撮影日記


2015年10月16日(金) 天気:晴

「クラデジ」=「トイデジ」なのか?
OLYMPUS C-420Lは一味違う?

小学校の理科の時間に,凸レンズの実験をしたことがあるだろう。凸レンズは,光を1点に集めることができる。レンズの焦点距離を単純に言えば,太陽の光を紙の上の1点に集めたとき,レンズからその紙までの距離である。
 カメラのレンズにも,もちろん焦点距離というものがある。ただし実際のレンズには厚みがあり,さらにカメラのレンズは複数の凸レンズや凹レンズの組みあわせで構成されているため,どこからどこまでの距離が焦点距離になるのか,わかりにくいのはしかたない。ともあれ焦点距離が短いレンズほど広い範囲のものを写すことができ,焦点距離が長いレンズほど狭い範囲のものを写すことができるようになる。広い範囲のものを写すレンズはすなわち広角レンズであり,狭い範囲のものを写すレンズはすなわち望遠レンズになる。
 広角レンズと望遠レンズとの間に,標準レンズとよばれるものがある。標準レンズとはなにか,具体的な定義は一定していないようだが,たとえば画面の対角線の長さと等しい焦点距離をもつレンズを標準レンズとする考え方がある。その定義にしたがえば,ライカ判(24mm×36mm)の標準レンズは43mmということになる。実際にはさいしょのライカに搭載されたレンズの焦点距離が50mmだったため,50mmレンズが標準として定着している。
 さて,画面の対角線の長さを標準レンズの焦点距離とするならば,セミ判(42mm×56mm)の標準レンズは70mm,ブローニー判(56mm×84mm)の標準レンズは100mmとなる。画面サイズが大きいほど,標準レンズの焦点距離は長くなるし,画面サイズが小さいほど標準レンズの焦点距離は短くなる。ライカ判で210mmはかなりの望遠レンズだが,バイテン(8×10判)で210mmはむしろ広角レンズである(2011年8月10日の日記を参照)。画面サイズによって,標準レンズとされるレンズの焦点距離は,大きく異なるのである。

ディジタルカメラやその交換レンズのカタログでは,レンズについて次のような表記がされている。

焦点距離 6.1mm〜18.3mm (35mmフィルム換算:36mm〜108mm相当)

焦点距離 18mm-55mm 35mm判換算:27mm-82.5mmレンズの画角に相当

1つ目は,FUJI FinePix Z5fdの仕様(*1),2つ目は,ニコンD70などのディジタル一眼レフカメラ用標準ズームレンズ AF-S DX NIKKOR 18-55mm f/3.5-5.6G VRの仕様(*2)として公開されているものだ。「35mmフィルム」「35mm判」というのは,「ライカ判」のことである。これらのディジタルカメラに使われている撮像素子の面積は,ライカ判にくらべるとずっと小さなものである。そのため焦点距離50mmのレンズはライカ判では標準レンズであるが,これらのディジタルカメラで使うと望遠レンズになってしまう。カメラが一般に広く普及したとき,大半が「ライカ判」のものであった。レンズの焦点距離を意識する多くの人にとって,「50mmは標準レンズ」である。焦点距離をそのまま表記したのでは「妙に広角なレンズだな」と思われてしまう。したがって,ライカ判での何mmレンズに相当するかの情報が必要になっているというわけだ。

FUJI FinePix Z5fdでは,望遠側の焦点距離が18.3mmである。これは,ライカ判の108mmに相当する望遠レンズとなる。一方,ニコンのディジタル一眼レフカメラ用の交換レンズで18mmというのは,ライカ判では27mmに相当する広角レンズとなる。これは,FUJI FinePix Z5fdの撮像素子が,ニコンの一眼レフカメラの撮像素子にくらべて,ずっと小さいことを示している。具体的には,ニコンD70などのディジタル一眼レフカメラで使われている撮像素子はAPS-Cサイズとよばれるもので,その大きさは15.6mm×23.7mmである。FUJI FinePix Z5fdで使われている撮像素子は1/2.5型とよばれるもので,その大きさは4.8mm×6.5mmである。
 一般に,撮像素子の画素数が多いほど細かいところまで記録できるようになる。また,1つの画素が大きいほど,明るさの違いを細かく記録できるようになる。単純には,撮像素子の画素数が多いほどきれいな画像が得られ,画素数が同じなら撮像素子が大きいほどきれいな画像が得られる。FUJI FinePix Z5fdもNikon D70もどちらも10年ほど前の古い機種であるが,撮像素子の画素数は600万画素である。

