撮影日記


2015年03月18日(水) 天気:曇りのち雨

ニコンをニコイチする F-501AFの改造

ニコン「F-501AF」は,ニコンではニコン「F3AF」につづいて2番目に発売されたオートフォーカス一眼レフカメラである。そのオートフォーカスの性能はいまとなってはとても「残念」なレベルであり,そのためかNikon F-501AFそのものが「つまらないカメラ」とみなさているように感じる。だが,F-501AFの魅力は,オートフォーカスだけではない。大きな魅力の1つとして,「マニュアルフォーカスのニッコールレンズでもプログラムAEが使える」というものがある。マニュアル露出のほか,絞り優先AEとプログラムAEが使える,マルチモードAE機なのである。そのユーザインタフェースは,マニュアルフォーカスのマルチモードAE機としてオーソドックスなものであり,とても使いやすい。ファインダーの見え具合も,中級機としては悪くない(ファインダースクリーンの交換もできる)。
 ニコンの一眼レフカメラにおいて,マニュアルフォーカスレンズでプログラムAEが使える機種は限られている。はじめてマルチパターン測光(多分割評価測光)を搭載した「Nikon FA」,エントリークラスのマルチモードAE機「Nikon FG」,電動ワインダーを内蔵した「Nikon F-301」,そしてオートフォーカス機である「Nikon F-501AF」の4機種だけだ。
 ところで,マニュアルフォーカスのニッコールレンズは,「非Aiレンズ」とよばれる初期のものと「Aiレンズ」とよばれるものの2つに大別できる。「非Aiレンズ」でプログラムAEが使えるボディは,残念ながら存在しない。プログラムAEに正式に対応しているマニュアルフォーカスのニッコールレンズは,「Aiレンズ」をさらに改良してボディ側から絞りを正確に制御できるようになった「Ai-Sレンズ」とよばれるものだけである。
 「非Aiレンズ」は,絞りリングのF5.6の位置につけられた爪で,絞りのF値の情報をボディ側に伝達するしくみをもつ。「Aiレンズ」は,レンズの根元にある突起で,絞りを開放から何段階絞ったかという情報をボディ側に伝達するしくみをもつ。これらの間には互換性の配慮もあり,後から発売されたAiレンズには,非Aiレンズに設けられていた爪と同じものがついていた。これによってAiレンズは,非Ai方式のカメラボディに装着して開放測光などを非Aiレンズと同じようにおこなうことができた。ただしその逆に,Ai方式の連動のためのピンがあるため,Ai方式のカメラボディには,非Ai方式のレンズを装着することができない。Ai方式の連動のためのピンが倒せるようになっている一部の機種には,非Ai方式のレンズを装着できるが,開放測光は使用できない。

先日の日記で紹介したように,AFニッコールのピントリングを動かすための「AFカプラ」が故障したNikon F-501AFと,Ai方式連動のための「Aiカプラ」が故障したNikon F-501AFとをニコイチして,動作するNikon F-501AFを完成させた。するとあとには,「AFカプラ」も「Aiカプラ」も故障した状態の,Nikon F-501AFのジャンクが残ることになる。「AFカプラ」は役に立たなくなっているが,ひっこんだままの状態で邪魔にはならない。一方,「Aiカプラ」は動かなくなっているので,絞りを動かすときの妨げになるし,不用意に動かれると測光結果に影響をおよぼす。
 そこで,F-501AFをニコイチしたあとの残骸である,ジャンク状態のF-501AFから「Aiカプラ」を撤去することにした。「Aiカプラ」を撤去した跡は,不用意な光線漏れなどにつながらぬよう,革の端切れで埋めておいた。また,「Aiカプラ」につけられた接点も撤去することになるので,レンズが開放の状態とあう位置を短絡させるようにしておいた。

