撮影日記


2010年07月31日(土) 天気:はれ

ゾルキーを使うか,キエフを使うか

広島の「祭」には,神楽の奉納がつきもののようである。私の知っている神社では,19:30から23:00まで上演されるところもある。もしかすると,もっと長時間のところもあるかもしれない。
 もう何年も前,常清滝によく撮影に通っていたころ,地元の方に「今夜,神楽の奉納がある。撮ってみないか?」と誘われたことがあるのだが,その夜は都合が悪く遠慮させていただいたことがあった。しかしそれ以来,自分から神楽を撮ってみようと考えたことはなかった。しかしなぜか今日はとつぜん,「一度くらいは,神楽の舞台を撮ってみよう」という気になってしまったのである。
 まあ,試し撮りというか,なんというか。
 さて,どんな機材で撮るのがいいだろうか?すなおに考えれば,ディジタル一眼レフカメラを使うのがよいだろう。感度を高く設定して,明るいレンズを使えば,手持ちで十分に撮影可能に思われる。また,神楽はけっこう動きも激しい。手持ち撮影できるくらいのシャッター速度でなければ,被写体ブレをおこすだけであろう。たぶんディジタル一眼レフカメラは,夜間の舞台撮影に適していると思う。

しかし。
 ディジタルカメラで撮って,ちゃんと写っても,「おもしろくない」じゃないか。
 頼まれて,きちんとした記録を残す必要があるならともかくも。

だからといって,ふつうの35mm判一眼レフカメラを使うのは,考えものである。いかに屋外での上演だろうと,舞台を撮るにあたってシャッターやフィルム巻き上げの激しい音が発するカメラを使用するのは,やはり好ましいものではないだろう。
 そうなると,レンズシャッターカメラか。そうであれば,二眼レフカメラも魅力的に感じられる。しかし,神楽に集まる人は多い。例年,かなりの混雑になる。そんなところで,自分の目線よりずっと低い位置で構えることになるカメラは不利だ。もちろん最前列を陣取ることができれば問題はないのだが,そこまでがんばって撮らなければならないわけではない。
 手もとにあるシャッター音が静かなカメラといえば,「ニコノスIV-A」があげられる。その密閉度が高いせいか,シャッターの音やショックをあまり感じないのだ。しかしながら,ピント調整が目測式である。舞台にはそんなに奥行きがないので,ピントはいちどちゃんとあわせておけば,あとは固定していてもよいとは思うのだが,たぶんもっぱら開放近くで撮ることになると思うので,やはりピントあわせはきちんとしたい。

被写体が暗くてもすばやくピントがあわせられるカメラといえば,二重像合致式の距離計を内蔵した,いわゆるレンジファインダーカメラということになる。この種のカメラは,シャッター音も静かである。これで方針は決まった。
 さて,手もとにあるレンジファインダーカメラでまっさきに思い浮かぶのは,「キエフ」である。KIEV 3 (Киев 3)とKIEV 5 (Киев 5)とがあるが,右手ひとさし指をシャッターレリーズボタンにかけたまま,右手中指でピント調整のギアを回すことができるKIEV 3が,このような撮影には適しているであろう。
 しかし,少し迷いも生じる。
 KIEV 3のボディは,やや大きく重い。神楽を見る神社は,激しい混雑が予想される。カメラはできるだけ軽量にしたい。そうなると,ZORKY S (Зоркий С)のほうが適切に思えてくる。
 キエフを使うべきか?ゾルキーを使うべきか?

もういちど,条件を考えてみよう。
 条件は,コンパクトで軽いかどうか,使いたいレンズはなにか,どのような操作性を期待するか,といったあたりになる。コンパクトさ,軽さについては,文句なく「ゾルキー」だ。
 では,撮影に使うレンズは,どのようなものが望ましいだろうか。まず,望遠レンズを使うつもりはない。使うなら,標準レンズか広角レンズだ。手もとにあるゾルキー用の標準・広角レンズは50mm F2.8と50mm F3.5,キエフ用の標準・広角レンズは50mm F2と35mm F2.8である。夜間の舞台を撮影するのだから,少しでも明るいレンズが有利だろう。
 激しく舞う神楽を撮るなら,速写性が重要なポイントになる。巻き上げのしやすさを考えれば,ゾルキーがやや有利だと思うが,ピントあわせのしやすさは,やはりキエフだろう。キエフは,先にも書いたように,シャッターレリーズとピント調整とが右手の指が届くところに集中している。また,ゾルキーのファインダーは,構図用の窓と距離計用の窓とが別々になった「二眼式」(「二ツ眼式」ともいう)であるのに対し,キエフのファインダーは構図用の窓と距離計用の窓とが1つになっている「一眼式」(「一ツ眼式」ともいう)である。速写性を考えれば,キエフの勝ちとなるだろう。
 以上をあえて採点すると,こんな感じか。

 重量・軽さ …… ゾルキー 100点,キエフ  80点
  レンズ性能 …… ゾルキー  70点,キエフ 100点
  巻き上げ ……… ゾルキー  80点,キエフ  70点
  ピント調整 …… ゾルキー  70点,キエフ 100点

キエフの勝ちである。
 ただこの結果は,「夜間におこなわれる神楽を,見物しながらお手軽に撮りたい」という目的にどちらが適しているかをあらわしているだけ,いつでも,どんな条件でも,普遍的にキエフのほうが優れている,ということを意味しているわけではない。また,まちがってもこのゾルキーをライカに,キエフをコンタックスに置きかえて読んだりしてはいけない。ましてや,「降り懸かる火の粉は拂はねばならぬ」なんてことを考える必要など,あるはずもない。

ともかく,Kiev3に標準レンズJupiter-8 5cm F2を装着し,NEOPAN 400 PRESTOを装填して撮影に挑んだ。露出は,1/50sec,F2.8が適正のようだが,ややオーバー目に撮っておいたほうがプリントしやすいだろうと考え,多くのコマを開放(F2)で撮っている。しかし,あとから気がついてびっくり。シャッター速度を1/50secに設定していたつもりだったのが,1/125secになっているではないか(^^; まあ,そのほうがカメラブレ,被写体ブレの心配が少なくて好都合であるし,幸い,多くのコマをF2で撮っているのでほぼ適正露出になっているとは思うのだが。。。。念のため,ミクロファイン1:1希釈液を使用したのだが,現像時間を長めに,攪拌も多めにして,気持ち増感気味に現像したのであった。

Kiev 3, Jupiter-8 5cm F2 (1/125sec, F2), NEOPAN 400 PRESTO, GEKKO MD-F

ところで,神楽がおこなわれた神社では,少なくない人がカメラを舞台に向けているようすがよく見えた。多くは,携帯電話であったり,コンパクトディジタルカメラのようであるが,ディジタル一眼レフカメラの姿も見かけられた。
 そんなとき,前のほうでご高齢の方が舞台に向けていたカメラには,妙に大きなレンズがついている。はっきりとは見えなかったのだが,Canon 7SとCanon LENS 50mm F0.95の組み合わせのようである。なるほど,あの種の大口径レンズの真価を発揮できる貴重な場というわけだ。ビューファインダーカメラと大口径レンズの組み合わせ,みんな考えることは同じようである。ああ,困ったことに,キエフ用のF1.5レンズがほしくなってきたではないか!まあ,今後,神楽を本気で撮ろうと思うようになったら,入手を前向きに検討し,可及的速やかに善処するかもしれない。


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