撮影日記


2011年06月25日(土) 天気:曇ときどき雨

レンズシャッター万歳

電車というものには,どこかに「行き先」が表示されているはずだ。その場所は,車体の正面であったり,側面であったりするかもしれないが,それでもどこかに表示されている。表示されていないと,その電車がどこへ行くのかわかりにくい。どこかにちゃんと,表示されているべきものなのである。
 古くは,行き先の記された板を,車両の正面や側面にとりつける方法が多かったようだ。この方法は,比較的最近まで見られたものでもある。ただ,その板には起点と終点とが併記されているケースも少なくない。そのような場合には,その電車がどこへ行くのかはわかりにいくいということになる。

Nikon F-301, Ai NIKKOR 35mm F2S, EB

電車の行き先を表示するために,あらかじめ何種類もの行き先などが書かれた幕を利用する場合もある。幕のところに照明を入れておけば,暗いときでも見やすくなるので好都合だ。機械で一斉に幕をコントロールすることができれば,行き先の表示を変更する作業も楽になる。表示を変更する作業が楽になれば,起点と終点とを併記する必要もなるなくから,その電車の行き先がわかりやすくなって,利用者にとってこれほど都合のよいことはない。

NTT DoCoMo P905i

さて,最近では,LEDを利用した行き先表示装置をもつ電車もよく見かける。LEDを使用したものは,幕を使用した装置にくらべれば故障が少ないのだろうということは想像できる。少なくとも広島を走るJR車両の「幕」は,故障しているのを見かけることが少なくないように感じる。

東京都電荒川線の車両も,LEDを使用した行き先表示装置を使用していた。

CASIO QV-R4, PENTAX ZOOM LENS 7.6mm-22.8mm

この電車は,荒川線の終点「三ノ輪橋」の出発ホームに停車している。到着ホームは,少し向こうにあり,右側に小さく電車が見えているところがそうだ。「早稲田」方面からの電車は,到着ホームで乗客を降ろしたあと,この出発ホームに移動してきて,あらたに乗客を乗せ,「早稲田」方面に向かうのである。
 ということで,この電車は「早稲田」行きである。LEDを使用した行き先表示装置にも「早稲田」と表示されているのだが,上の画像のように文字が欠けている。

LEDを使用した行き先表示装置では,LEDが単純に点灯して文字をあらわしているのではないようだ。LEDの点滅あるいは走査がおこなわれているのであろう。
 ビデオデッキが普及した昨今であれば,テレビ画面を写真に撮ろうと思う人は,ほとんどいないであろう。しかしかつては,テレビ画面を写真に撮ろうと思う人がいたのである。テレビ画面は,1秒間に約30枚の画像が送られてきており,それによって動画として見えるようになっている。そして1つ1つの画像は,画面全体に一斉に表示されているのではなく,上から順に少しずつ描かれる(走査)ようになっている。その1つの画面を描くのに,およそ1/30秒かかっている。したがって,1/30秒ではないシャッター速度を用いると,走査のタイミングとずれるため,画面の一部が写っていなかったり,画面に目立つ帯が映ったりする。
 このような症状を緩和するには,画面を走査するよりも十分に長い露光時間を与えてやる(シャッター速度を遅くする)のが一番だ。それでは,動いている画像はブレてしまうことになるのだが,動かない場面であれば問題ない。パーソナルコンピュータのOSにMS-DOS ver.3やver.5が使われていたころ,ソフトウェアのマニュアルを作成するために,明るさを落としたディスプレイを暗い部屋に置いて,1秒くらいの長時間露光を与えて画面を撮影したことがある。このときは,Nikon FMとMicro-NIKKORの組み合わせを利用したが,フォーカルプレンシャッターの場合,その動きと画面の走査の動きとの関係で,どうしても帯が見えてしまうことがある。レンズシャッターカメラのほうが,そういう撮影に適しているとは聞いていたのだが,そのころはTTL露出計の使えるレンズシャッター式のカメラをもっていなかったから,しかたない。
 いま,同じようにマニュアルを作成するためにパーソナルコンピュータの画面を使用したいときは,「Print Screen」キーを押すだけですむのだから,なんとも面倒な時代だったわけだ。

さて,上と同じ都電7001号をセミネッターで撮ったところ,こちらは行き先表示装置の文字が欠けることなく,きちんと写ってくれた。

ZEISS IKON NETTAR (515), Nettar-Anastigmat 7.5cm F6.3, NEOPAN 100 ACROS
EL-NIKKOR 75mm F4.5, FUJIBRO WP FM3

このときのシャッター速度は1/50秒である。都電のLEDを使用した行き先表示装置がどのようなしくみになっているのかはよくわからないが,その点滅あるいは走査に影響されないだけの,十分に長い露光を与えることができていたということだろう。また,セミネッターは,レンズシャッター式カメラである。この種の古いカメラほど,LEDを使用した行き先表示装置を備えるあたらしい電車を撮るのに適しているのだろうか。もしそうだったら,実に愉快なことではないか。


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