撮影日記


2013年06月11日(火) 天気:はれ

下を向いて歩こう 町の歴史が見えてくる?

FUJI FinePix F10

広島市内中心部付近,袋町電停の前に,旧・日本銀行広島支店の建物がある。この建物は,「昭和初期を代表する歴史的建築物」であるとともに,被爆建物としてもその歴史的な重要性が認識され,広島市指定重要文化財に指定されている。この建物は内部が公開されているので見学が可能であり,また,「市民団体の芸術・文化活動の発表の場」としても利用されている(*1)。

FUJI FinePix F10

「広島〜都市の記憶 時刻(ときこく)」 マンホールから定礎まで

いま,発表されている作品のタイトルである。作家は,飯田真三さん。
 会場に入ると,多数の作品が「床に」並べられている。その作品は,マンホールの蓋を紙に写し取ったものだ。マンホールの蓋の上に紙を置き,そこを芯鉛筆などでこすれば,マンホールの蓋の模様が紙に写し取られることになる。このような技法は,フロッタージュ(拓本)とよばれるとのこと。
 道路の地下には,無数の「管」が通っている。上水道,下水道,ガスが通る管や,電気,通信のケーブルが収められた管など,いろいろなものがある。それらは,いちど敷設すればそのままでいいというわけではない。メンテナンスなどの作業が必要となる。それら地下の管へアクセスするための縦穴がところどころにあり,その蓋が道路上にあらわれている。よく見れば,道路には多数の蓋がある。ふだんは,とくに気がつくこともなく見過ごしてしまうような存在だ。
 飯田さんは必ずしも,もともとそれらの蓋に着目していたわけではなかった。あるときふと「いかにも古い」蓋を目にしたことがあり,その後,さまざまな要因がかさなって,マンホールの蓋に着目するようになったとのことである。

初期の四角い蓋を説明する飯田さん。

飯田さんの説明によれば,マンホールの蓋が丸いのは,「下に落下する危険性がないから」とのこと。ただ,真円に近いものを鋳造するのは簡単ではなかったようで,初期のマンホールの蓋は四角かったそうである。広島は軍都として重視されていたこともあり,日本国内では比較的早くから水道のインフラが整備された。上水道の完成は1898年で,「広島市の水道は、横浜、函館、長崎、大阪に続く、全国5番目の近代水道創設となりました。」(*2)とのことである。また,下水道事業の着手は,1908年とのことである(*3)。
 マンホールの蓋の形や模様などの変遷について飯田さんが問い合わせたところ,それを管理する行政も,それを製造したメーカーも,よく把握していなかったそうだ。現在,広島市内にあるマンホールの数は,約21万箇所とのこと。行政は,インフラを整備し維持管理するために,その数や場所などはきちんと把握しているものの,その蓋については「サイズがあっており丈夫できちんと機能していればよい」というスタンスらしい。最近,よく見られるキャラクタものや観光案内的なものを除けば,模様には関心がないそうだ。メーカーも,模様については個々の職人さん任せ的なところがあったようで,会社として管理はしていないとのことらしい。
 そこで飯田さんは,全数調査に乗り出し,さまざまなタイプの蓋をフロッタージュとして記録するとともに,その分布をまとめていったとのことである。

蓋の分布は住宅地図をつなぎ合わせたものに記録されている。

飯田さんの調査の対象は,マンホールの蓋のほかに,ビルの定礎石や神社の狛犬も含まれる。定礎石には,ビルが竣工した年月日などが掘りこまれており,そのビルがいつ建てられたものかがわかるのだが,現在のような定礎石という形が流行したのは,ごく最近のことらしい。
 また,神社にはかならずといっていいくらい入り口付近の両脇に,一対の狛犬が配置されている。このような狛犬を配置することは,江戸時代後期から明治時代にかけて流行したものとのことである。
 つまり,狛犬,マンホールの蓋,定礎石という,関係なそうなものをつないでいくと,広島という町の近代から現代にかけての変遷が見えてくる,というのがこの作品のようである。
 ともあれ見ごたえ十分なこの展示,楽しめるのは2013年6月18日までだ。

*1 旧日本銀行広島支店:広島市の観光ガイド「広島ナビゲーター」 (公益財団法人広島観光コンベンションビューロー)
http://www.hiroshima-navi.or.jp/sightseeing/bunkashisetsu/tenji/4679.php

*2 歴史編(明治〜大正)/事業概要|水道事業の紹介 (広島市水道局)
http://www.water.city.hiroshima.jp/jigyo/gaiyo/history/index.html

*3 下水道のあゆみ (広島市)
http://www.city.hiroshima.lg.jp/www/contents/0000000000000/1269838939624/index.html

そういえば,以前,こんなことに参加させていただいたこともあったなあ。


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