もっと古い,私が「クラデジ」とよぶディジタルカメラ(2015年9月10日の日記を参照)の撮像素子は,どんなものだったのだろうか。
 たとえば,TOSHIBA Allegretto PDR-2の撮像素子は,1/4型 30万画素のものである(*3)。FUJI CLIP-IT DS-10sについては撮像素子の大きさがわからないが,搭載されたレンズの焦点距離が5.7mmで,それがライカ判の38mmレンズに相当するとのこと(*4)だから,FUJI FinePix Z5fdの1/2.5型よりもさらに小さなものであることは間違いない。また,CASIO QV-70の撮像素子は1/5型である(*5)。
 「クラデジ」に該当するディジタルカメラの撮像素子は,とても小さいものである。そのため,標準レンズとされるレンズの焦点距離も,ごく短いものになる。一般にレンズの焦点距離が短いと,被写界深度が深くなり,ピントがあっているように見える範囲が広くなる。「クラデジ」に該当するディジタルカメラはこの性質を利用し,ピントの調整が不要に(できないように)なっている。先にあげた,TOSHIBA Allegretto PDR-2も,FUJI CLIP-IT DS-10sも,CASIO QV-70も,接写モードが用意されているものもあるが,一般的な距離での撮影においてはピントが固定されている。ピント調整ができないことには,被写界深度を利用すればじゅうぶんだという面もあるだろうが,その他にコストを下げるという狙いも含まれているだろう。そしてそれ以前に,30万画素程度では高画質を狙ってもしかたない,という面も含まれているのではないかと思う。
 いまどきピント調整ができないディジタルカメラというと,「トイカメラ」「トイデジ」とよばれるようなものくらいだろう。「クラデジ」に該当するディジタルカメラの多くは,現代では「トイデジ」としてしか楽しめないということになるのだろうか?
 そのように眺めてみると,OLYMPUS C-420Lは注目に値する。30万画素クラスのディジタルカメラでありながら,きちんとオートフォーカスがはたらくようになっている。その見た目も,いかにもカメラらしい姿をしている。

では,オートフォーカスがはたらくことの効果を見てみよう。
 まずは,ピントが固定されているディジタルカメラ,FUJI CLIP-IT DS-10sで撮った画像である。

FUJI CLIP-IT DS-10s

つぎに,OLYMPUS C-420Lで撮った画像である。

OLYMPUS C-420L

いずれも,画像の大きさはもとのまま(640ピクセル×480ピクセル)である。
 右手前にある立札にはなにか文字が書いてあるんだろうな,という程度で,なにが書かれているか判別できない。左側の郵便ポストに書かれた「郵便 POST」の文字は,OLYMPUS C-420Lのほうがやや解像しているように見えるが,これがオートフォーカスの効果かどうかはわからない。

次は,もっと近づいて撮った画像をくらべてみよう。まずは,FUJI CLIP-IT DS-10sで撮った画像である。

FUJI CLIP-IT DS-10s

つぎに,OLYMPUS C-420Lで撮った画像である。

OLYMPUS C-420L

FUJI CLIP-IT DS-10sで撮影した画像では,なんとか文字を読み取ることができる。OLYMPUS C-420Lで撮影した画像では,文字がさらにはっきりしてくる。一般的に固定焦点のカメラでは,被写界深度を利用して無限遠までがピントがあって見える範囲になるようにするため,被写体との距離が3mから5mくらいのところにピントの中心がくるようにしてある。したがって,それよりも近距離にあるこの立て札を撮った場合には,オートフォーカスの効果が出ているものと考えられる。
 オートフォーカスでピントがあわせられることによって,OLYMPUS C-420Lは30万画素クラスのディジタルカメラとしては一味違うものになっているようである。

OLYMPUS C-1400L

それでも,OLYMPUS C-1400Lで撮影した画像(1280ピクセル×1024ピクセルで撮影したものを640ピクセル×512ピクセルに縮小)とはくらべものにならない。「クラデジ」の時代に登場したOLYMPUS C-1400Lが,いかに当時としては衝撃的な性能だったか,あらためて思い知ることになったのであった。

*1 「FinePix Z5fd」主な仕様 (富士フイルム株式会社)
http://www.fujifilm.co.jp/corporate/news/article/ffnr0056b.html

*2 AF-S DX NIKKOR 18-55mm f/3.5-5.6G VR 主な仕様 (株式会社ニコン)
http://www.nikon-image.com/products/lens/nikkor/af-s_dx_nikkor_18-55mm_f35-56g_vr/spec.html

*3 ポケットサイズのデジタルスチルカメラ「Allegretto(アレグレット)」の発売について (株式会社 東芝)
http://www.toshiba.co.jp/about/press/1997_06/pr_j1601.htm

*4 富士フイルム デジタルカメラ 累計50万台突破記念 “クリップ・イット”「DS−10S スケルトン・モデル」を限定発売 (富士フイルム株式会社)
http://www.fujifilm.co.jp/news_r/nrj235.html?&_ga=1.21311229.716563802.1420611861#h30101

*5 QV-70 取扱説明書 (カシオ計算機株式会社)
http://support.casio.jp/storage/pdf/001/QV-70.pdf


← 前のページ もくじ 次のページ →