撮影日記


2009年10月31日(土) 天気:晴

似島

日本は島である。ユーラシア(アジア+ヨーロッパ),アフリカ,オーストラリア,(南北)アメリカ,南極の各大陸以外の陸地は,島なのである。そんな日本のなかでも,さらに「島」とよばれるところがある。北海道,本州,四国,九州という大きな島(本土)以外の陸地をさしている。かつて刑罰の1つに,(都などから)遠くに追放する「流罪」というものがあった。遠く離れた島に追放することが多かったようで,「遠島」「島流し」などとよばれることもある。島を出る手段がごくかぎられてしまうため,追放した者を監視するのに好都合だったのだろう。
 近代以降,土木技術等の進展にともない,橋(やトンネル)で結ばれる島も増えてきた。瀬戸内海では,本州と四国を結ぶ橋が架けられるとともに,その周辺の島々や,そのほか本州や四国に近い島にも橋が架けられるケースが増えている。もちろんいまだ橋によって結ばれていない島もあり,そのような島は「離島」とみなされることになる。
 広島市に近い離島としては,厳島があげられる。橋が架けられていないため,この島を結ぶ航路は,最後のJR(国鉄)連絡船という存在になっている(現在はJR西日本の直営ではなく子会社による運営ということになっているが)。厳島はいうまでもなく世界遺産の島であるから,その風景等を維持するために今後も橋が架けられることはないのではないだろうか。

「離島」が問題になるケースとして,「荷物を送る」ときがあげられる。通信販売では,品物の価格のほかに送料などが必要になるので,送料を安くすることは1つのセールスポイントにもなっており,たとえば「全国一律600円」などと表記されているのを目にすることも多いだろう。ところが,その近くに小さな文字で「離島を除く」などと書かれているケースも少なくないのではないだろうか。運送会社によっては,「離島中継料金」というものが設定されていて,離島とされる地域への送料は離島でない地域への送料にくらべて高くなるようになっているのだ。その点,全国一律の料金体系を維持している郵便局はエライ。もっとがんばれ。超がんばれ。
 たとえば佐川急便の資料を参照すると,広島市にも離島があることがわかる。似島(にのしま)だ。似島は,宇品港の正面に見える,安芸小富士とよばれる山が特徴的な島である。

似島と宇品との間には,朝6時台から夜8時台まで,1日に13往復のフェリーの便がある(*1)。おおむね1時間に1便が運航されていることになる。片道の所要時間は20分,運賃は380円。宮島航路よりは時間のかかる,少しは本格的な(?)船旅となる。

穏やかな瀬戸内海を静かに20分ほど進めば,似島港に到着する。桟橋の正面が家下地区という,島内最大の集落。というか,集落らしい集落は,ここにしかないようだ。島にはほとんど平野がないようだが,島を一周する道路は整備されており,南半周については自動車も通行可能とのこと。ただし島内に信号機が1つもなく,バスやタクシーなどは走っていない。
 この日,乗船した船は,豊平交通のバスを3台も積みこんでいた。似島港から見て島の裏側(島の東側)には,「似島臨海少年自然の家」という宿泊施設があるので,北広島方面からそこへの団体を送迎するために積みこまれたものであろう。島内をバスが走っていたとしても,そういうバスなのである。ちなみに,桟橋で話しかけられたご高齢の方によれば,「こんな大きなバスを島のなかで見ることは,めったにない」とのこと。

似島は,カール・ユーハイム氏によって,日本ではじめてバウムクーヘンが焼かれた場所とされている(*2)。第一次世界大戦時のドイツ人捕虜収容施設でのことだそうだ。「似島臨海少年自然の家」は,その跡地につくられたものとのこと。そこへ行くには,外周道路をのんびりと歩くよりも,峠越えをした方が近い。峠へ至る路地は,ちょっとした商店街になっている。鮮魚店,精肉店,さらに駄菓子店など。このようなお店を見かけることも,すっかり少なくなったように思う。

海から見れば,山はぼちぼち色づきはじめている。安芸小富士の標高は278m,宮島の弥山よりずいぶんと低い。それだけに,ハイキングにはお手頃かもしれない。来月半ばには,このあたりの紅葉もピークを迎えるのではないだろうか。宮島の人混みのなかで紅葉を見るのも飽きてきたなら,こういうところに行き先を変えてみるのもよさそうだ。
 広島市内からすぐに行ける,そんな場所でちょっとした離島気分を楽しむこともできるだろう。いや,広島市内からすぐ行ける,なんてものではない。そこは広島市南区である。

*1 http://www.ninoshimakisen.jp/modules/contents/index.php/jikoku.html

*2 http://www.city.hiroshima.jp/minami/gaido/dennsetu/kasi/kashi.html


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