撮影日記


2019年09月01日(日) 天気:雨ときどき曇

スタデラの歴史は深い

「写真のうまい人」とは,どんな人だろう?いまは,スマートフォンでもボタンを押すだけできれいな写真を撮ることができるようになっている。だから,単にきれいにきっちりした写真を撮れるだけでは,「写真のうまい人」とはいわれない。それに対して昔は,まず,きれいな写真を撮ることそのものがむずかしかった。だから,ピントがきっちりあって,適切な露出を与えて,きれいなプリントが得られる人が,「写真のうまい人」とよばれていた。
 >適正な露出を知るためには,被写体の明るさを測定するための露出計が必要である。明るさの違いを電力に反映させて指針を振らせる電気露出計は,1930年代のアメリカのWestonが発売している。そして,さまざまな電気露出計が,市場にあらわれるようになった。その後,電気露出計はカメラに内蔵されるようになり,自動露出機構へと発展した。
 いま発売されているほとんどすべてのカメラには,なんらかの形で露出計が内蔵されている。だから,単体の露出計を使う機会は大幅に減少している。いまでも単体の露出計を使う場面としては,いわゆるクラシックカメラを使う場合が例として考えられる。露出計が内蔵されていないカメラを使うのだから,単体の露出計を使いたくなるのは当然だろう。

電気露出計は,明るさの測定方法の違いから,大きく2つにわけることができる。
 1つは,被写体で反射してくる光の明るさを測定する,反射光式露出計である。
 もう1つは,被写体にあたる光そのものを測定する,入射光式露出計である。
 カメラに内蔵された露出計はすべて,被写体で反射してきた光を測定しているので,反射光式露出計である。反射光式露出計の場合,被写体がどれくらい光を反射する材質であるかや,その色によって,適正と判断される露出の値が異なってくる。一方,入射光式露出計の場合は,反射の程度にかかわる被写体の材質や,被写体の色による影響を受けないことになる。
 だから,いまあえて単体の露出計を使いたい場面があるとすれば,入射光で測定したい場合が考えられる。

入射光式の露出計として代表的な製品に,セコニックのスタジオデラックスがある。
 測光したいところで光球をカメラと平行になるようにして,ダイアルスケール中央のストッパーボタンを押す。すると指針が自由に動くようになり,明るさに応じて振れる。ストッパーボタンから指を離すと,指針がそこで固定される。指針が示す値にあわせてダイアルスケールを回し,シャッター速度と絞り値の組みあわせを読み取ることで,適切な露出の値を知ることができる。

L-398で測光

日本カメラショー「カメラ総合カタログ」では,1966年版(vol.24)あたりから掲載されているL-28cというモデルから,スタジオデラックスという名称が使われている。この取り扱い説明書には,「入射光式であること」「光球を使用していること」などが特色として述べられている(*1)。

L-28c
L-28c
セコニック スタジオデラックス L-28c

日本カメラショー「カメラ総合カタログ」1971年版(vol.41)あたりからは,L-28c2というモデルが掲載されるようになっている。見くらべたところ,絞りの目盛がF1〜F45だったのがF1〜F90に書きかえられたことくらいしか,違いがわからなかった。前年にくらべて大幅に価格が改定されている(本体7400円→本体11200円)ので,値上げのための方便としてモデルチェンジをしたのではないか,と思いたくなるくらいである。

L-28c
L-28c2
セコニック スタジオデラックス L-28c2

日本カメラショー「カメラ総合カタログ」1976年版(vol.56)あたりからは,L-398というモデルが掲載されるようになっている。大きな変更点として,ダイアルスケール中央のストッパーボタンを押して回すと,押しこんだ状態でボタンを固定できるようになった。指針が自由に動く状態が維持されるので,明るさの差を比較しやすくなっている。 このとき,L-28c2の価格は13,600円になっており,L-398は16,600円である。

L-28c
L-398
セコニック スタジオデラックス L-398

スタジオデラックスは,このように少しずつモデルチェンジされながら,現在も発売されている。日本カメラショー「カメラ総合カタログ」1990年版(vol.97)からは,スタジオデラックスII L-398Mというモデルが掲載されている。L-398からの変更点としては,メモ用設定指針が設けられたことや,ダイアルの感度表記がASAからISOになっていることなどがある。
 現行商品は,スタジオデラックスIII L-398Aというモデルで(*2),日本カメラショー「カメラ総合カタログ」につづく,CIPA「カメラ映像機器総合カタログ」2006年版(vol.122)から掲載が見られる。前モデルL-398Mとの違いとしては,受光素子がセレン光電池からアモルファス光センサに変更された点がある。セレン光電池であれアモルファス光センサであれ,いずれにしても受光素子そのものが発電するため,測光のために別途電池を用意する必要がないことには,変わりはない。

スタジオデラックスの測光の特徴は,光球を使用していることである。
 光球によって,実際には立体である被写体と同じ状態で光を受けられることが,最大の特徴であるとしている。

光球

光球は,1940年にアメリカのD. Norwood氏が特許を得たものである。そして,これを利用した露出計NORWOOD Directorが発売された。
 camera-wiki.orgでの記述(*3)によれば,最初のmodel AはPhoto Resaerchによって製造されたことになっている。つづいて1948年に,America Bolexが製造したmodel Bが発売された。このmodel Bの姿は,スタジオデラックスとそっくりである。America Bolexはまもなく,Director Productsに名称を変更している。そして,model Cを発売している。

L-28c
model C
ノーウッド ディレクター model C (DIRECTOR PRODUCTS)

model Dとされるものでは,表側の目盛部の表記がNORWOOD DIRECTORにかわってBROCKWAYになった。
 そして,model Sとされるものでは,セコニックが製造にかかわるようになってきた。上のmodel CはMADE IN U.S.A.の表記があるが,このmodel SにはMade by SEKONIC ELECTRIC CO. TOKYO JAPANという表記がある。

L-28c
model S
ノーウッド ディレクター model S (BROCKWAY CAMERA)

表にはBROCKWAYという名前が表示されているが,商品名はNORWOOD Director model Sである。発売元はBROCKWAY CAMERA CORPORATION NEW YORKであるが,製造は日本のセコニックという,じつに複雑な状況である。
 このモデルはのちに,セコニック スタジオS L-28として発売されるようになった。それが,スタジオデラックスへモデルチェンジを重ねていくのである。
 スタジオデラックスには,このような長い歴史が,背景に刻まれているのだ。

今日,久しぶりに会った友人から受け取ったもののなかに,NORWOOD Director model Cとmodel Sが含まれていた。いつも貴重な資料をわけていただき,感謝に堪えない。

*1 スタジオデラックス L-28c 取扱説明書  (株式会社セコニック)
https://www.sekonic.co.jp/product/meter/download/pdf/manual/L-28c.pdf

*2 スタジオデラックスIII L-398A  (株式会社セコニック)
https://www.sekonic.co.jp/product/meter/l_398a/l_398a.html

*3 Norwood Director  (camera-wiki.org)
http://camera-wiki.org/wiki/Norwood_Director


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