撮影日記


2010年09月17日(金) 天気:はれ

1字違いで大違い 8×10と8×11

「8月10日は,8×10(バイテン)の日」である。8×10判とは,フィルムのサイズが8インチ×10インチであることを示す。これは「大判」としてポピュラーな4×5判の,さらに4倍の面積をもつ大きなフォーマットだ。フィルムやカメラがふつうに市販されているのは,おそらくこのサイズまでであろう。8×10判は,一般的に使えるもっとも大きなフォーマットといえるのだ。「バイテン」とは,8×10すなわちエイトバイテンの略である。
 8月10日には,8×10判を使って大判写真を楽しもう,というのが「バイテンの日」の趣旨である。ただ,8×10判の敷居はやはり高い(言いだしっぺの私も,8×10判の機材はもっていない)。とにかく,8×10判にかぎらず,4×5判以上の大判写真を楽しむ日と考えることにしよう。

そんな「バイテンの日」が近づいたある日,掲示板の常連の方から,「8×11判を忘れるな」という意味の投稿があった。8×11判とは,「ミノックス判」ともよばれる。超小型カメラとして有名な,ミノックスが使っていたフォーマットだ。カメラが小型なのだから,フィルムもきわめて小さい。幅9.5mmのフィルムに,8mm×11mmの小さな画像を記録するようになっている。8×10判と8×11判の違いは1文字。値として考えても10と11,たったの「1」の違いである。しかし,8×10判の単位はインチ,8×11判の単位はmm,数値の差はわずかでも,実際の画面の大きさは,天と地ほどの差があるのだ。
 まさに,1字違いで大違い,である。

「バイテン」(8インチ×10インチ)と「ミノックス判」(8mm×11mm)の大きさは,これだけ違う!

ミノックス判を採用したカメラの代表は,いうまでもなくミノックスである。さらに,ほかのメーカーからも,同じ規格のフィルムを使用するカメラが発売されたことがある。日本のメーカーでは,ヤシカ「アトロン」がある。「アトロン」の発売は,1965年。日本カメラショーの「カメラ総合カタログ vol.28」(1967年)を参照すれば「日本で初めて ミノックスタイプの超小型高性能カメラ」という宣伝文がある。そして,アトロン用アクセサリとしては,専用三脚,ライトアングルファインダー(前を向いたまま横を写せるもの),クローズアップレンズが用意されており,システムとしてもけっこう充実している。さらにその翌年の「カメラ総合カタログvol.32」(1968年)を見ると,これらのほかに,現像タンク,引き伸ばし用レンズまでもがラインアップされるようになっている。ヤシカとしては,このジャンルにかなり「本気」だったようだ。
 しかし,ヤシカはこのカメラのユーザをどのような人だと考えていたのだろうか?
 小さなフォーマットなので,どうしてもプリントのときの拡大率が大きくなるから,ちゃんとした写真にするなら,露出やピントをきっちりあわせたネガをつくりたいものである。ところが,ピント調整については固定焦点になっており,スペック的にいまひとつものたりない。むしろ,初心者向けに,いつでも携帯できるお手軽カメラとして考えられていたのだろうか。それならば固定焦点という機構を採用したのは理解できる。それは,露出調整からもうかがえる。内蔵された露出計の示すようにダイアルを操作すれば,シャッター速度と絞りが決まる「プログラム露光」を採用している。これは操作が簡便になるという長所がある一方で,シャッター速度や絞り値がわからないという短所もある。
 このあたりから,当初は携帯に便利でだれにでも手軽に使えるカメラとして売り出したものの,現像を引き受けるお店が少なく,後に現像道具等もラインアップせざるを得ないことになってしまったのではないか,などということも想像できる。もっとも,「カメラ総合カタログ」に載っていないだけで,発売当初から現像道具等のラインアップがあったのであれば,この想像は「はずれ」ということになるのだが。
 その後1970年には「アトロン」の後継機,ヤシカ「アトロン・エレクトロ」が発売された。最短撮影距離0.6mまでのピント調整が可能になり,露出調整もプログラムAE(シャッター速度は8秒〜1/350秒)になって,実用性が高まった。このカメラは「カメラ総合カタログvol.61」(1978年)には掲載されているが,翌年のvol.64には掲載されていない。およそ8年にわたる,けっこうなロングセラーになったようだ。


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