撮影日記


2016年09月28日(水) 天気:曇ときどき晴

OLYMPUS OM101は名機なのか?それとも迷機か?

1985年にMINOLTA α7000が発売されて以後,各社から35mm判のオートフォーカス一眼レフカメラが発売されるようになった。オリンパスからも1986年に,OLYMPUS OM707というオートフォーカス一眼レフカメラが発売されている。そして1988年には,OLYMPUS OM101が発売された。

日本カメラショー「カメラ総合カタログ vol.91」 (1988年,日本写真機工業会)

日本カメラショー「カメラ総合カタログ vol.91」(1988年,日本写真機工業会)では,OLYMPUS OM101はOLYMPUS OM707と並んで掲載されている。また,OM101という3ケタの名称からは,これがOM707の下位モデルをあらわしているような印象を受ける。OLYMPUS OM707で特徴的だった,フラッシュ内蔵のグリップには対応していないようだ。よく見るとOLYMPUS OM101には,「PowerFocus」というサブネームがついている。
 パワーフォーカスとは何か?
 オートフォーカスとは,違うのか?
 パワーフォーカスについて,紙面では次のようにふれられている。

…新開発のパワーフォーカスにより,素早いレンズの動きと微調整が思いのままにできます。…

なにやら「よい」ことのようであるが,どういうものなのか,いまひとつよくわからない。そこはオリンパスも反省したのか,日本カメラショー「カメラ総合カタログ vol.93」(1988年,日本写真機工業会)では,つぎのような説明にかわっていた。

…ボディ側のダイヤルでピントを合わせるマニュアルフォーカスカメラの全く新しいタイプ…

OLYMPUS OM101は,オートフォーカス一眼レフカメラではなく,あくまでもマニュアルフォーカス一眼レフカメラということだ。「全く新しいタイプ」という表現には,自信のようなものもうかがえる。しかし,その狙いがよくわからない。また,ボディ側のダイヤル操作で,精密なピント調整ができるのかどうかも,わからない。なんだか使いにくそうな印象を受けたものである。
 OLYMPUS OM101は,あまり売れなかったのであろうか。中古カメラ店で見かけることはほとんどなく,また「パワーフォーカス」の後継機が発売されることなく,いつしか消えていた。
 オートフォーカスのOLYMPUS OM707も,後継機が発売されることなく,いつしか消えていた。

その後,ずいぶんたってから,ようやくOLYMPUS OM707を体験することができた(2005年3月21日の日記を参照)。実際に使ってみて,OLYMPUS OM707のシステムが続かなかった理由がわかったような気がした。OM707は,およそ一眼レフカメラでやりたいことが,なにもできないのである。オートフォーカスでプログラムAEのカメラだから,シャッターレリーズボタンを押せば,きれいな写真を撮れる。だが,AEロックはあるものの露出補正がないので,意図的なアンダー露出やオーバー露出にすることがやりにくい。また,オートフォーカスでうまくピントがあわないときやAFフレームのある中央以外の位置にピントをあわせようと思っても,マニュアルフォーカスモードがない。よく見れば,パワーフォーカスモードがあり,カメラボディ背面のレバーを動かすことで,ピントリングをマニュアル操作できるようになっている。これがすこぶる,使いにくい。
 あ,こんなところに「パワーフォーカス」があったのか!
 OLYMPUS OM707のパワーフォーカスは,オートフォーカスが効かないときだけに使う,まさに「非常用」の機能に思われた。それに対してOLYMPUS OM101は,パワーフォーカスを常用する。しかも,微調整が可能であると謳っている。OLYMPUS OM707のパワーフォーカスでは,とても微調整などできそうもない。いったいOLYMPUS OM101とは,どんなカメラで,そのパワーフォーカスはどんな使い勝手なのだろうか。気にはなるが,なかなか「よい出会い」がなかった。

OLMPUS OM101を中古カメラ店で見かけることは,滅多にない。インターネットオークションでも,あまり見かけない。あったとしても,やや強気の価格であるように感じた。だが私は,インターネットオークションに出品されていた「ジャンクカメラ 38台セット」のなかに,OLYMPUS OM101が含まれているのを見逃さなかった。そして無事に開始値の1円で落札できた。
 みなさんの目は,節穴でございますか?
 それとも,OLYMPUS OM101を欲しい人はすでに入手しており,いまさら欲しがる人は私くらいだったのだろうか?
 いや,どちらも違うだろう。たぶん,「38台」という大量のジャンクカメラを受け取ることを避けたい,そう考えた人が多かったのだ。きっと,そうだ。そうに,違いない。

ともあれ,総計38台のジャンクカメラに含まれる1台として,OLYMPUS OM101は無事に到着。

OLYMPUS OM101の電池ボックスには電池が腐食した跡が残っていたが,接点を磨いてあたらしい電池を入れると,無事に動作した。電池ボックスの蓋が破損していないという点で,まずはOLYMPUS OM707よりも好印象である(笑)。
 さて,OLYMPUS OM101のパワーフォーカスは,どのようなものであろうか。
 オリンパスAFレンズを装着して,電源スイッチを「P」にする。そしてカメラを構え,シャッターレリーズボタンに指をかけてファインダーを覗く。するとごく自然に,右手の親指が,パワーフォーカスのダイアルにふれるようになる。パワーフォーカスのダイアルをくりくり回すと,それに応じてピントリングが動く。じつになめらか,不自然さを感じない動きである。
 この感覚には,既視感がある。

