撮影日記


2020年06月17日(水) 天気:晴

手がかりのないテールボードカメラ

久しぶりに,カメラを落札した。蛇腹を利用した木製カメラの一種で,前枠がベースに固定されており,後枠が動くようになっている。このようなタイプのカメラは,テールボードカメラ (Tailboard Camera)とよばれる。こういうタイプのカメラを入手するのは,はじめてである。

テールボードカメラは,カメラの形態としてはかなり初期の,湿板の時代には存在していたものである。最初期のダゲレオタイプのカメラは,箱が入れ子になっており,それを動かしてピントなどが調整できるようになっていた。その動く側の箱が,蛇腹におきかわったものとみなすことができる。入れ子の箱ではなく,蛇腹が使われるようになったため,折りたたむことができるようになった。

画像を見てわかるように,状態はすこぶる悪い。蛇腹には補修の跡があり,後枠からはずれかかっているなど,破損している箇所も多い。長いあいだ蔵にでも埋もれていたのであろうか,全体に土埃のようなものに覆われている。
 このカメラのベース部分を見ると,なにかパイプ状のものが貫通していたようなしくみがあることがわかる。たぶんにここは,ネジが切られた棒が通されており,それを回すことで後枠を動かすようなしくみになっていたものと思われる。その棒は,すでに失われているようだった。また,全体に歪みが生じているのだろうか,あるいは大量の埃が詰まっているのだろうか,この後枠を引き出すのは容易ではなかった。

たいへん古いスタイルのカメラであるが,実際にこのカメラがそれなりに古いものであるかどうかは,わからない。カメラに銘板のようなものはなく,金属部品にもなにも刻印などはない。いつごろ,どこでつくられたものかを判別する手がかりのようなものが,みあたらない状況である。

外見上の特徴としては,このキャリングハンドルがある。一般的な組立暗箱では,ここは革でつくられている。書籍等で見かけることがあるテールボードカメラでも,キャリングハンドルがある場合は,やはり革でつくられている。このような,古いタンスの取っ手のような金具が使われている例は,寡聞にして知らない。
 こういう些細なことでも,このカメラがいつごろどこで製造されたのかを知る手がかりになったりするものだろうか。

入手したカメラに,レンズは付属していなかった。レンズボードは本体とは色がまったく違っており,この部分は,本体とは別につくられたものが組みあわされていると考えられる。また,レンズボードの穴の周囲には,釘が打たれていたような痕跡がある。レンズを固定するための,なんらかの金属部品がとりつけられていたと思われる。

レンズボードの上にも,釘が打たれていたような穴と,取りつけられていた金具の形を示しているかのような痕跡が残っている。この金具は,レンズボードの上側を固定するためのものだろう。いま,ここに取りつけられているレンズボードは,ほぞが設けられていて,本体に食いこむようになっている。このあたりは,後年に改造された箇所という可能性がある。

バックアダプタとピントグラスは,付属していた。開口部の大きさは166mm×120mmで,カビネサイズである。

ピントグラスには,外側から5種類の大きさの罫線が引かれていた。それらの大きさは外側から順に,つぎのようなものである。
 156mm×111mm
 146mm× 98mm
 107mm× 82mm
  89mm× 61mm
  81mm× 53mm
 小さい判の乾板等を使う場合などの目安に使ったのであろうか。

ともあれ,現状ではあまりに汚れており,可動部がスムースに動かない状態である。また,部品が失われたと思われる箇所も多数ある。どこまでできるかわからないが,できる範囲だけでも掃除と補修に挑み,なんとか撮影に使える状態にしてみたい。
 そして,このカメラがいつごろどこでつくられたのか,それを知りたい。


← 前のページ もくじ 次のページ →