撮影日記


2019年05月30日(木) 天気:晴れ

ヨンサンハチロクはモノクロ用?

レンズ交換式のカメラには,超広角レンズから超望遠レンズまで,さまざまな焦点距離の交換レンズが用意されていることが多い。
 かつて,レンズ交換式35o判カメラは,「標準レンズ」とセットで売られているものだった。標準レンズとは,広い範囲を写すことができる広角レンズでもなければ,遠くのものを引き寄せて写すことができる望遠レンズでもない,その間の標準的なレンズというくらいの意味をもつ。
 35oフィルムを使うカメラでもっとも主流といえるフォーマットは,画面サイズが24mm×36mmの「ライカ判」である。ライカ判のカメラでは,50oレンズが標準レンズとされることが多かった。そして,およそ35mmよりも焦点距離の短いレンズが広角レンズ,およそ80oよりも焦点距離の長いレンズが望遠レンズとされてきた。
 一方で,50oレンズを標準レンズとすることへの批判のような意見を目にすることがある。そのような批判では,50mmという焦点距離は,標準とよぶには少々長いのではないか,という意味のことが述べられる。そのような主張を詳しく見れば,画面の対角線の長さの焦点距離のレンズこそが標準レンズであると言っているようだ。それにしたがえば,ライカ判の標準レンズの焦点距離は,43mmとすべきということになる。

最近のレンズ交換式カメラでは,標準レンズではなく,標準ズームレンズというものがセットで売られていることが多い。
 標準ズームレンズについて,きちんとした定義があるわけではないようだが,おおむね次のような要素を満たしているものが,標準ズームレンズとよばれるようだ。

 

1 標準域をはさんで,広角域と望遠域の焦点距離を使える。

2 標準レンズと大差ない大きさ,重さ,価格である。

1963年に発売されたZoom-NIKKOR Auto 43-86mm F3.5は,ニコンからはじめて発売された標準ズームレンズとされている。
 ところで,世界ではじめて発売されたライカ判カメラ用標準ズームレンズは,このレンズより先の1959年に,VoigtlanderのBessamatic用に発売されたZoomar 36-82mm F2.8とされている。しかし,標準ズームレンズの条件として,上記の2つを満たさなければならないとすれば,Zoomar 36-82mm F2.8は1を満たしていても2を満たしていないことになる。そう考えれば,2を満たしているZoom-NIKKOR Auto 43-86mm F3.5こそが,世界ではじめて発売されたライカ判カメラ用標準ズームレンズということになる。
 だが,ライカ判での標準レンズの焦点距離は43oだということになれば,少し事情がかわってくる。Zoom-NIKKOR Auto 43-86mm F3.5の短焦点側は43mmなので,広角域の焦点距離をカバーしていないことになり,条件1を満たさないことになる。

面倒なので,こういうことを考えるのは,やめておこう。

ともかく,Zoom-NIKKOR Auto 43-86mm F3.5は,発売当時としては画期的なレンズだった。さほど高価でもなく,さほど大きくもなく,それでいて標準レンズの焦点距離50oをはさんで,広角側と望遠側の焦点距離を使えるレンズだったのである。もっとも,製品に対する不満もいろいろあったようである。たとえば,開放F値がF3.5にすぎず暗いという不満や,短焦点側と長焦点側の焦点距離の比(ズーム比)が2倍程度ではあまり意味がない,とくに広角側がものたりないという不満などである。
 さらに,画質がいまひとつすっきりしない,というものも指摘されていた。だが,現在,このレンズを見直すにあたっては,画質の悪さも1つの個性として受け取れるのではないだろうか。

ニコンの43-86mm F3.5のズームレンズは,「ヨンサンハチロク」とよばれる。ヨンサンハチロクは,大きく2つに分類できる。
 1つは,1963年に発売された7群9枚構成のものである。このレンズは,1974年にモデルチェンジをしてレンズのコーティングが改良された(マルチコート化)。
 もう1つは,1976年に発売された8群11枚構成のものである。このレンズは1977年にモデルチェンジをして,Ai化(開放F値自動補正方式)された。
 ヨンサンハチロクの個性的な描写を楽しむならば,さまざまな改良がされる前の,Ai方式ではないできるだけ初期のレンズで試してみたいものである。そのため,Ai方式ではないレンズに対応させた,Kodak DCS 460 (2017年11月20日の日記を参照)で使ってみよう。

Kodak DCS 460, Zoom-NIKKOR Auto 43-86mm F3.5

被写体によく日があたり,じゅうぶんなコントラストが得られているせいか,開放で使っているのにアラが目立たない。もちろん,きれいに写っていることは,基本的に喜ばしいことである。

Kodak DCS 460, Zoom-NIKKOR Auto 43-86mm F3.5

半逆光の条件で撮っても,目だって気になるところが見えてこない。きれいに写っていることは喜ばしいことなのだが,正直な気持ちとしては,期待はずれである(2019年2月2日の日記を参照)。

Kodak DCS 460, Zoom-NIKKOR Auto 43-86mm F3.5

これくらい,きっちり写ってくれるなら,モノクロ化してもおもしろいはずだ (2019年5月26日の日記を参照)。

Kodak DCS 460, Zoom-NIKKOR Auto 43-86mm F3.5

ほぼ,期待通りの画像が得られた。Zoom-NIKKOR Auto 43-86mm F3.5が発売された時期は,まだモノクロフィルムも多く使われていたはずだ。モノクロで表現する場合の相性は悪くないはずだ,と思いこんでおくことにしよう。

なお,Kodak DCS 460の撮像素子の大きさは,ライカ判よりもすこし小さいものである。だから,写る範囲は焦点距離をおよそ1.3倍にしたレンズと同等のものとなる。つまり,43-86mmではなく,56-112mmのレンズと同等の使い勝手となる。ヨンサンハチロクを,標準ズームレンズとしてではなく,どちらかというと望遠ズームレンズとして使うことになったわけだ。


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