撮影日記


2016年03月02日(水) 天気:晴れ

電池ボックスは朽ち果てても
リコーXR-10Mは立ち上がる

私は「リコーのカメラ」に対して,「安いけどしっかりと写る」ものがある,というイメージをもっている。1996年に発売されたRICOH GR1以降に「リコーのカメラ」を意識しはじめた人は,「リコーのカメラ」に「高級品」もあるというイメージをもっているかもしれないが,私にとって「リコーのカメラ」といえば,「安いけどしっかりと写る」ものなのである。「リコーのカメラ」といえば,「リコーフレックス」であり「リコーのサンキュッパ」なのである。こういうことを書くとリコーの関係者の方には失礼にあたるとは思うものの,私が「リコーのカメラ」に対してもっているイメージは,「高級」品というか「贅沢」品というものではなく,「実用的」「必要十分」というものである。
 実際に,「リコーのカメラ」は安くてよく売れたはずだ。中古カメラを専門に扱うお店を覗けば,リコーフレックスやリコーオートハーフをはじめ,「リコーのカメラ」が見つからないということは,まずないだろう。一方で,「高級品」であるGRシリーズもよく売れたようで,これも中古カメラ店でふつうに見かけることができる。
 しかし,それらにくらべると,一眼レフカメラはあまり見かけない。「リコーのサンキュッパ」ことRICOH XR500ならば比較的見かけることが多いものの,それ以外の一眼レフカメラはあまり見かけない。リコーの一眼レフカメラは,けっして高いものではないし,珍しいものでもないはずだ。故障が多いという風評も,聞こえない。安くて話題にはなるが意外と売れていないのか,あるいは海外ではよく売れたが日本国内ではあまり売れなかったのか,そのあたりの事情はよく知らない。
 ともあれリコーの一眼レフカメラは,珍しい存在ではないはずなのにあまり見かけない。よく売れたはずのRICOH XR500ですら,目にする機会はけっして多くない(2016年2月12日の日記を参照)。だから,とても状態の悪いものではあったが,ついついこのようなカメラを救出した。

1990年に発売された,RICOH XR-10Mである。
 1985年にMINOLTA α-7000が発売された後,ほかのメーカーからもオートフォーカス一眼レフカメラがいろいろと発売された。ペンタックス,オリンパス,キヤノン,京セラ,ニコンのほか,チノンやシグマからも発売されている。一方で,オートフォーカス一眼レフカメラを発売しなかった,コニカ,富士フイルム,マミヤなどは,そのまま35mm判一眼レフカメラの発売そのものをしなくなった。リコーは,オートフォーカス一眼レフカメラを発売せず,マニュアルフォーカス一眼レフカメラを発売し続けた貴重な存在ということになる。
 1990年といえば,すでに各社のラインアップは,オートフォーカス一眼レフカメラを中心とするものになっていた。そんな時代に,マニュアルフォーカス一眼レフカメラのRICOH XR-10Mがよく売れたのかと考えれば,少なくとも日本国内では大ヒット商品になっていなかっただろうと想像できる。
 このカメラをあまり見かけない理由は,たぶん,そのあたりにあるのではないだろうか。

1990年に発売されたRICOH XR-10Mは,1987年に発売された電動ワインダー内蔵のマルチモードAE機であるRICOH XR-Xの下位モデルと考えられる。電動ワインダーを内蔵し,露出モードは絞り優先AEとマニュアルのみだが,オートブラケティング機能があり露出補正は1/3段刻みで±4EVまで設定できる。AE機を使いたい人にとって必要な機能に,うまく絞りこんでいると思う。
 ただ,この時代であれば,AE機を使いたい人はオートフォーカス一眼レフカメラを選ぶことが多かったのではないだろうか。この時代にあえてマニュアルフォーカス一眼レフカメラを選ぶのであれば,オートフォーカスでマルチモードAE一眼レフカメラとは対極にある,機械制御式のフルマニュアルのカメラを選ぶケースが多かったのではないかと思う。少なくとも私の周囲では,そういう傾向が感じられた。実際に私のまわりには,同じリコーのカメラでも,もう少し後の1993年に発売されたRICOH XR-8を選んだ友人がいたものである。

