撮影日記


2014年10月08日(水) 天気:晴れ

街の中でも,天王星は写る。
皆既月食は天王星を写すチャンスだった。

太陽の重力の影響を受け,太陽を中心に公転する天体が存在する空間は,太陽系とよばれている。太陽系に属する惑星としては,「水,金,地,火,木,土,天,海,冥」の9個が知られていたが,2006年の「国際天文学連合」の総会において,冥王星は「準惑星」として,ほかの惑星とは区別されることになった。そのため現在では,太陽系に属する惑星は「水,金,地,火,木,土,天,海」の8個とされている。
 このうち,私たちが住んでいる地球のほか,水星,金星,火星,木星,土星の5つは,明るく,肉眼でもよく見えるので,古くからその存在が知られていた。
 それに対して天王星や海王星は,望遠鏡などの天体観測機器等の発達にともなって,存在が認められるようになったものである。天王星は,太陽系の中では木星,土星に次いで3番目に大きな惑星であるが,土星よりさらに遠いところにあるため,あまり明るく見えない。もっとも明るくなるときでも,肉眼でようやく見える明るさの星とされる6等星よりも,少し明るくなる程度である。
 逆にいえば,じゅうぶんに暗くて空気が澄んでいれば,肉眼でも見える。ということである。ただしそのような場所では,非常に多くの星が見えることになる。木星や土星のようにほかの星にくらべてきわめて明るければその存在がすぐにわかるだろうが,6等星程度の天王星は見えていたとしても,それが天王星であると認識することは難しいだろう。

今夜は,皆既月食が見られる。月食とは,月が地球の影に入って,暗く欠けて見える現象である。皆既月食とは,月全体が地球の影に入るのが見られるものをいう。今夜の月食の進行は,欠け始めが18時14分頃,19時24分頃から20時24分頃までは皆既(月全体が地球の影に入る)となり,欠け終わりは21時35分頃である。月食のはじまりのころは月の位置が低くて見えにくい場合もあるが,夕方からはじまり夜遅くならないため,見物しやすい条件だ。ただし,平日なので見晴らしがよく周囲の暗い山の上などに出かけるだけの余裕はない。
 そこで,自宅の近所の公園で見物することにした。そこは月の昇ってくる東のほうにはそこそこ開けているのだが,目の前にライトアップされたお店の看板が見えるような,最悪な条件の場所である。また,電線からは逃れようがないので,連続写真のようなものはあきらめ,もっぱら望遠レンズで撮影しながらの見物とした。
 さいわい月の周囲にほとんど雲はなく,月食の全過程を眺めることができた。皆既中の月は,真っ黒になることはなく,赤く見えることが多い(大気の条件等によって,真っ黒に見えることもある)。その赤さ,明るさも,きれいなものだった。ただ,きっちりとした基準のもとではなく,あくまでも個人的印象で語るが,赤さ,明るさとも平凡で,いまひとつインパクトが足りないと思った。もっと暗くなってくれるか,もっと明るく毒々しい赤さになってくれることを,期待していたものだ。
 月食中の月がどれくらい赤いかは,このようにして見ればわかりやすいだろうか。

Nikon D70,Vixen D=80mm f=1200mm, ISO1600, 1sec
Nikon D70,Vixen D=80mm f=1200mm, ISO1600, 1/125sec

これらは天体望遠鏡にカメラをつないで撮影したものである。上の画像は,地球の影に入って暗くなった部分に露出をあわせたもの。下の画像は,地球の影に入っていない明るい部分に露出をあわせたものになる。食による明暗差と,赤さとがわかると思う。

皆既中の月は暗いので,天体望遠鏡で撮影するのは少々難しい。上の画像でわかるように,1秒の露出が必要なのである。1200mmレンズで1秒も露出すると,月はかなり動いてしまう。そこで皆既中の月は,ふつうの望遠ズームレンズで撮影した。それでも,赤さがわかるように撮ろうと思えば,F5.6で1/2秒くらいの露光が必要になる。

Nikon D70,AF Zoom-NIKKOR ED 70-300mm F4-5.6D, ISO1600, 1/2sec

ところで今夜,天王星は月のすぐそばに見えていた。もちろん,街中では,6等星である天王星を肉眼で見ることはできないだろう。天体望遠鏡なら見えると思うが,天王星にねらいをつけることが難しい。だから,天王星が月のすぐそばにあることは情報として得ていたが,あえてそれを見ようとは思っていなかった。だが,少し長めに,1秒間の露光を与えたコマを見てみれば,そこにはきっちりと青緑色に見える点が写っているではないか。

Nikon D70,AF Zoom-NIKKOR ED 70-300mm F4-5.6D, at 300mm, F=5.6, ISO1600, 1sec

この位置にあることがわかっていれば,望遠鏡でねらいをつけてみてもよかったかもしれない。ともあれこれは,私にとってはじめて見た(というか撮った)天王星ということになった。
 空が暗くないところでも,これくらいは写る可能性がある。ということがわかっただけでも,今回の月食は楽しかったと言っておきたい。そうだ,天王星が写ったのはきっと,ニコン様の神通力によるものなのだ。と,日記には書いておこう。まあ,いいか(笑)。


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