撮影日記


2015年02月17日(火) 天気:雨

ニコン一眼レフカメラにおける
ユーザインタフェースの変遷を振り返る

「ニコンF-401S」を入手した。F-401シリーズは,ニコンのオートフォーカス一眼レフカメラの下位モデルであるが,レンズに設けられた絞りリングではなくボディ側に設けられたダイアルで絞り値を設定するというあたらしいインタフェースをニコンではじめて取り入れた機種である。旧来のマニュアルフォーカス用レンズが使えないなど,不満点も多い機種であるが,ニコンの一眼レフカメラにおけるユーザインタフェースの変化においては重要な位置づけができる機種である。
 F-401シリーズには,F-401,F-401S,F-401Xの3機種がある。デザインは少しずつ異なるが,ユーザインタフェースについては,共通している。

ニコンの一眼レフカメラは,1959年に発売されたさいしょのモデル「ニコンF」以来,50年以上もレンズマウントの形状を変更していない。だから基本的に,最新のカメラに初期のレンズをとりつけたり,最新のレンズを初期のカメラにとりつけたりすることができるはずなのだが,実際にはとりつけられない組みあわせが存在する。また,とりつけられたとしても機能面に大きな制約が生じて,実質的に使えない組みあわせも存在する。「ニコンF」の発売以後,露出計との連動,AE(自動露出)機能の発展,AF(オートフォーカス)機能への対応など,機能の変化にともなって,レンズとカメラとの間で伝達される情報の内容や,情報伝達の方法に変更が発生したためである。
 また,ユーザインタフェースの変更も,影響している。もっとも大きな変更点は,レンズから絞りリングがなくなったことである。これによって,最新のレンズを古いカメラで使う場合の制約が,一気に大きくなったのである。

露出を決定する要素は,レンズを通る「光量」と,フィルム(あるいは撮像素子)への「露光時間」との組みあわせである。
 「ニコンF」以来のニコンの一眼レフカメラでは,絞り(光量)を決定するリングがレンズ側にあり,シャッター速度(露光時間)を決定するダイアルがボディ側にあった。「ニコンF」などではシャッター速度ダイアルは上面に,「ニコマートFT」などではレンズマウント部にあるなどの違いはあるものの,レンズには絞りリングがあり,ボディにはシャッター速度ダイアルがある,という関係は変わらないものである。また,シャッター速度値(露光時間が1秒より短い場合は露光時間(秒)の逆数,1秒以上の場合は秒数)がダイアルに記されているというのも,変わらないものだった。

「ニコンF3」のシャッター速度ダイアル
「ニコマートFT」のシャッター速度ダイアル

ニコンでは,一眼レフカメラがAF化されたときに,2つの変化がおこった。1つは,F-801などで採用された「コマンドボタン+電子ダイアル」というものである。右手親指の位置にあるダイアルは,シャッター速度ダイアルとしてはたらくとともに,別のボタンとの組みあわせでたとえば露出補正量やフィルム感度の設定,露出モードの切り替えなどができるようになっている。それにともなって,ダイアルそのものにはなにも値が記されず,ダイアルのすぐそばにある液晶ディスプレイに設定値が表示されるようになった。

「ニコンF90X」の電子ダイアルと液晶ディスプレイ

ダイアルに値が記されなくなったことは,ユーザインタフェースとしては大きな変更点であるが,レンズの絞りリングとボディのシャッター速度ダイアルで露出を決定するという点については,従来のユーザインタフェースを踏襲している。F-801,F-801S,F-601,F-601M,F90,F90Xはいずれも,モード切り替えなども含めて同様のユーザインタフェースになっている。F70では,モード切り替えの操作方法が大きく変わったが,マニュアル露出で絞りとシャッター速度を決定する面だけを見れば,同じユーザインタフェースを踏襲していると言ってよいだろう。

ニコンの一眼レフカメラがAF化されたときにおこった,もう1つの変化は,F-401 (F-401S,F-401X)で採用された,ツインダイアル方式である。

「ニコンF-401X」のツインダイアル

2つのダイアルが,それぞれシャッター速度ダイアルと,絞りダイアルとしてはたらくようになっている。このカメラでは,レンズの絞りリングを使用しない。レンズの絞りリングは「最小絞り」に固定しておき,ボディにある絞りダイアルで絞り値を設定する。ちなみに,シャッター速度ダイアルを「A」にすると,絞り値を自分で選ぶとシャッター速度が自動的に決まる「絞り優先AE」となり,絞りダイアルを「S」にすると,シャッター速度値を自分で選ぶと絞りが自動的に決まる「シャッター速度優先AE」となる。それぞれを「A」「S」にすると,シャッター速度も絞りも自動的に決まる「プログラムAE」となる。モード切り替えの操作が必要ない,とてもわかりやすいユーザインタフェースだと思う。また,ダイアルに値が記されているのは,ぱっと見た目にもわかりよい。
 ただし,このときに古いレンズとの互換性が放棄され,F-401シリーズはオートフォーカスレンズ専用ということになったのである。

