撮影日記


2016年11月16日(水) 天気:晴

アルデバラン食があるでバラン

お弁当には,異なる料理が接触しないように,緑色のぎざぎざしたビニル製品が使われていることがある。これは,バランとよばれている。これは,今日,買ってきたお弁当だ。ほら。あるで,バラン。食べよう。

最近,「スーパームーン」という妙な言葉が,流行している。
 「スーパームーン」という言葉はきちんと定義されたものではないが,その年でもっとも大きく見える満月をさす,という意味で使われると考えておけば,ほぼ間違いない。月は地球の周囲をまわっているが,月の軌道は地球を中心とした真円ではないために,地球と月との距離はつねに変化している。したがって,満月のときの距離によって,月が大きく見えたり小さく見えたりする,ということだ。その差は最大で10%程度をこえるようだが,空に見える月を肉眼で見ただけでその違いがわかる人は,ほとんどいないのではないだろうか。望遠鏡の視野に目盛をつけて見てみたり,同じ条件で写真に撮ったものを同じ条件で並べたりすれば,その差ははっきりわかるようだが。
 つまり「スーパームーン」は,あらかじめ比較対象を用意しておかなければ,じゅうぶんに楽しむことはできないのである。そのような準備をともなわないままで「スーパームーン」に注目することは,バズワード(buzzword)に踊らされているにすぎない。背景に配慮しないままでバズワードに踊らされていると,スラングとしての「情弱(情報をうまく活用できないような人を揶揄する表現)」である,と認定されるかもしれない。

月に関する現象でも「月食」は,「スーパームーン」と違ってとてもわかりやすい。そのしくみを理解していないとしても,目の前で起こる現象をはっきりと目撃できるものである。「日食」も,わかりやすい現象であるという面では,同じことだ。
 ただし,地球から見る「日食」と「月食」とでは,現象として本質的に異なる面がある。「月食」は地球がつくる「影に入ることで見えなくなる」現象であるのに対し,「日食」は月が太陽の「前に立ちふさがることで見えなくなる」現象であるということだ。
 月が隠すものは,太陽だけじゃない。ほかの星でも,月に隠されることがある。
 昨夜(厳密には今日の未明)は,比較的明るい星が,月に隠される現象があった。月に隠されたのは,おうし座の1等星「アルデバラン」である。

これが,昨夜の月である。

Nikon D1, Vixen D=80mm f=1200mm

Nikon D1を使ったのには,理由がある。いちばんの理由は,私の手元にあるディジタル一眼レフカメラのなかで,いちばんファインダーの見えぐあいがよいことだ。つぎに,AFレンズでなくても,AEが使えることも大きな理由となる。ここまではKodak DCS 460も条件を満たすが,くわえて,ISO感度設定を変えられることもNikon D1を選ぶ理由となる。また,Nikon D1で使えるリモートケーブルを入手してあるという要素も重要だ。
 上の画像は,ISO400の設定で1/60秒の露光をおこなっている。ソフトウェアで露光を+1.33EV補正してみると,まもなく月に隠されようとするアルデバランが写っていることがわかる。

Nikon D1, Vixen D=80mm f=1200mm

ここに約1分40秒後の画像を重ねた。

Nikon D1, Vixen D=80mm f=1200mm

さらにその3分後の画像を重ねると,アルデバランがまもなく月に隠されようとするのが,よくわかる。

Nikon D1, Vixen D=80mm f=1200mm

こんどはNikon D1ではなく,Kodak DCS Pro 14nを使う。AEは使えないのでマニュアル露出を使うことになるが,露出の基準がわかったので,さほど問題ではない。Kodak DCS Pro 14nは,Nikon D1と同じリモートケーブルが使えるので,この点も問題はない。ISO感度は200まで使えればじゅうぶんであることが確認できたので,ISO感度の制約もうけない。ファインダーの見え具合はやや劣るとはいえ,ライカ判サイズのファインダーは,見やすいものである。

Kodak DCS Pro 14n, Vixen D=80mm f=1200mm

ISO200の設定で1/30秒の露光したものに,ソフトウェアで+0.67EVの補正をかけた。そして,一部を拡大してみると,月に隠されていたアルデバランが出てきていることがわかる。

Kodak DCS Pro 14n, Vixen D=80mm f=1200mm

およそ4分30秒後には,アルデバランはすっかり月から離れている。こうして,静かにアルデバラン食は終わった。

Kodak DCS Pro 14n, Vixen D=80mm f=1200mm

アルデバラン食は,「明るい星が月に隠される」というわかりやすい現象であるが,実際には肉眼で確認することは難しい。双眼鏡でもあれば,楽に見ることができる。ケンコー・ミラージュ7×50(2015年5月18日の日記を参照)でもじゅうぶんすぎるほどであった。
 肉眼では確認しにくいのは,いかにアルデバランが明るい星だといったところで,満月を過ぎたばかりの月は,アルデバランにくらべるとあまりに明るいためである。なんといっても,「スーパームーン」(笑)の直後なのだから,月もいつもよりさらに明るいものだった(らしい)のだ。

なお,次回のアルデバラン食は,2017年1月9日から10日にかけておこる(*1)。

*1 1月9日アルデバラン食 (大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 国立天文台)
http://www.nao.ac.jp/astro/sky/2017/01-topics04.html


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