撮影日記


2017年10月09日(月) 天気:はれ

ベラミはデザインだけじゃない

カメラというものは,精密な機械である。そして,カメラというものは,基本的に高級品であった。
 だから,カメラの重要なオプション品として,ケースというものが用意されていた。カメラはケースにいれて,傷がつかないように,衝撃で壊れないように,たいせつに使われ保管されてきた。
 また,カメラのレンズも,精密で高価な光学部品である。レンズには,汚さないように,傷をつけてしまわないように,使わないときにはキャップをかぶせるものであった。しかし,レンズキャップというものは,落としてなくしてしまいやすい。メーカー名などの入っていない,汎用のレンズキャップが,カメラ・写真用品としてよく売られていたものである。
 その一方で,ケースやレンズキャップを使わないデザインのカメラも発売されるようになった。そのようなカメラでは,なんらかの方法で,レンズの前面を保護できるようなしくみが設けられている。たとえば,ケースレスカメラの先駆者の1つとされる1979年に発売されたOLYMPUS XAでは,前面にスライド式のレンズバリアが設けられて,レンズおよびピント調整やフィルム感度設定などの操作部を覆うようになっている。1981年に発売されたMamiya Uでは,レンズだけを覆うようなレンズバリアが設けられている。

OLYMPUS XAのレンズバリアは,レンズのほか,一部の操作部分を覆うようになっている。多機能でありながらも,閉じたときにはシンプルさを強調するようになっている。
Mamiya Uは,操作する内容の少ないシンプルなカメラである。レンズバリアは,レンズ面のみを覆うようになっている。

レンズ前面の保護とカメラの小型化を狙って,沈胴式のカメラもいろいろと提案されてきた。1974年に発売されたMINOX 35ELでは,レンズカバーを手で開くと,あわせてボディ内にひっこんでいたレンズが出てくるようになっている。

MINOX 35ELは沈胴式のため,レンズバリアを閉じるとカメラがフラットになる。ただし,このレンズバリアのために,ピントや絞りを選択する操作は,やや困難になる。

1981年に発売されたCHINON Bellamiも,沈胴式のデザインを採用したカメラである。カメラ前面のレンズバリアは観音開きになっており,巻き上げレバーの操作によって開閉する。

CHINON Bellamiは,巻き上げレバーを引き出すと,観音開きのレンズバリアが開いて,撮影ができる状態になる。巻き上げレバーを押しもどすと,レンズが沈胴し,レンズバリアが閉じる。

同じ沈胴式のカメラでも,MINOX 35ELの場合は,レンズ下部には開いたレンズバリア,左右にはレンズバリアをささえるタスキがあり,3方を囲まれた状態になる。そのため,そのすき間に指を入れて,絞りやピントを選択する操作がやや困難である。
 それに対してCHINON Bellamiは,レンズの左右がレンズバリアに囲まれるものの天地は開いているため,ピントの選択操作は比較的容易である。

CHINON Bellami(チノン・ベラミ)は,レンズバリアの開閉のしくみがおもしろく,レンズバリア前面に馬車の絵が描かれていることもあって,操作性や描写よりも,見た目のデザインを重視したカメラのような印象も受ける。しかし,実際に使ってみると,思ったよりも使い心地はよい。巻き上げと同時にレンズバリアがパカッと開くと,さあ撮るぞ!という気分を盛り上げてくれる。巻き上げレバーをもどしてレンズバリアを閉じると,さあ,次の被写体をさがしに行こう!という気分になる。

CHINON Bellami, CHINONEX COLOR LENS 35mm F2.8, 業務用フジカラー100

晴天の好条件での撮影だが,解像力はじゅうぶんなものがあるようだ。また,画面内に強い光源があっても,この程度であれば派手なゴーストが発生することもないようである。

CHINON Bellami, CHINONEX COLOR LENS 35mm F2.8, 業務用フジカラー100

遠景の描写にも,問題は感じない。

CHINON Bellami, CHINONEX COLOR LENS 35mm F2.8, 業務用フジカラー100

この明るさであれば,ほどほどに絞りこまれた状態と思われる。開放でもないはずなのに,さほど接近していない人物が背景からじゅうぶんに浮かびあがっているように見えるのは,このレンズの描写の特徴になるだろうか。

CHINON Bellami, CHINONEX COLOR LENS 35mm F2.8, 業務用フジカラー100

CHINON Bellamiは,カメラとしての本質以外の面を重視したように思われるが,操作性や描写力もじゅうぶんな実力をもっているようだ。よい出会いがあれば,積極的にお迎えして,手元においておくことをおすすめしたくなる1台である。

CHINON Bellamiは,露出調整はプログラムAE,ピント調整は目測式で,フラッシュ撮影は専用のフラッシュを装着しておこなうようになっている。その後1989年に,CHINON Belami AF(チノン・ベラミAF)という,露出調整はプログラムAE,ピント調整はオートフォーカスで,内蔵されたフラッシュが常時自動発光するカメラが発売されている(2004年8月28日の日記を参照)。レンズバリアの開き方は異なるが,これも沈胴式のカメラなので,CHINON Bellamiの後継機という位置づけと思われるが,チノン・ベラミは「Bellami」という綴りであるのに対し,チノン・ベラミAFは「Belami」という綴りを使っている。このあたり,いったいどういう事情があるのだろうか。さらに,2014年に発売されたディジタルビデオカメラ,チノン・ベラミHD-1ではふたたび「Bellami」という綴りにもどっている(2017年7月20日の日記を参照)。「L」の数が増えたり減ったり,「ベラミの謎」は混迷を深めていくのであった。


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