撮影日記


2010年09月19日(日) 天気:はれ

上皿天秤はディジタルな秤

現像薬の自家調合に興味がわいたのは,「印画紙で撮影する」ことがきっかけであった(2010年5月11日の日記を参照)。自家調合をおこなうときには,現像道具に加えてもう1つ,重要な道具が必要になる。それは,薬品の重さをはかる道具,つまり秤(はかり)である。
 現像液の一般的な処方として,「D-76」というものが公開されている。その処方は,次のようになっている。

コダックD-76の処方
水(50℃)750ml
メトール2g
無水亜硫酸ソーダ100g
ハイドロキノン5g
ホウ砂2g
これに水を加えて1000mlにする。

このほかにもいろいろな処方が公開されているが,薬品の重さをはかるためにはせめて0.5gくらいの精度がほしいところである。
 手軽に入手できる秤としては,たとえばこのようなキッチンスケールがある。

「TANITA KD-173」 最大1kg,精度1g

1g単位まで直読でき,最大で1kgまではかることができるもので,ホームセンターなどで1000円くらいで購入できるだろう。D-76の場合であれば,無水亜硫酸ソーダ100gをはかりとるのには適当であろう。しかし,ハイドロキノンの5gはともかく,メトールやホウ砂の2gをこのキッチンスケールではかるのは,精度的に不安なところがある。このようなディジタル表示の秤の場合,「2g」と表示されたとしても,それは「1.5g」かもしれないし「2.4g」かもしれず,ぴったり「2g」とはかぎらない。そのような場合はむしろ,アナログ式の秤のほうが信頼できそうである。ただ,安価なアナログ式の台秤だと,目盛がせいぜい10g単位くらいで,あまり細かく刻まれていない。
 数gのものを0.1gくらいの精度ではかりたいときには,上皿天秤(うわざらてんびん)が都合よい。上皿天秤は左右にお皿がついており,はかりたいものと分銅(おもり)を乗せて,つりあわせることで重さ(この場合は「重さ」ではなく「質量」になるのだが,ここではとくに区別をしない)をはかることができるものである。「2g」の薬品をはかりとりたいときは,まず両方のお皿に薬包紙を敷いて,左のお皿に2g分の分銅を乗せる。そして右のお皿に薬品を少しずつ,左右がちょうどつりあうまで乗せていけばよい。
 ところが,ちゃんとした上皿天秤を買おうとすると,これがけっこう高いのである。1万円は軽く越えるようだ。キッチンスケールのように,お手頃価格ではない。

ところが。

「オメガ印 上皿天びん」 株式会社飯島製衡所 No.1952 秤量100g,感量100mg
飯島製衡所は,いまでもほとんど同じ形の上皿天秤を製作しているようである。
http://www.geocities.jp/iijima_scale/
分銅の内容は,50g, 20g, 10g, 10g, 5g, 2g, 2g, 1g, 500mg, 200mg, 200mg

今日,また実家を整理していると,出てきたのだ。
 この上皿天秤が,うちにあったことは覚えていた。覚えていたのだが,数年前に家を整理したときに,「捨てた」ものと思いこんでいたのである。分銅も錆びていないようで,天秤の動きもなめらかである。これがあれば,現像液の自家調合も楽しめる,というものだ。
 本体には「感量100mg」と記載されているが,惜しむらくはセットに含まれているはずの分銅のうち,100mgのものが失われていること。現在の状況では,200mgすなわち0.2g単位でしかはかれない。ところでこのような伝統的なスタイルの秤は,「アナログ」機器という印象をもつのではないだろうか。たしかに,左右のつりあいを見る針とその背後にある目盛は,まさにアナログ表示である。しかし,アナログ式の台秤のように,この目盛から直接に重さがわかるわけではない。重さは,あくまでも分銅に記された重さの数値から読み取るのであり,この目盛は,分銅の重さとぴったり同じかどうかを知るためのものである。2gの分銅とぴったりつりあったなら,その重さは2gであり,1gと2gと500mgの分銅とぴったりつりあったなら,その重さは3.5gになるのである。もっとも軽い分銅よりも細かい重さの値は,得られないのである。数値を読み取るタイプの秤と同じく,上皿天秤もディジタルな秤なのである。
 そして,数値を読み取るタイプの秤だと,表示している数値とぴったり同じ重さなのかどうか確認するすべがないのに対し,上皿天秤はぴったりかどうかを針と目盛で読み取ることができる点が優れているといえる。まあ実際には,そこまでの精度は必要ないだろうし,それだけの精度をもって読み取るには,それなりの訓練が必要になるとは思うところだが。
 ともあれこれで,現像液の自家調合をする道具がそろってしまったことになる。これで暑さがやわらげば,環境も整うことになるわけだ。


← 前のページ もくじ 次のページ →