撮影日記


2012年01月21日(土) 天気:曇

おもしろいものが埋もれているから
ジャンクは楽しい

カメラ店で「ジャンク品」をさがすことはとても楽しいが,その楽しさには,いくつかの要素がある。たとえば,少し手を入れることで,「動かないカメラが動くようになる」ことは,もっとも楽しいことの1つであろう。ただし,その楽しさを味わうには,ある程度の慣れや技術が必要になる。かくいう私は,たいした技術をもっていないので,重傷のカメラを復活させることはできない。復活させられるのは,まあかすり傷程度のカメラであろうか。「ジャンク品」の品定めは,すなわち「自分で復活させられそうなカメラ」を見つけることである。
 「ジャンク品」の楽しさとしては,その価格が安いこともあげられる。一般的に中古品は,新品よりも大幅に安い。ジャンク品は,一般的な中古品よりも,さらに安い。もちろん,使い物にならなければ所詮は「安物買いの銭失い」なのだが,復活させるなりなんなり自分なりの用途があるならば,それは「お買い得品」になるのである。

お店によって,ジャンク品であっても1つ1つにきちんと価格がつけられているところもあれば,1つ1つには価格がつけられておらず均一価格になっているところもある。
 1つ1つにきちんと価格がつけられているところでは,たとえば梅田のマルシンカメラのように,「もう少し安ければ飛びつきたくなる」ような絶妙な価格がつけられている場合が多いように感じる(2009年12月15日の日記2010年7月18日の日記を参照)。
 それに対して,「カメラのキタムラ」の一部の店舗などのように,ジャンク品は均一価格になっているところもある。そのようなところでは,たとえばジャンクコーナーのカメラ・レンズは,どれでも「1つ500円」のようになっており,さらに「3個まとめれば1200円」「5個まとめれば1500円」などと,いちどにたくさん買えば,割安になるようになっている場合もある(2007年9月29日の日記2011年3月20日の日記を参照)。均一価格のところでは,「できるだけ元の価格の高そうなもの」をさがすという楽しみも,そこに加わるのである。「元の価格の高そうなもの」としては,もともと高級品だったものや,今となってはややレアな存在となり,中古品としてやや高値がつきそうなものなどが該当するわけだが,まあそのあたりの価値判断は,どうしも個人の好みなどに左右されるものだ。

カメラだけでなく,腕時計も,ジャンク品に手を出している。腕時計の場合,1つ1つが小さいせいか「ひと山ナンボ」で入手できることもある。そういう場合,大半が故障品だったり,もともとが安価な製品だったりすることが多いのだが,時としておもしろいものが混じっていることもある。たまにそういうものに出会えることは,大きな楽しみの1つなわけだ。
 最近,100円ほどで何本かまとめて入手したなかに混じっていたのは,こんな時計だ。

秒針が小刻みに動いていることから,クォーツ時計でないだろうことは,すぐに気がつく。秒針のあるクォーツ時計であれば,秒針は1秒ごとにカクッカクッと動くか,すーっと連続的に動いているように見えるはずだ。それに対してヒゲゼンマイを使ったテンプをもつ時計は,数分の1秒程度で小刻みに秒針を動かしている。
 クォーツ時計は,通常,32,768Hzで(1秒間に32768回の)振動する水晶発振子を使い,電気的にその回数を数えて,時を刻んでいる。32,768回の振動があれば,モーターで秒針を1秒進めるようにする,という具合だ。だから,たいていのクォーツ時計の秒針は,1秒ごとにカクッカクッと動くことになる。水晶振動子を発振させ,モーターを動かすためには,電力が必要である。したがって,クォーツ時計には電池(などの電源)が必要となる。
 一方,ヒゼゲンマイを使ったテンプは,1秒間に5回〜10回くらいの振動をおこなうようになっている(10回も振動するものは,かなりの高級品だ)。1回の振動ごとに秒針を進めるようになっているので,秒針が数分の1秒ごとに,小刻みに動いているように見えるわけである。このタイプの腕時計の動力源は,もっぱらゼンマイである。

さて,秒針の動きから見ればクォーツ時計ではないこの時計だが,リューズを巻いてもゼンマイが巻き上げられるような感触はない。では,自動巻きなのか?それにしても,ゼンマイを巻きあげる機能は用意されているはずだ。ということで,裏蓋を開けてみよう。

秒針の動きから推測できたように,この時計の内部には大きなテンプがあり,ゆっくりと往復運動をしている。しかしながら,本来であれば動力源となるゼンマイがあるべき部分には,そのかわりに大きな電池が収まっているのであった。「大きな」と書いたが,この電池はSR43SWである。ボタン電池の中でも,そんなに大きいほうではない。だが,腕時計の電池は,もっと小さなものが使われることが多いので,大きいと感じてしまったということだ。

この時計は,「ハミルトン・リコー」の「エレクトリック」というものである。クォーツ時計が一般化する少し前の時代にあった,電動式の腕時計の1つだ。時間の制御は,従来からの機械式時計と同じようなテンプでおこなう。だから,電池を使っているからといって,クォーツ時計のように,高い精度が実現されたというわけではない。精度的には,それまでの時計とかわるところはないのである。しかし,ゼンマイ式の腕時計では,ゼンマイをいっぱいに巻いても2日間くらいしか連続して動作しなかったのに対し,動力源が電池になったことで1年以上動き続けることができるようになった。その点は,大きな進化であることは間違いない。
 「ハミルトン・リコー」は,その名前からわかるように,アメリカの時計メーカー「ハミルトン」と日本の時計メーカー「リコー」とが共同で,1962年に設立された(*1)。しかしながら,この会社は,2年ほどで活動を終えている。同時期に,アメリカの「ブローバ」が,より精度の高い音叉式腕時計を発売したことで,電池が必要なのに精度が高くないこのタイプの時計の人気が出なかったのだろうと想像する。その音叉式腕時計も,1969年にセイコーがクォーツ式腕時計を発売して以後,姿を消していく。

そのような,歴史的におもしろい位置づけにあるハミルトン・リコー「エレクトリック」であるが,現在の中古品市場では,あまり人気がないとのこと。このタイプの時計が「ハミルトン・リコー」として発明されたものならばともかく,「ハミルトン」で発明されたもののライセンス生産のようなものであるから,歴史的意味合いが薄いものになる。実用面で考えても精度が高いわけでなく,同じ精度ならゼンマイ式の時計のほうが使っていておもしろいと感じる人が多いだろう。また,「エレクトリック」は故障しやすく,故障すると直しにくいといわれているようだ。
 あまり人気が高くないうえ,見た目もきれいな状態ではない。だからこそ,「ひと山ナンボ」で売られていた,ということだろうが,それにしてもその「ひと山」が100円そこらであったことは,あまりにも楽しすぎるじゃないか。
 ともあれ,これだから,ジャンク品は楽しいのである。

*1 会社概要 (リコーエレメックス株式会社)
http://www.ricohelemex.co.jp/about/outline.html


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