撮影日記


2022年02月08(火) 天気:晴ときどき曇

無銘露出計の正体はコダック純正品

昨年末にご提供いただいたいろいろな露出計には(2021年12月19日の日記を参照),「関式サロン露出計」や「佐和式露出計算尺」のほかにも,さらに何種類かの計算盤式露出計が含まれていた。そのなかに,メーカーやブランド名が書かれていないものが含まれていた。

表面には,漢字でいろいろと書かれている。一見すると複雑そうだが,これまでに「関式サロン露出計」や「佐和式露出計算尺」をさわってみて,この種の露出計になじんできた目で眺めると,この露出計は,じつにシンプルなものであることがわかる。
 まず,裏面を参照する。そこには,時間帯とお天気の示された表がある。時間帯とお天気の組みあわせが示すカタカナの記号を,表面であわせればよいだけのものである。たとえば,お昼前後の時間帯(自十時至二時)で晴天であれば,記号は「ホ」となる。

つぎに表面で,「ホ」の記号と被写体をあわせる。たとえば,「普通風景」を「ホ」にあわせたとき,シャッター速度を1/100sec(百分一)にするならば,絞りはF6.3とF8の間となる。特徴的なこととして,絞りが「F」ナンバーのほか,「US」ナンバーが併記されている。また「コダック絞り番号」として,1〜4の数値がある。当時のコダックの簡便なカメラには,たしかに絞りが切りかえられても,Fナンバーではなく,単に1〜4の数値を選択するだけになっているものがある(2009年6月19日の日記を参照)から,それに対応したものだろう。

ところが,この露出計には,フィルムの感度を設定する項目がない。裏面の表を見れば,季節も「三月,四月,八月,九月」に限定されている。よく見れば,この表は印刷物をはさんだだけのものであり,交換できそうに思える。そして,この露出計は,簡単に開くことができる。

そして,この表は,4つに折りたたまれた紙の1つの面であることが確認できる。

表は,「五月,六月,七月」「三月,四月,八月,九月」「十月,二月」「十一月,十二月,一月」の4つの時期にわけられていた。昼間の長さによって分けられたものだろう。ここを入れ替えることで,異なる季節にも対応できるようになる。
 また,この紙には「第三表」と書かれている。「第一表」や「第二表」は入っていなかったが,それらは異なる感度に対応した表ではないかと思われる。表には「四十度」という文字もあるが,これはフィルム感度を示すものではなく,北緯40度を基準とすることを意味していると思われる。ただ,日本での使用を想定すると35度を基準にするはずで,40度は少しばかり緯度が高く思われる。外国(欧米の国)の製品を模倣したものなのかもしれない。
 そして,この紙の裏面は白紙であり,メーカー名などはやはりどこにも記されていない。
 そんなとき,Twitter上で,「同じ型の露出計をもっている」という人が情報を提供してくださった。説明書が付属しており,表紙には「KODAK'S EXPOSURE METER」と書かれている。どうやらこの露出計は,コダック製品らしい。それならば,絞りに「US」ナンバーが併記されていること,ましてや「コダック絞り番号」が記されていることが,大いに納得できるというものである。また,もともとはアメリカの製品だったものをそのまま日本語化したのだというならば,北緯40度が基準になっていることも,納得できる。

さて,これがコダック製品だというならば,当時の出版物で紹介されている可能性もあるのではないだろうか。おそらく,大正から昭和初期の製品だろう。
 国立国会図書館デジタルコレクションを確認するのが,手っ取り早い。検索キーワードを「コダック」にすると,121件の資料がヒットした。発行年代を見ると,もっとも古いものが「1900〜1909」で,3件ある。ついで,「1910〜1919」が2件である。このなかに,もしかすると,そのものずばりではないかと思われる名称の資料があった。

「コダツク露出計」上田貞治郎 編(上田貞治郎,1919)(*1)

この資料は,内容も公開されている。p.5(コマ番号5)に,簡略化されたものだが図があり,この製品と同様な小さな円形であることはわかる。また,p.4の説明文「三,光度表」に,「光度表は一年を四期に分ちて表としたれば其の一枚を切離して之を四ツ折となし。」とあるのは,実際に折りたたまれた表がはさまれていることと一致している。
 さらに読み進めていくと,p.21(コマ番号13)から「Plate & Film Speed List 乾板及フイルム速度表」が掲載されていて,そこに第一表から第六表が,どんな乾板あるいはフィルムに対応するのかが記されている。この露出計にはさまれていた第三表は,「ワトキンス二百四十度=ウヰン百二十八度」に対応するもので,対応するフィルムや乾板の種類も多くのものが記載されている。
 はじめにもどり,p.3(コマ番号4)の「二,概要」を見ると,「撮影地を日本内地とすれば北緯四十度を標準とせる附属の光度表に加減する必要なし。」とあり,表に記されていた「四十度」は北緯40度のことであり,もともとはアメリカ製品だったという解釈で間違いなさそうである。

ということで,この露出計の正体は「コダツク露出計」で,1919年ごろには流通していたようである。また,日本語化される前の,もともとの製品は,もう少し古い時代からあったのであろうと考えられる。

*1 「コダツク露出計」(上田貞治郎,1919(大正8)年) (国立国会図書館デジタルコレクション)
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/961995


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