」という文言もある。「森芳太郎」氏は,東京芸術大学の前身にあたる学校で,写真関係の教員もつとめていたような人である。袋のなかにある本体には「MORI'S KING EXPOSURE METER」と書かれており,製品名としては「森式キング露出計」としてもよさそうである。この発売時期をたしかめるために,国立国会図書館デジタルコレクションを検索した。「写真新報」1930年2月号に「森式キング露出計の出現」(菅保男)という記事があるから,「森式キング露出計」とするのが,正式な製品名ということになるだろうか。 ところで,不思議なことにこの「森式キング露出計」は,「浅沼商会」とは書かれていない。なぜかそこに書かれているのは,「金城商会」という文字である。 金城商会は,当時の有力な販売店の1つだったようで,雑誌を参照すると,「ライカ」などを扱っていることを示す広告がよく見られる。しかし,独自のブランドの製品を販売しているようすはそこからはうかがえず,「キング露出計」を広告に載せている例を見つけることはできていない。それに対して,浅沼商会が「写真新報」以外の雑誌の広告に「森式キング露出計」を掲載している例は見られるので,あくまでも「森式キング露出計」は,浅沼商会の製品ということになるだろう。ところで,雑誌や書籍で「森式キング露出計」が紹介される場合,そこに使われている製品の画像(ほとんどは写真ではなくスケッチのようである)では,当然のように「金城商会」ではなく,「浅沼商会」という文字が入っている。ところがときどき,そこが空欄になっているものがある。このことから,「各販売店が浅沼商会から仕入れて,自社名を入れて配布できる」ような制度が用意されていたのではないかということが想像できる。たとえば,「ライカ」のような高額製品を購入した人に,自店の名称が入った「森式キング露出計」をオマケしたのではないか,ということはあってもよさそうである。もしも,金城商会による「キング露出計進呈」のような宣伝文句,あるいは,ほかの販売店名が書いてあるバージョンが見つかれば,この可能性が高いと考えてよいのではないだろうか。ただしいまのところ,そういう都合のよいものは目にしていない。
*1 「写真新報」(写真新報社,1930年2月) (国立国会図書館デジタルコレクション)
*2 「浅沼商会百年史」(浅沼商会,1972年) (国立国会図書館デジタルコレクション) |
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