撮影日記


2017年02月04日(土) 天気:晴

いまさらAPS!
Nikon PRONEA600iの魅力?を再認識

ディジタルカメラの話題では,「APSサイズ」という語句が使われる。「APS」とはもともと,Advanced Photo Systemの略称である。1996年4月に販売が開始された写真のシステムで,磁気記録層をもったフィルム(IX240カートリッジフィルム)を使い,撮影時にカメラで記録された撮影情報が現像所でも共有できるというしくみをもっていた。多くのフィルムメーカーやカメラメーカーが製品を発売するなど,業界として大きな期待をしていたものと思われるが,従来からのパトローネ入り35mmフィルム(135フィルム)を置き換えるほどには普及せず,2011年には販売の終了がアナウンスされた(2011年7月6日の日記を参照)。結果として,システムとしてはごく短命に終わっている。
 撮影時に記録され,現像所と共有する情報の1つとして,プリント時のフォーマットの情報がある。APSカメラでは,撮影時にプリント時のフォーマットを3種類から選択することができた。そのうちの1つに,「C」(クラシック)というものがあった。これは,プリント時の縦横比が2:3になるもので,フィルム上の画像の大きさは16.7mm×23.4mmになる。ディジタルカメラで「APSサイズ」というのは,撮像素子がこの大きさに近いものであることを意味している。だから「APSサイズ」ではなく「APS-Cサイズ」とよぶのが正確である。
 APSという語句は,これからも撮像素子の大きさをあらわすものとして使い続けられると思われる。しかし,本来のAPSの意味は,その製品とともに忘れ去られていくのだろうか。

Nikon PRONEA 600iは,1996年12月に発売された,APSの一眼レフカメラである。「APSの一眼レフカメラ」とは,もちろん「APS-Cサイズの撮像素子をもつディジタル一眼レフカメラ」の意味ではなく,「APSのフィルム(IX240カートリッジフィルム)を使う一眼レフカメラ」の意味である。APSの販売開始は1996年4月だから,ほとんどさいしょから,高級機が用意されていたことになる。APSの一眼レフカメラはニコンのほか,キヤノン(2014年2月15日の日記を参照)やミノルタからも発売された。
 私はこれまで,Nikon PRONEA 600iを高く評価していなかった。むしろ,まったく興味がなかったという状況に近い。そもそも,APSに対して懐疑的だった。APSでは,135フィルムにくらべてフィルムのサイズが小さいので,どうしても画質の低下が懸念される。そのような声にあらかじめ対処するかのように,当時は,フィルムに新技術が使われているので画質の低下はない,というような表現が使われていた。それは,ほんとうか?ならばその新技術とやらを,135フィルムや120フィルムに使ってみなさい。そうなったら当然,画質の面で不利になるのではないか?このように,やや胡散臭いものに思っていたものである。少なくとも私は,135フィルムからAPSへ完全に乗り換える気にはまったくならず,併用してみようという考えをもつことすらなかった。

このNikon PRONEA 600iは,ほしくて入手したわけではないのである。
 昨年は,ジャンクの一眼レフカメラのセットを何回か購入した(2016年12月29日の日記を参照)。そのセットに含まれている機種から部品を取ることや,そのセットに気になる機種が含まれていたからである。このNikon PRONEA 600iは,そこに含まれていた1台である。
 つい先日,APSのLeica C11を入手してしまったので(2017年1月30日の日記を参照),購入したジャンクカメラのなかに含まれていたNikon PRONEA 600iが気になるようになったのである。

 

Nikon PRONEA 600iは,素材が劣化しているのであろうか,グリップ部にべたつきが生じていた。このべたつきは,アルコールをつけて拭くと,簡単に除去できた。さらに素材が劣化して,グリップ部が崩壊することがないように気をつけたい。
 それ以外はとくに問題なかったようで,電池を入れるとあっさりとカメラは起動した。電池ボックスにも,とくに問題はみられない。
 背面の液晶表示パネルが大きいので,パッと見には,ディジタル一眼レフカメラのようである。

これまで関心をもっていなかった機種であり,じっくりとさわるのは,はじめてのことである。
 オートフォーカスの測距点は中央の1つだけであるが,AF-Sレンズでもオートフォーカスがはたらくし,VR機能も反応しているようだ。ただし,ニコンのWebサイトでは,VR機能の対応機種にPRONEA 600iは含まれていない(*1)ので,VR機能がはたらいているような音がするものの,実際には効果が出ないのかもしれない。機能的にはNikon PRONEA 600i以前に発売されていたNikon F70に近いものをもつようだが,VR機能がきちんとはたらくのであれば,後に発売されることになるNikon F80に近づいているといえる。
 Nikon PRONEA 600iでは,オートフォーカスのニッコールレンズが使用できる。さらに,ライカ判よりも小さな画面サイズにあわせたIX-NIKKORという専用のコンパクトなレンズも用意された。IX-NIKKORには絞りリングがなく,機能の面ではGタイプのレンズと同じである。Nikon PRONEA 600iは,ボディに2つのダイアルがあってそれぞれシャッター速度と絞りを選択できるようになっている。そういう点では,Nikon F70ではなくNikon F-401シリーズに似ている。
 Nikon PRONEA 600iでは,プログラムAE,絞り優先AE,シャッター速度優先AE,マニュアル露出の各モードが使用できる。これらはボタンを押してダイアルを回して選択するので,この点ではNikon F70やNikon F80ではなく,Nikon F-801,F-601,F90に似ている。また,Nikon PRONEA 600iは,基本的にプログラムAEだけを使うBASICモードと,マルチモードAE機として使うためのADVANCEモードをスイッチで切り替えるようになっている。この点は,Nikon F50に似ている。
 Nikon PRONEA 600iの操作性や機能を一言でまとめると,Nikon F-401,F-601,F-801,F50,F70,F90の「いいところ」を集めたもの,ということになる。そして,それらより後から発売されたぶんだけ,VR機能に対応するようになっている。

こうしてみると,Nikon PRONEA 600iの立ち位置が,微妙なものであると思えてくる。
 Nikon F50のSIMPLEモードに似たBASICモードが用意されている点は,エントリー機種としての性格をもたせていると考えられる。
 一方で,機能はじゅうぶんに盛りこんでいることやボタンを押してダイアルでモード選択をするユーザインタフェースを採用している点は,Nikon F90あたりのユーザが使っても違和感のないことを強く意識していると考えられ,これは中級機から上級機としての性格を持たせていると考えられる。
 立ち上がったばかりのAPSがどんな市場になるのか,エントリーモデルとしても上級機としても使える機種を投入して,ようすをうかがおうとしたのではないだろうか。

いまさらながら,Nikon PRONEA 600iが魅力的に見えてきた。
 このコロッとしたスタイルも,とてもかわいらしく思える。上から見たときに三角形に感じる点は,Exaktaに対するExaに似ている。だがこのスタイルは,コンパクトなわりにはカバン等へのおさまりが悪いと感じるのだ。いつも携帯しておくような使い方には,似合いそうにない。この点は,残念だ。
 私の手元にあるIX240カートリッジフィルムは,あと数本だけ。もちろんすべて,とうに期限は切れている。でも,Leica C11とNikon PRONEA 600iの使い心地を確かめるだけなら,それでもじゅうぶんかな。

*1 カメラとニッコールレンズの組み合わせについて|VRレンズとの組み合わせとご注意について (株式会社ニコン イメージング ジャパン)
http://www.nikon-image.com/products/lens/combination/#section01


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