撮影日記


2021年12月26日(日) 天気:雪

関式サロン露出計の説明書を読みはじめる

先週の大きな荷物には,濃度式露出計のほかにも,いろいろな資料が入っていた。そのうちのいくつかは,いずれお返ししなければならないものである。そのなかに,「関式サロン露出計UB型」とその説明書,「関式サロン露出計VA型」とその説明書がある。どちらも活版印刷のようであり,紙質はあまりよいものではなさそうである。また,版面が大きくずれているところもあり,印刷そのもののにはあまり力が入っていないように感じる。発行は玄光社だから,それなりの印刷所を利用しているのだろうとは思うが,主力の写真雑誌や書籍ほどには,力を入れていなかったのかもしれない。

まずは,これら2冊の発行された時期を確認する。
 IIB型の説明書の奥付には,「昭和28年2月1日改訂31版印刷」とある。あくまでも「サロン露出計使用法」の改訂31版であり,IIB型の改訂31版ということではないようだ。サマータイムに対応しているIIA型からIIB型への変更は,サマータイムが廃止になった昭和27(1952)年以降だろうと考えられる。また,IIIA型は昭和29(1954)年8月号の雑誌に「新発売」の広告があった(2021年10月21日の日記を参照)から,IIB型からIIIA型への変更は昭和29(1954)年のことと思われるので,IIB型の説明書の奥付が昭和28(1953)年2月であることは,それらのことと整合する。
 一方,IIIA型のほうは,「昭和29年4月10日改訂40版印刷」となっている。IIIA型がつくられはじめたのはこのころであり,8月号が発売される7月ころはまだ「新発売」をじゅうぶんに名乗れる状況だったのだと考えれば,整合がとれているといえる。
 これらのわずか1年2箇月ほどの間に31版から40版に進んでいるが,この取扱説明書は活版印刷でつくられているようだから,増刷のたびに改版し,適宜,増補,修正をしているのだろうと思われる。

まだ,軽く眺めた程度であるが,関式サロン露出計IIB型の取扱説明書に気になるところが,1つあった。
 46ページに,「d.サンマータイム採用中は時計の時刻から1時間を減じて本時刻を見て下さい。」という注釈がある。この取扱説明書が印刷された昭和28(1953)年2月には,すでにサマータイムは廃止されているが,これはどういう背景での注釈なのだろうか。いずれサマータイムが「再開するかもしれない」という可能性が考えられていたのだろうか,サマータイムが実施されている「海外でも使える」とでも主張したかったのだろうか。
 IIB型の文字盤には,IIA型と違って「サンマータイム」のことは書いていない。それでも説明書に書いておくことで,いつでも「サマータイムに対応」と主張することを狙っていたのかもしれないし,単に,以前からの記載を修正するのを忘れていただけなのかもしれない。

IIB型からIIIA型へ,大きなモデルチェンジがされたと考えられる。それは,取扱説明書の厚さの違いとして,すぐに気がつく。IIB型の説明書(改訂31版)は本文64ページで,表紙が別紙,巻末に広告が4ページある。IIIA型の説明書(改訂40版)は本文118ページで,表紙が別紙,巻末に広告が2ページある。本文のページ数が,2倍近くになっているのである。
 まずは「もくじ」をみて,項目を比較してみよう。IIIA型で追加された項目には,以下のようなものがある。

【関式サロン露出計IIIA型の説明書で追加された項目】

II.基礎使用法
 (新設)赤外撮影の場合
III.高度使用法
 (変更)反射器による変化→閃光電球のガイドナンバー
 (新設)各種光源の照明基準
IV.本露出計の基礎について
 (新設)閃光時間
V.初心者のために
 (新設)焦点合せ,動体撮影について,閃光電球撮影について
VI.表
 (新設)シンクロフラッシュ用語表,閃光電球と接点との関係図,
     被写体種類別表,複写の場合,動体撮影表,電圧と露出の関係,
     後記

「もくじ」の比較で,IIIA型がフラッシュ撮影についての内容を増補しているようなことは,じゅうぶんにうかがえる。また,IIB型では説明書に残っていたサマータイムのことも,IIIA型ではふれられていない。さすがに,もう復活はないと判断したのだろう。

「関式サロン露出計」の文字盤には,多くの目盛があり,文字や記号が細かい文字でたくさん記されている。また,回る円盤が表と裏にそれぞれあって,使い方も複雑なものに見える。しかし,実際にはごく単純なものである。取扱説明書のさいしょにある「十五大特色」の冒頭にも,「…,すべて片手でタッタ一回の操作ですむ。…」と謳われている(改訂31版,改訂40版とも共通)。
 まず,準備として,裏面の円盤を回して,撮影日の月を設定する。いちど設定すれば,その日のうちは,もう動かす必要はない。

つぎに,感光度と天候をあわせる。感度の異なるフィルムを併用しないならば,感光度について見直す必要はない。また,天気も急変するようなことがなければ,その日のうちは,もう変更する必要はない。

ただ,感光度の目盛が,よくわからない。ASA 125がDIN 23°になっているのだが,ISO 125(ASA 125)はDIN 22°ではなかっただろうか。ASAやDINの基準が,現在と異なっているようだが,そのあたりの事情がわからない。

ここまでをあわせたら,撮影時には,文字盤に書かれている被写体名と撮影時の時刻をあわせる。そのときの,各絞りに対するシャッター速度を参照すればよいのである。ここが,「タッタ一回の操作」が示すポイントである。

使い方は,これだけである。要は,フィルムのパッケージに書いてある「露出の目安」に,季節に応じた細かい補正ができる,というものである。小窓に月を表示する,裏面の円盤は,裏返すことで,低緯度地方(九州地方〜関東地方用,北緯35度・東経135度基準)と高緯度地方(奥羽地方及び北海道地方用,北緯45度・東経142.5度基準)に使い分けができるようになっている。これも,細かい補正として反映されることになる。また,被写体の状況の分類が,より細かくなっている。月刊誌に掲載されていた月ごとの「露出の目安」を,複数の円盤を組みあわせることで,コンパクトに1つにまとめたものである,ともいえる。
 たとえば,撮影日は12月とする。DIN 21°(ISO 100)のフィルムで,お昼前後にふつうに風景を撮るとすれば,絞りがF8のときシャッター速度1/150秒となった。ややオーバー気味にも思うが,おおむね妥当に感じられる値にはなる。これで,よいのだろうか。


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