なんだろう?
 そうだ,マミヤ・シックスだ!マミヤ・シックスは,レンズではなくフィルム面が動くことでピントをあわせる,バックフォーカスとよばれるしくみをもつ。レンズを動かしてピントを調整するのではなく,カメラをかまえたときの右手親指のところにあるノブを回して調整するのである。マミヤ・シックスは,マニュアル操作の中判スプリングカメラである。しかし,このインタフェースによって右手はシャッターレリーズとピント調整に集中できることから,オートフォーカスの一眼レフカメラを使っているかのような感触である。ぜひいちどは,その感触をたしかめていただきたい。
 OLYMPUS OM101の感覚は,マミヤ・シックスのそれと同じものだったのである。そして,ピント調整ダイアルの動きと,レンズのピントリングとの動きは,ほどよく一致し,ほどよく「遊び」もある。じつに自然で心地よい。
 OLYMPUS OM707のパワーフォーカスと,OLYMPUS OM101のパワーフォーカスは,名前こそ同じだが,まったく別のものであると考えるべきだ。インタフェースも,たぶんコンセプトも,まったく異なるものである。

そう考えると,OLYMPUS OM101は,OLYMPUS OM707の後継機である,と単純に考えてはいけなくなりそうだ。
 パワーフォーカスが同じ程度のものであれば,OLYMPUS OM101は,OLYMPUS OM707からオートフォーカスを省略した「廉価版」という位置づけになる。実際には,OLYMPUS OM707とOLYMPUS OM101のパワーフォーカスは,まったく別のものである。そうであれば,これら2機種はまったく別のシリーズであると考えるべきだろう。たまたま,レンズを共用できる,というだけのことだ。

「OM707は,機構的に失敗作である。商売的にも,失敗した。交換レンズの在庫を大量に抱えたので,それを売り切るために廉価なOM101が発売された。」というストーリーが語られることがあるようだ。はたしてこれは,真実を反映しているのだろうか?
 ここからあとは,少し妄想を語ってみたい。
 その中心は,もともと発売が予定されていたのは,OLYMPUS OM101のほうだったのではないだろうか,ということである。
 MINOLTA α7000の大ヒットを見るまでは,オートフォーカスはどこまで実用的なのか,一眼レフカメラのユーザにどこまで受け入れられるかは,予想できなかったことだろう。その一方で,オートフォーカスの一眼レフカメラを実現するためのしくみは,いろいろと準備されてきたはずだ。その1つに,ボディに内蔵したモーターでレンズのピントリングを回す,というものもあったことだろう。オートフォーカスにはまだ時期尚早だから,まずはモーターでピントリングを回すことを実用化させようとしたのではないだろうか。そういう方針が先にあったのなら,レンズのピントリングを手で動かしてピントをあわせることができないというOLYMPUS OM707の仕様がうまれた事情に納得できるというものだ。
 さらに,たとえば営業サイドから「オートフォーカスの一眼レフカメラを商品化してほしい」という要望があがってきたとする。そこまでできているなら,オートフォーカス一眼レフカメラの商品化も可能なのではないか,と。そこで開発サイドがそれを拒否すると,営業サイドの強い要望によって,別のチームがさっさとOLYMPUS OM707を商品化してしまったかもしれない。パワーフォーカスの理念が理解されないうちに,不完全な製品として…
 あくまでも妄想だが,それくらいの背景がなければ,OLYMPUS OM707があのような仕様になったことが理解できないというものだ。

OLYMPUS OM707やOM101に対しては,「使い物にならないOM707は迷機である。オートフォーカスもできないOM101は,迷機のなかの迷機である。」というニュアンスを感じられる評価を見かけることもある。
 有名なカメラ,評価の高かったカメラなどに対して,「名機」や「銘機」という表現がなされることがある。「迷機」はそれらをもじった表現であり,必ずしも辞書に載っているような言葉ではない。したがって,人によってそこから感じられるニュアンスには,それなりに差があるものと思う。いちおう私なりの「迷機」の解釈としては,「新技術を盛りこんだり,斬新な機能を実現したりして,一見すごそうなカメラであるが,実際に使ってみると,なんじゃあ?こりゃあ?となってしまうようなカメラ」を指すものとなる。
 OLYMPUS OM707はグリップ部にフラッシュを内蔵させたことや,スーパーFP発光という1/125秒よりも速いシャッタ速度でもフラッシュが使えるなど,フラッシュ撮影の面で注目すべき機能をもっていた。しかし,全体の操作性に難があると評価する人が多くみられた。
 OLYMPUS OM101のパワーフォーカスの快適さを重視すると,OLYMPUS OM707はやっぱり「迷機」なのかもしれないが,OLYMPUS OM101は「迷機」ではなく,むしろ「名機」になりえたのではないか?と思うのであった。


← 前のページ もくじ 次のページ →