撮影日記


2022年06月07日(火) 天気:曇

関式サロン露出計は旧ASA

関式サロン露出計には,いろいろなモデルがあることがわかった。そのモデル名の違いは,あらたな特許や実用新案の取得に対応しているように思われる(2022年2月24日の日記を参照)。
 同じモデル名の製品でも,少し内容の異なるマイナーバージョンのある場合も見られる。たとえばUB型については,3つのマイナーバージョンを確認している。まず,裏面に「サンマータイム」に対応する注意書きのあるものとないものにわけられる。それぞれ,「UB型サマータイム対応版」と「UB型サマータイム非対応版」として区別することにしよう。「UB型サマータイム非対応版」は,表面にある感光度目盛の表記の違いで,2つにわけられる。1つは「ASAとDINが併記されたもの」,もう1つは「ASAとWestonが併記されたもの」である。UA型やUB型サマータイム対応版では,感光度の目盛に「ASAとDIN」が使われており,VA型では「ASAとWeston」が使われているので,UB型でも「ASAとDIN」のモデルが先で,「ASAとWeston」のモデルが後だと考えられる。
 なお,関式サロン露出計の初期型では,感光度目盛にはDINだけが使われていた。

ところが,関式サロン露出計UA型の感度目盛には,違和感があった。ASA 100に対応するDINの値が,22°になっているのである。

UA型は「関式サロン露出計」の上に「特許」の文字がない。

たとえば,のちの時代の電気露出計であるSEKONIC L-398「スタジオデラックス」の目盛を見れば,ASA 100に対応するのはDIN 21°になっている。

このような「ずれ」は,関式サロン露出計UB型も同様で,ASA 100は目盛に記されていないが,ASA 64に対応するのがDIN 20°になっている。スタジオデラックスでは,ASA 64に対応するのは,DIN 19°になっている。

UB型は「関式サロン露出計」の上に「特許」の文字がある。

1950年代に発行された書籍では,ASAとDINは,どのように説明されているだろうか。
 たとえば「35ミリ現像の実技」(中村泰三,玄光社,1955)(*1)は,関式サロン露出計UA型やUB型と同時代の書籍である。このp.24〜25に,「露光(スピード)指数比較データー表」というものが掲載されている。この表では,DINにA欄とB欄とがあり,A欄ではDIN 19°がASA 64に,B欄ではDIN 20°がASA 64に相当する。A欄とB欄の違いについては欄外に注釈として,「ASAとウエストンは感光度というよりはスピード指数と表現される」とあり,「DIN単位の感光度と比較するときには2通りの見方がある」ということになっている。ドイツの比較表ではB欄,日本の一般書はアメリカの流儀でA欄のようになっているとのこと。つまり,関式サロン露出計UA型やUB型のASAの値は,この書籍でいうところのドイツの流儀にあわせていることになる。
 また,「写真のセンシトメトリー」(保積英次,共同出版,1958)(*2)にはいつくかの表が載っていて,「第8.7表 感度比較表」(p.122)では,DIN 20°,Weston 50,ASA 64となっている。先のB欄,ドイツ流儀のようである。これについては注釈があり,「それぞれの方法にて感度を求める基準点が異なる」ので換算はできないが,「実際の撮影の大きな支障のない」ものとして並べたとのことである。もうひとつ「第8.8表 感度対照表」(p.123)というものが掲載されており,これではASA 64,Weston 50,DIN 19°となっている。これについては特段の注釈はついていないが,同様に「換算はできないが実用上問題ない」対応のようである。

DIN感度は,1934年にドイツ標準規格として採用されたものである(2022年4月17日の日記を参照)。

「新版写真技術用語辞典」(薗部孝三,日本理工出版会,1989新版3刷)での説明によれば,ASA感度は1947年に定められた規格で,1960年に「デーライト感度だけを表示する新ASAに変わった」とのことである。そして将来は,ISO表示に1本化されることも示されており,次のような対応が例示されている。

ISO 125/22°:ASA125,DIN22,旧ASA100
 ISO 100/21°:ASA100,DIN21,旧ASA80

ここで気になる表現として「デーライト感度だけを表示する」というものがある。これについては,たとえば,日本カメラ「現代写真の事典」(たぶん1956年版)では,ネオパンSSのASA感度として「デーライト感度 100」「タングステン感度 80」という例示があることからも,この2種類の感度が使い分けられていたことがうかがえる。

ともあれ,1950年代に発売されていた「関式サロン露出計」でのASA感度はあくまでも「旧ASA」であり,現在のISO感度(新ASA感度と同じ値になっている)とは異なっているという点には,注意が必要である。
 注意が必要といったところで,1/3段の差である。これくらいの差であれば,フィルムの製造ロットの違い,現像時の条件のずれ,あるいは,天気や被写体の判断の差で吸収されるだろう。実用上は,あまり気にする必要はないかもしれない。

*1 「35ミリ現像の実技」(中村泰三,玄光社,1955) (国立国会図書館デジタルコレクション)
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2477154

*2 「写真のセンシトメトリー」(保積英次,共同出版,1958) (国立国会図書館デジタルコレクション)
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2485627


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