ともあれ私はこれまでに,RICOH XR-10Mを見かけることがあまりなかった。しかも,そこに貼られた値札が100円だったので,迷うことなく救出した。
 だが,100円という価格には,それなりの理由がある。
 RICOH XR-10Mは,グリップ部に単3型電池を4本セットするようになっている。そのグリップの下部が大きく欠けていることからわかると思うが,内部で電池が腐食していたのである。それも,プラスチックのボディにまで大きなダメージをおよぼすほどの,激しい腐食のようだ。
 とてもじゃないが,これは動かないだろうと思いながらも,まずはグリップ部をはずす。電池から噴き出した塩を取り去り,プラスチックのボディが溶けて付着したような物質も,できるだけ取り除いた。そしてようやく,ボディ側に電力を伝える接点が見えてきた。その接点をやすりで磨き,6Vの電源を直結したところ,カメラの電源はオンになった。

動作することがわかったので,電池ボックスをできるだけきれいにして,ここに電池を入れられるようにしよう。腐食にかかわると思われる物質をできるだけ取り除き,接点にはやすりをかける。リード線が切れそうなところは,新しいリード線を使ってハンダづけをやりなおす。その結果,グリップ部に電池を収納したRICOH XR-10Mは,ふたたび立ち上がったのである。

立ち上がったのはよいが,操作がわからない。
 上面のLCDに「Auto」が表示されているので,いまは絞り優先AEモードになっているのだろう。これをマニュアルモードにしようと思うのだが,その方法がわからないのである。そばに「MODE」ボタンがあるので押してみるが,ここで選べるのはワインダー関係,露出補正,オートブラケティングの設定のようだ。「MODE」ボタンを押しながら「▽」「△」ボタンを押してみるが,これも違う。なぜだ?どうすればよいのだ?「絞り優先AE」と「マニュアル露出」とを,どのように切りかえればよいのだ!?

ファインダーを覗きながら,同じように操作を繰り返す。ファインダー内は,設定されるシャッター速度が細かく表示できるようになっている。FUJICA AX-1やMAMIYA ZEなどと違って,こういうところはオーソドックスにできている(2015年4月19日の日記を参照)。こういう点は,割り切ってもよいところと,割り切るべきではないところがきちんと区別されているとして,高く評価したい。ただ,ちょっと見にくいという問題はある。指針式のほうが,たぶん見やすい。
 ファインダーを覗きながら操作したあと上面のLCDを見ると,いつのまにかシャッター速度が表示されている。「▽」「△」ボタンを押すと数値が変わることから,いつのまにかマニュアルモードになったようだ。絞り優先AEモードに戻す方法がわからないが,とりあえずシャッター速度がカバーしている範囲を確認してみよう。「▽」ボタンを押すと数値がどんどん小さくなり,「4」(1/4秒),「2」(1/2秒)ときたら,つぎは「L1」(1秒)になる。そして「L16」(16秒)まで達したつぎは,「bulb」になる。

こんどは,「△」ボタンを押していく。「500」(1/500秒),「1000」(1/1000秒)ときて,「2000」(1/2000秒)になる。マニュアル露出で設定できるシャッター速度(露光時間)は,1/2000秒から16秒と,バルブとなる。
 さて,「2000」の表示のときにさらに「△」ボタンを押すとどうなるか。そう,表示は「Auto」になった。
 よくあるシャッター速度ダイアルと同じことなのだ。絞り優先AEが使えるカメラでは,シャッター速度の値が刻まれたダイアルのいちばん端には,「A」あるいは「AUTO」があるのがよくあるパターン。それをそのまま,「▽」「△」ボタンのインタフェースに反映させているだけだ。しかも,「2000」のときに「△」を押すと「Auto」になり,「bulb」のときに「▽」を押しても「Auto」になる。循環しているのである。さらに,「Auto」から「2000」あるいは「bulb」に変えるときには,気持ちほど長押しすることになる。絞り優先AEモードからマニュアルにするときに,ロック機構があるのとおなじことだ。

シンプルだ。とてもすばらしく,シンプルだ。
 なぜ,こんなシンプルなインタフェースに気がつかなかったのだろうか。
 きっと私が,「MODE」ボタンを押しながらダイアルで選択する,というニコン様のインタフェースに慣れきっているからに相違ない。


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