撮影日記


2009年06月24日(水) 天気:曇ときどき小雨

パーマセルテープで蛇腹を繕う

ウェルタ(Welta)社のペルレ(Perle)は,1930年代後半に発売されていた,ドイツ製のセミ判スプリングカメラである。
 「アサヒカメラ」1938年5月号のフォット・ニュース社の広告(画像左)で,ちょうどこのカメラが宣伝されている。それによると,価格は265.00円〜110.00円とのこと。ペルレは,中古品としても多く流通していたようで,中古品を扱っている販売店の広告(画像右)には当然のようにペルレの文字が見られる。それらを見ていると「テッサー4.5」と書いてあるものもあり,ペルレには搭載されたレンズによって,いくつものモデルが派生していたことがわかる。フォット・ニュース社の広告に見られる価格差は,おそらく搭載されたレンズの差を反映してのものだろう。265.00円のペルレには,当時の高級レンズであったCarl ZeissのTessar,それもF2.8のものが搭載されていたものと思われる。
 ところが残念なことに,私の手もとにあるペルレについているレンズは,テッサーではない。おそらくはもっとも安価なWeltar Anastigmat 7.5cm F4.5がついているもので,ボディにシャッターレリーズボタンがついている後期モデルに該当する。
 ともあれペルレは,この時代のカメラとしてはポピュラーな存在だったと思われる。もしペルレを「激レア!」「珍品」などと宣伝するセラーがいたら,なにを基準に「レア」と称しているのか,小一時間くらい問い詰めてみても いいのかもしれない。

「アサヒカメラ」1938年5月号に見られるペルレの広告。

私の手もとにやってきたときのペルレは,かなり悲惨な状態であった。
 ケースはさほど傷んではいないものの,カメラ本体は各所に錆がこびりついている。レンズの表面はまっ白になっており,蛇腹には大きな裂け目が何か所も見られていた。まったくのジャンク品である。
 しかし,そのような悲惨な外見に反して,シャッターの動作は意外と快調であった。ともかく1秒から1/250秒まで,どの速度でもスムースに動き,シャッター速度もきちんと変化している。

さて,どこから手をつけようか。
 とりあえずレンズを清掃してみることにした。クリーニング液とクリーニングペーパーを使って,レンズの表面を拭いてみる。隅のほうには白いものがこびりついたような状態になっていたが,何度か清掃を繰り返すことでレンズはきれいになった。
 そう,意外なほど,きれいになったのである。
 レンズは,表面が汚れていただけだったようだ。レンズ内部に目立ったクモリやカビなどは見あたらない。

Weltar Anastigmat 7.5cm F4.5は,表面が汚れていただけのようだ。

外見の悲惨さに反して,レンズのダメージは意外と小さかった。このことは,清掃作業を続けるにあたって,大いにやる気を与えてくれる。
 次は,錆落としである。
 錆の厚いところは,思い切ってやすりで削ってしまうことにした。そのあとは,ごく少量のCRC 5-56をつけて拭く。これを繰り返すと,錆はあまり目立たなくなった。CRC 5-56をよく拭きとって,次はコンパウンドを使って磨く。
 裏蓋の開閉が固かったが,錆を落とし,蝶番の部分をシリコングリスでちょっと拭いてやると,スムースに開閉するようになった。

最後に,いよいよ蛇腹の補修である。
 5mmから1cm程度の裂け目が何箇所かあり,当然のようにほとんどの角にはピンホールが認められる。こういうときは,安直だがパーマセルテープを貼ってしまおう!
 黒いパーマセルテープを短く切って,蛇腹の裂け目がある部分に,内側から貼る。1つ貼るたびに蛇腹がスムースにたたまれるように癖をつけていく。大きな裂け目をつないだら,こんどは蛇腹の角にあるピンホールをまとめて何個かふさぐように,パーマセルテープを貼る。
 しかし,あまりパーマセルテープを貼ると,蛇腹が厚くなって,たたみにくくなってしまう。蛇腹の角は,補強したいというねらいもあるのでパーマセルテープを使うが,角以外の場所は,アクリル絵の具で埋めてみることにした。黒いアクリル絵の具を厚めに,ピンホールを埋めるように塗っていく。乾いたら蛇腹を伸縮して確認し,なんどか塗り重ねていくことで,ピンホールはほぼ埋まったようである。

パーマセルテープとダイソーで買ったアクリル絵の具。

あとは,表面の仕上げである。
 錆を落としてコンパウンドで磨いたところにも,黒いアクリル絵の具を塗り重ねていった。そのほか,黒い塗装がはげたり,軽く錆が生じたりしているところも,黒いアクリル絵の具でタッチアップしていく。
 そして最後に。ボディの貼り革にミンクオイルを塗って磨けば,ちょっとは輝きも戻ってくるというものだ。
 このウェルタ・ペルレは,外見のダメージは大きかったものの,問題が表面だけにとどまっていたようで,そのためか容易に復活できたようである。しばらく,蛇腹のようすを確認し,ピンホールが生じないようであれば,試し撮りもしてみようと思う。

とりあえず復活したウェルタ・ペルレ(Welta Perle)。

ともあれ,困ったときはパーマセルテープなのだ。2006年3月20日の日記に「大判カメラの蛇腹が破れたときの補修などにも使えるだろう」と書いたが,うんと小さなセミ判カメラの補修にも,なんとか使えてしまうということであった。もっとも,こんな蛇腹の補修方法は,ほんの一時しのぎに過ぎないこともわかっているのだが。


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