撮影日記


2019年09月24日(火) 天気:晴ときどき曇

カメラ分類の謎 「35mmカメラ」とはどんなカメラ?

日本カメラMOOK「カメラ年鑑 1998年版」が情報量の多さに,驚愕している。単純にボリュームを見ても,日本カメラショー「カメラ総合カタログ」と「写真用品ショーカタログ」の2冊をあわせたよりも厚い。それらが扱っていない,業務用機材や輸入機材などもカバーしている。
 「カメラ年鑑 1993年版」がごく安価に出品されていたので,そこに入札することに迷いは必要なかった。競合もおこらなかったので,いまこの時代の「カメラ年鑑」を求めている人は,多くないのだろう。

カメラをカテゴライズするときに使われる言葉には,ときどきよくわからないものがある。そして,それが公式なものかどうか,それなりにコンセンサスがあるのかどうか,わからない場合もある。
 たとえば,「ブリッジカメラ」という言葉がある。日本カメラショー「カメラ総合カタログ」では,見かけることのないものだ。そこで使われていないということは,メーカー自身が積極的に使っていない言葉であり,業界として使用が推奨されているわけでもない言葉だという可能性が考えられる。「カメラ年鑑 1998年版」や「カメラ年鑑 1993年版」で,ブリッジカメラとされる機種についての記述を読んでも,そこに「ブリッジカメラ」という表現を見つけられない。しかし,冊子のうしろのほうにある用語解説のページにはしっかりと拾われており,「35ミリ一眼レフとコンパクトカメラの(中略)中間的な性格」(日本カメラMOOK「カメラ年鑑 1993年版」)のカメラであるという説明がされている。
 「ブリッジカメラ」とされるカメラとしては,OLYMPUS L-1のようなズームレンズ固定式のフルオート一眼レフカメラや,MINOLTA APEX105のような比較的大口径な高倍率ズームレンズを固定したコンパクトカメラなどが該当する。しかし,これらの機種について日本カメラショー「カメラ総合カタログ」では,「ブリッジカメラ」という表現は使われていない。
 この種カメラの先駆けになった機種は,KYOCERA SAMURAIであるとされている。そして,RICOH MIRAIがつづいた。これらの機種については,日本カメラショー「カメラ総合カタログ」では,「ニューコンセプトカメラ」を名乗っている。「ニューコンセプトカメラ」という表現はこの2機種にとどまったようなので,業界全体が推奨することにはつながっていないのだろうが,メーカー自身が公式に使った言葉であるとみなしたい。
 なお,「カメラ年鑑」の用語解説のページでは,「ブリッジカメラ」は拾われているが,「ニューコンセプトカメラ」は拾われていない。「ニューコンセプトカメラ」は,京セラとリコーが一時的に使っていただけで,終わったようだ。

ところで,「ブリッジカメラ」という言葉の説明にも,カメラのカテゴリに関する言葉が含まれている。
 「35ミリ一眼レフカメラ」と「コンパクトカメラ」だ。
 「35ミリ一眼レフカメラ」という言葉は,対象となるカメラがかなり明示的であるといえる。「35ミリ」は,使用するフィルムを示している。それは,金属製のパトローネとよばれる容器に幅35ミリのフィルムが巻き取られている,135フィルムというものである。「一眼レフ」はファインダーに関わる機構を示している。「一眼」は,フィルムに像を結ぶためのレンズと,ファインダーに像を結ぶためのレンズが,同じものであることを示している。カメラの「眼」にあたるレンズが,1つだけということだ。「レフ」は,その1つのレンズを通った像を,ミラーを使ってフィルムとファインダーに振り分けることを示している。
 それに対して「コンパクトカメラ」という言葉は,そのままではどういうカメラを対象にしているのか,明確ではない。文字通りに読めば「コンパクトなカメラ」であるが,コンパクトであることを大きなセールスポイントにしているカメラが含まれているのは当然として,そうではないカメラも含まれている。また,どんなにコンパクトであっても,ここに一眼レフカメラは含まれない。自動化のすすんだカメラに対して世間でよく使われていた「バカチョンカメラ」を置きかえる語として導入された,という記事をずっと以前に読んだ記憶がある。
 ここで,「カメラ年鑑」の目次を見てみよう。

カメラを分類する言葉として,「コンパクトカメラ」を使っていないのである。
 そのかわりに使われている言葉は,「35ミリカメラ」である。そのなかに「距離計連動/テクニカルカメラ」としてLieca M6が入っている。また,「ズーム/2焦点カメラ」として各種の自動化されたカメラが入っている。一方で,MINOX 35MLのような本来のコンパクトなカメラは,ライカと同じかてごり「距離計連動/テクニカルカメラ」に含まれる。MINOX 35MLは目測式,AE式なので,距離計連動カメラでもなければ,テクニカルカメラといえるようなものでもなさそうなのに。
 そもそも,これらを含む大分類「35ミリカメラ」というのも,あいまいな分類だ。「35ミリカメラ」の「35ミリ」は,135フィルム(幅35ミリのフィルム)を使うことをあらわしているわけだが,そのなかに「35ミリ一眼レフカメラ」と「そのほかの35ミリカメラ」があるというなら,わかる。しかし,「カメラ年鑑」での分類は,そうなっていない。

カメラを分類する視点や基準は,分類する人によって,いろいろな方法が考えられるとは思う。そう,「ライカ」と「それ以外」というのも,1つの主張としてじゅうぶんにアリだ。
 だからこそ,1つのメディアのなかでは,なんとかうまく,すっきりとまとめてほしいものである。


← 前のページ もくじ 次のページ →