オートフォーカスもAi方式の露出計連動も使えないから,これは「Nikon F-501AF」ではなく,「Nikon F-501非Ai」ということになる(笑)。さて,この状態のカメラに,意味はあるのだろうか?
 ある。
 とても大きな意味がある。
 「Aiカプラ」がなくなったことで,このボディには非Ai方式のレンズが装着できるようになった。
 レンズが装着できても,開放測光ができなければ意味がない。そう思うだろう。そう,それは間違いない。だが,ここで重要なことを思い出してほしい。そもそもNikon F-501AFは,「開放測光ではない」のだ。F-501AFのプログラムAEと絞り優先AEは,「瞬間絞り込み測光」である。
 「瞬間絞り込み測光」におけるAEは,シャッターレリーズボタンを押しこんだときに,まずレンズを絞りこむ。そのときに測光をおこなってシャッター速度を決定し,それからミラーやシャッター幕を動作させることになる。当時,ニコンの一眼レフカメラ用のレンズには,ボディ側から絞りを正確に制御できない古いタイプのものが多数流通していた。「瞬間絞り込み測光」によるAEが採用されたのは,プログラムAEに正式に対応した「Ai-Sレンズ」ではない古いタイプの「Aiレンズ」でも,プログラムAEが実用になるようにすることが目的と思われる。そのかわり,シャッターレリーズボタンを押しこんでから,実際に露光されるまでのタイムラグが長くなるという短所がある。そのせいか,「瞬間絞り込み測光」によるAEが採用された機種はごく少ない。

「瞬間絞り込み測光」によるAEのメリットを言いかえれば,「絞りの制御が多少いい加減でも,結果として適正な露出が得られる」ということだ。具体的には,たとえば次のようになる。カメラボディの露出計が「絞りF11で1/250秒」と判断し,そのようにレンズの絞りを動かそうとしたとする。しかし,装着されていたレンズが古いタイプのもので,正確に制御されず,実際には「絞りF8」になってしまったとする。「開放測光」では,すでに「1/250秒」で決定されていたのでそのまま「絞りF8で1/250秒」で露光されることになり,露出オーバーとなる。しかし「瞬間絞り込み測光」だと,「1/250秒のつもりだったけど,実際に絞ってみたら思ったより明るいから1/500秒にしよう」となって,結果として適正露出が得られる。プログラムAEで撮りたいときは,意図したものと実際の絞りとが多少違っても,大きな問題にはならないだろう。どうしても意図した絞りで撮りたいときは,すなおに絞り優先AEを使えばよいのである。
 Nikon F-501AFには,(好意的な意味で)「いいかげん」なところがある。プログラムAEを使うときは,そのレンズで使えるすべての絞りを機械が選べるように,絞りを最小絞り(もっとも大きいF値)にあわせておくのが一般的だ。実際に,F-501AFよりもあとの機種では最小絞りに設定しないとプログラムAEがはたらかないようになっているものがあり,AFニッコールレンズには最小絞りに絞りを固定するためのロックが設けられている。ところが正常なF-501AFでは,絞りを3段ほど絞っておけばとりあえずプログラムAEがはたらく。絞りを1段くらいしか絞っていないときは,ファインダー内に警告が表示されるが,いちおうプログラムAEが動作する。
 「Aiカプラ」を撤去したF-501AFに非Aiレンズを装着したときは,Aiレンズがもつさまざまなピンを動かさないせいか,絞りが開放のままでプログラムAEモードにしても警告が表示されず,プログラムAEが動作する。たぶん,開放だと露出オーバーになってしまうような状況を除けば,いちおう適正露出が得られることだろう。

Nikon F-501AFの「Aiカプラ」を撤去したものは,もっともお手軽に「オートニッコール」などの非Aiレンズを楽しめるボディではないだろうか。単3乾電池が使えて,電動ワインダーが内蔵されている。ワインダーが内蔵されているわりには,小型軽量である。絞り優先AEだけでなく,プログラムAEも使える。瞬間絞り込み測光によるAEなので,絞り制御の精度がよくない古いレンズでも適正露出が得られ,操作は開放測光と同じもの。こう考えると,「オートニッコール」を積極的にお迎えするのも楽しくなりそうだ。
 2台のジャンク品を「ニコイチ」して1台の完全なF-501AFをつくり,その残骸でオートニッコールを楽しめるボディをつくることができた。2台のジャンク品から,結果として使えるカメラを2台つくることができたのだから,今回は「ニコイチ」ではなく「ニコニコ」ということか。


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