F-401シリーズのツインダイアル式ユーザインタフェースは,そのまま次のシリーズに継承されることはなかった。しかし,絞り値をボディ側のダイアルで設定するという方式だけは,F5,F6,F100,F80,F60そしてUシリーズへと継承された。これらの機種では,手前側にメインコマンドダイアルがあり,向こう側にサブコマンドダイアルが配置されている。露出の操作は基本的にメインコマンドダイアルでおこなうが,マニュアル露出時などシャッター速度も絞り値も自分で設定するときは,メインコマンドダイアルがシャッター速度ダイアル,サブコマンドダイアルが絞りダイアルとしてはたらく。
 F60など一部の機種には,サブコマンドダイアルがない。このような機種でマニュアル露出をおこなうときは,コマンドダイアルはシャッター速度ダイアルとしてはたらくが,別にある「絞り」ボタンを押しながら操作するとコマンドダイアルが絞りダイアルとしてはたらくようになる。これは,メインコマンドダイアル+サブコマンドダイアルというユーザインタフェースを簡略化したものということになる。

「ニコンF80」のコマンドダイアル

このユーザインタフェースは,このあとのディジタル一眼レフカメラにも継承された。
 F-401シリーズのユーザインタフェースは,そのまま継承されることはなかったが,あたらしいユーザインタフェースへ発展的に解消したものと見なしていいだろう。そして,F-401のユーザインタフェースによって,ニコンの一眼レフカメラ用のレンズに,絞りリングが不要になったのである。F-401のユーザインタフェースは,ニコンの一眼レフカメラにおける現在の確立されたユーザインタフェースの礎だったのである。
 絞りリングのないレンズは,ボディに絞りダイアルが設けられた機種でなければ,つねに最小絞りで使われることになる。古い機種では,プログラムAEやシャッター速度優先AEでなければ使えないということであり,プログラムAEやシャッター速度優先AEが使えない機種では事実上,使用不能である。ニコンのあたらしいレンズに絞りリングがないことを不満に思う人は,少なくないようである。そういう人にとっては,F-401は諸悪の根源に見えることだろう。だが,不満があろうとも,ニコンの一眼レフカメラの操作性を語るにあたっては,F-401シリーズを知っておかねばならないのである。それは,「ニコンF」を知らずにニコンの一眼レフカメラを語ることはできないことと同じくらい重要なことだ。

F-401シリーズは古い機種だが,ボディの絞りダイアルで絞り値を設定できるので,絞りリングのないレンズでも使うことができる。F-401シリーズは,電源としてリチウム電池ではなく単3乾電池が使えるので,もっと見直されてもいいのではないだろうか。いや,今となっては実用的とはいいがたい性能になったオートフォーカス機能を考えれば,見直すのはやはり厳しいだろうか。ファインダー内に表示される露出に関する情報が,適正(○)か,アンダー(−)か,オーバー(+)かだけで,絞りやシャッター速度の値が表示されないことにも不満を感じる人があるだろう。自分で設定する値は上面のダイアルで参照できるが,値が自動的に設定される場合は,どんな値になるかを知る術はない。
 電池の関係もあって重いカメラであるし,ファインダー内に表示される情報も不親切な機種ではある。だが,市場に流通する価格は非常に安価になっている。そのうちろくにチェックもされずにジャンクコーナーへ送られたり,下取りに出されることなくも朽ち果てていくものも出ることだろう。ニコンの一眼レフカメラにおけるインタフェースの変遷を眺めるのに重要なカメラを,そのまま消え去らせるわけにはいかない。とても安価に流通している今こそ,救出し保護する活動が必要である。
 結局,F-401シリーズを使うなら,すべてカメラまかせで撮影するのがよいということか。あるいはAFも使い物にならないとして,すべてマニュアルで撮影するのもいいかもしれない。
 ともあれ救出し保護し活用する活動をがんばろう。


← 前のページ もくじ 次のページ →