撮影日記


2020年04月02日(木) 天気:晴

サクラの花は人を集める

新型コロナウイルスによる感染症のリスクをさげるためには,「密閉」「密集」「密室」を避けるのがよい,とされている。そういう観点では具体的に,狭い範囲に大勢が集まってわいわい飲食をする行為はさけるのがよい,ということになる。一方で,みんなが飲食店を利用しなくなると,経済的に大きな影響が生じることも懸念されている。
 4月は,あたらしい年度になり,職場や学校にあたらしい人がおおぜい加入してくる。また,サクラの花が見ごろを迎えることになる地方もある。今週のはじめまでは,集団での飲食の機会はできるだけ減らしながらも,環境にじゅうぶんに配慮しながら小規模な会合は実施しようか,という雰囲気があった。その状況が一変したのは,3月30日の午後のことではないだろうか。コメディアンの志村けん氏が,前夜遅くに亡くなったという報動があった。このとき,今回の感染症の問題は,けっして他人事ではないと考えた人が少なくなかったようである。そのあと私自身が人と会う予定をキャンセルしたし,誘われていたほかの複数の予定についても「今回は見送ろう」との連絡をいただいた。
 横川近辺の川沿いは,サクラ並木になっている。例年であればこの時期,昼夜を問わず,ところかまわず,ブルーシートが広げられ,多くの人が集まって飲食をしているはずだ。だが今日は,そういう人は例年よりもかなり少ない。また,数人でお弁当を食べている程度の,ごく小規模なグループも目立つ。人びとのあいだに,それなりの危機感が共有されつつあるのだろう。

ともあれ,季節がくれば,サクラは咲くのである。淡い色のサクラの花が満開になっている状況は,モノクロ印画紙で撮影する被写体として好都合である。「シノゴの日」も近いので,組立暗箱で「四つ切1/2判」の撮影をすることにした。

OKUHARA camera, FUJINON W 180mm F5.6, FUJIBRO WP FM2

ここから先へ,サクラ並木の道は続く。そして,サクラの木と木の間ごとに,広げられたシートの上に多くの人が集まっていたり,ロープを使って「場所取り」がされていたりするのが,例年の光景である。今年はさびしく感じてしまう状況であるが,自らの名前をさらしての「場所取り」は,少々はしたなくも感じることがあるので,そういうものを目にせずに済んでいるのは,よいことなのかもしれない。

OKUHARA camera, FUJINON W 180mm F5.6, FUJIBRO WP FM2

ここは,「楠木の大雁木」とよばれている場所である。雁木とは,川面へつづく石段のことをさし,かつては舟運の荷上場として使われていた。「楠木の大雁木」は,広島市内に残る雁木として,もっとも規模の大きなものの1つである。ここでも例年ならば,もっと多くの人がお昼休みを過ごしているはずなのだが,今日は換算としている。

OKUHARA camera, FUJINON W 180mm F5.6, FUJIBRO WP FM2

それでも,サクラの花は,人を集めるのである。この写真は,じつは失敗作だ。じゅうぶんに絞りこんで撮るべきところを,開放のままでレリーズしてしまっている。つまり,大幅に露出オーバーとなっているので,現像時間をかなり短めにした。そのせいか,ムラが生じてしまっている。それでもここに公開するのは,今年,サクラに集まる人が写りこんでくれた貴重な1枚となったからである。
 来年のこの時期には,例年の姿を取り戻しているであろうか。


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