撮影日記


2023年02月28日(火) 天気:雨のち曇

関式サロン露出計IVA型の特徴は

昨年末に,「国立国会図書館デジタルコレクション」がリニューアルされて(*1),全文検索のできる資料が大幅に増加した。そこで,「関式サロン露出計」について,まだはっきりしない点に関係する資料をさがしてみることにした。

「関式サロン露出計」は,写真を撮影するときの,適正な露出の値を知るために使う道具である。撮影する季節や時刻,使うフィルムの感度,どんな被写体を撮るかそれぞれの目盛をあわせれば,適正な絞りやシャッター速度(露光時間)の値を読み取れる早見盤になっている。最初のモデルは,1938年10月下旬ごろに発売された。その後,モデルチェンジを重ね,同一モデル内のマイナーバージョンを確認できたものも含めて,少なくとも10種類のモデルがあることがわかった(2022年12月31日の日記を参照)。
 まだはっきりしない点として,たとえば次のようなことがある。
 
[1]Model VBは存在するのか?
 戦後に発売されたモデルとして,UA型,UB型,VA型を入手している。さらに,雑誌の記事などからWA型,WB型が発売されたことがうかがえる。モデル名からは,VB型の存在が予測できる。
[2]Model WA,WBの特徴はなにか?
 初期型からVA型までの相違点や特徴は,現物および取扱説明書,特許や実用新案などの情報から確認することができた。WA型,WB型は現物を入手できておらず,画像も見かけていない。
 
 そこで,関式サロン露出計VA型が発売されたのち,1954年よりあとの雑誌や書籍を念入りに検索することにした。WA型およびWB型が発売されたと思われる1956年4月ころと1959年3月ころは,とくに要注意である。

「国立国会図書館デジタルコレクション」で検索できる資料は,どこまで閲覧できるかによって,次の3種類に区分される。
 
【ログインなしで閲覧可能】
 だれでも,自宅のパソコンなどで閲覧することができる資料。
【送信サービスで閲覧可能】
 公共の図書館に設けられた端末あるいは利用者登録した個人がログインすることで,閲覧することができる資料。
【国立国会図書館内限定】
 国立国会図書館のみで閲覧できる資料。

「サロン露出計」で検索すると,以前よりも多くの書籍がヒットするようになった。そのうちの「百万人の写真術 最新版」(北野邦夫 光画社,1957)(*2)には,「サロン露出計WA型」の大きな写真が掲載されていて,大きな特徴として「感光度の目盛がASAだけになっていること」が確認できた。これで,WA型の存在と,VA型と区別するための1つの要素が見つかったことになる。

 「関式サロン露出計」のモデルチェンジの時期や特徴をたどるには,当時の雑誌を閲覧して広告をさがすのが1つの方法である。アルスが発行する雑誌「カメラ」は【送信サービスで閲覧可能】だったので,1950年ころまではアルスの雑誌をたどって確認することができた。一方,いま調べたい1954年以降に発行されていた「アサヒカメラ」「日本カメラ」「写真工業」といった雑誌はすべて【国立国会図書館内限定】なので,自宅などで記事を閲覧することができない。
 だが,そのような資料でも,内容を知る術がまったくない,というわけではない。
 「国立国会図書館デジタルコレクション」での検索結果としては,まず書名のほかにコマ番号(閲覧できる資料は表紙から画像になっていて,その何枚目にあたるかをあらわす番号)と,キーワードを含んだ前後37文字が表示される。【ログインなしで閲覧可能】や【送信サービスで閲覧可能】な資料であれば,表示されたコマ番号をクリックすると,該当のページ(画像)が表示され,内容を閲覧できる。
 自宅のパソコンで閲覧できない【国立国会図書館内限定】の資料を読みたいときは,国立国会図書館に「遠隔複写サービス」を申し込むことになる。検索でヒットしたコマ番号に求めている情報が掲載されているかどうか,遠隔複写サービスを利用するかどうかを判断するのに,その37文字が使えるというわけである。
 さて,「サロン露出計」で検索すると,1955年ころの「アサヒカメラ」ではほぼ毎号に「サロン露出計」というキーワードが含まれたページが存在することがわかる。そして,表示される37文字の内容はほぼ同じものが続く。このことは,ほぼ毎号,ほぼ同じ内容の「関式サロン露出計」の広告が掲載されていたことを示していると考えられる。つまりその文字が大きく変わっていたら,それは広告の内容が大きく変わったことが反映されたものであり,モデルチェンジが関係している可能性がある。
 もうひとつ,着目するべきことがある。1冊の資料のなかに該当するキーワードが複数個所あった場合には,「全xx件の該当箇所」ということが表示される。ほとんどの号で「関式サロン露出計」がヒットするのは1箇所だけだったが,ときどき「全2件の該当箇所」が表示される号がある。そのような号の1つに,「アサヒカメラ」1956年5月号があった。

この発行時期は,「関式サロン露出計WA型」の発売直後である。ちょうどインターネットオークションに安価に出品されていたものがあったので,取り寄せることにした。この号にはたしかに,「関式サロン露出計」を含んだ玄光社(「関式サロン露出計」は発売当初より,写真関係の出版社である玄光社から発売されていた)の広告が掲載されていた。そしてそこには期待通りに「WA型新発売!」の文言があった。その説明として,「最近の感光材料の進歩や天然色写真の普及により被写体類別,天候の分類を近代感光材料に最も適合するよう改良した」という説明があった。実物を確認しないと確かなことはいえないが,裏面に記載されたフィルムの例が大きく改訂されている可能性がある。また,表面の感光度の目盛がVA型ではASAとWestonが併記されているのに対し,WA型ではASAだけになっていることも,その改良と関係しているのだろう。

「関式サロン露出計VA型」裏面 主要なフィルムの一覧が掲載されている。
「関式サロン露出計VA型」表面 感光度の目盛はASAとWestonが併記されている。

中途半端な感はあるが,関式サロン露出計WA型の存在と相違点が確認できたことで,疑問点が1つ解消したのであった。

 「アサヒカメラ」1956年5月号には,もう1箇所「関式サロン露出計」の文字が含まれたページがあった。それは,関研究所の広告で「関式セノック引伸露光計」の広告である。この製品について,「関式(サロン)露出計の考案者が絶対の自信をもって発表する」という説明がつけられている。
 「関式サロン露出計」はのちにイラストを多用した「セノガイド」という製品に発展し,玄光社をはなれて関研究所から発売されることになる。それはこれよりまだ4〜5年の後のことになるが,その関研究所はすでにこのとき設立されていたということだ。

*1 2022年12月21日 「国立国会図書館デジタルコレクション」をリニューアルしました (国立国会図書館)
https://www.ndl.go.jp/jp/news/fy2022/221221_01.html

*2 「百万人の写真術 最新版」p.110 北野邦夫 光画社,1957年 (国立国会図書館デジタルコレクション)
https://dl.ndl.go.jp/pid/2484579/1/59


← 前のページ もくじ 次のページ →