撮影日記


2012年01月20日(金) 天気:曇

コダックの危機
1月第2週〜第3週は重大発表の季節なのか?

2012年1月11日に,1つの衝撃的なニュースが流れた。それは「コダックのフィルム部門が消える」というものである。いや,正確には「米コダックが組織改編、フィルム部門なくしデジタル事業に焦点」というものだ(*1)。
 アメリカのコダックは,19世紀末からずっと,写真用フィルムを供給してきたメーカーである。供給してきたものは,フィルムだけではない。フィルムを使って撮影するためのカメラ,プリントするための印画紙,そしてそれらを処理するための薬品や,それらを使うためのシステムなど,写真を撮影するために必要なありとあらゆるものを供給してきたのである。そしてそれと同時に,それらの改良やあらたな発明などを繰り返してきた。そして,確固たる地位を築いてきたのである。写真というものを一般に広く普及させた立役者であるとともに,それ以降の写真の歴史を築いてきたといってもいい存在だ。そんな大企業であるコダックの,「フィルム部門が消滅」というのは,とてもショッキングなニュースなのである。
 ただ,これはよく読めばわかることだが,「コダックがフィルムの製造から撤退する」というニュースではない。単に,会社内の組織改革で,「フィルム部門」という名称での区分をしなくなるというだけである。具体的には,「フィルム部門」「写真現像部門」「エンターテイメント部門」を分割し,「法人向け部門」「消費者向け部門」に再編するというものである。
 2011年9月末ころから,「コダックが(アメリカの)破産法の適用申請を検討している」というニュースがあったので,「近いうちにコダックがつぶれるのか?」という不安が多くの人のあいだにあり,あわせて富士フイルムもフィルムのラインアップの整理をすすめていた(2011年9月5日の日記を参照)こともあるだろう,「フィルム なくす」という部分だけが自然とクローズアップされたのかもしれない。メーカーや販売店に,「コダックのフィルムがなくなるのか?」という問い合わせをした人も,少なくないようだ。
 インターネット上のニュースサイトなどでは,一覧表示などで見出しがはしょられて「コダック,フィルム部門消滅」のようになっていたケースもあり得る。そのまま中を読まずに,はしょられた見出しだけを見て大騒ぎをした人もいるのではないだろうか。「ネットで読むから,新聞は購読しない。テレビも見ない。」などと叫ぶ人にかぎって,そういう早とちりをするように思うのだが,これは考えすぎか。もっともニュースでは,やや衝撃的な書き方をすることが多いように思う。そういえば以前,ニコン様が「F6とFM10以外の35mm判カメラの生産を終了」することを発表したときにも,ニコン様が「カメラの生産から撤退」するかのような表現を見出しに使っていた新聞があった(2006年1月12日の日記を参照)。新聞というものは,そういう衝撃的な文言が好きなのかもしれない。

ニコン様の発表は,2006年1月11日だった。コダックの部門整理が報じられたのは,2012年1月11日である。「1月11日」というのは,写真・カメラ業界において,大きな発表がおこなわれる日なのかもしれない。

ニコン様の2006年1月11日の発表に続くかのように,2006年1月19日にはコニカミノルタが「カメラ事業、フォト事業の終了」を発表した(2006年1月19日の日記を参照)。ニコン様の発表は,35o判カメラ,大判カメラ用レンズ,引き伸ばしレンズなど「フィルムカメラ製品の大幅な整理」であり,F6とFM10だけだがフィルムカメラの供給を継続するし,ディジタルカメラの開発は続けるというものだった。それに対し,コニカミノルタの発表は,カメラ事業,フィルム事業ともに終了し,ディジタルカメラ事業の一部をソニーに譲渡するというもので,まさに「撤退」だったのである。
 ニコン様の発表からちょうど6年後,コダックの組織改革が報じられた。そしてコニカミノルタの発表からちょうど6年後,コダックは「(アメリカの)破産法の適用を申請」した(*2)。1月19日というのも,写真・カメラ業界において,大きな発表がおこなわれる日なのだろうか。このニュースでは,「破産」という文字が含まれるため,「コダックが破産した」「コダックが倒産した」と受け止められかねない。しかし,よく読めばわかるように,「事業再建」のための申請なのである(*3)。これによって,アメリカのイーストマン・コダックがすぐに倒産し,コダックのフィルム等の供給がすぐに止まってしまう,というものではない。とはいえ,猶予された時間は,けっして長くない。もちろん,再建がうまくいかねばコダックという企業が消滅してしまうかもしれないし,再建のためにフィルム等の製品のラインアップが大幅に整理されてしまう可能性もある。あるいは,その結果,フィルムからの撤退を判断する可能性もなくはない。なお,アメリカ以外のコダックは,今回の申請にもとづく再建の対象になっていない(*4)。

何度も書いていることだが,これからもフィルムでの撮影を楽しみたい私たちにできることは,変わらずフィルムを使い続けていくことである。

*1 「米コダックが組織改編、フィルム部門なくしデジタル事業に焦点」(2012年1月11日 ロイター)
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE80A01820120111

*2 「米コダック、破産法第11条による事業再編を申請」(2012年1月19日 ロイター)
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE80I02N20120119

*3 「イーストマン・コダック社および同社米国子会社がチャプター11に基づき任意で事業再建手続を開始」(2012年1月19日 コダック株式会社)
http://wwwjp.kodak.com/JP/ja/corp/news/2012/0119.shtml

*4 「1月19日付 米国コダック社での発表を受けてアジアパシフィック地域最高責任者よりお願い」(2012年1月19日 イーストマン・コダック社)
http://wwwjp.kodak.com/JP/plugins/acrobat/ja/corp/news/2012/Customer_2012119.pdf


← 前のページ もくじ 次のページ →