撮影日記


2009年05月31日(日) 天気:くもり一時あめ

「ヨンサンハチロク」以前

2007年2月11日の日記で,「標準ズームレンズ」のことを書いた。
 スチルカメラ用ズームレンズとしてはじめて商品化されたものとして,1959年の「Zoomar 36mm-82mm F2.8」というレンズがあるが,これは「50mm」をはさんで広角側と望遠側をカバーした「標準ズームレンズ」でもあった。さらに,F2.8という「大口径ズームレンズ」でもあった。そのかわり巨大なもので,標準レンズのかわりに常用できるようなレンズではない。
 標準レンズのかわりに常用できる,という点でも「標準ズームレンズ」と呼べるような最初の製品は,1963年に発売された「Zoom-NIKKOR Auto 43mm-86mm F3.5」であるとされる。画質の面では「問題点」を指摘されることも多かったようだが,焦点距離,明るさ,大きさ・重さ,価格などのあらゆる面で,「標準レンズのかわり」を務めることができ得る,まさに「標準ズームレンズ」だったのである。
 広角側が43mmまでというのは,その後に多く登場した,35mm-70mmクラスの「標準ズームレンズ」を知っている人にとっては,あまりに物足りないスペックであろう。しかしながら,当時は,50mmよりも広角側をカバーしたズームレンズはほかにない状態で,短焦点側が50mm付近であるズームレンズすら,その例は非常に少なかったのである。

ところで,日本カメラショー「カメラ総合カタログ」1961年版(vol.6)を参照すると,ニコンから「Auto NIKKOR Wide-Zoom 35mm-85mm F2.8-F4」というズームレンズが「近日発売」として掲載されている(2007年8月23日の日記を参照)。このレンズは「Zoomar 36mm-82mm F2.8」同様に巨大なレンズであり,結局,発売されなかったようである。先日入手した(2009年5月26日の日記を参照),その翌年の日本カメラショー「カメラ総合カタログ」1962年版(vol.9)には,「Auto NIKKOR Wide-Zoom 35mm-85mm F2.8-F4」は掲載されていない。

日本カメラショー「カメラ総合カタログ」1962年版(vol.9)

さて,日本カメラショー「カメラ総合カタログ」1962年版には,どんなズームレンズが掲載されているだろうか。各社のページを眺めてみることにした。
 ズームレンズのラインアップがもっとも充実しているのは,やはりニコンである。といっても,ラインアップされているレンズは,わずかに2本。「Auto NIKKOR Telephoto-Zoom 85mm-250mm F4-4.5」(99,000円)と「Auto NIKKOR Telephoto-Zoom 200mm-600mm F9.5-10.5」(120,000円)である。1963年になればここにあの「Zoom-NIKKOR Auto 43mm-86mm F3.5」がくわわるわけだが,日本カメラショー「カメラ総合カタログ」1962年版(vol.9)当時のニコンには,50mmをカバーするズームレンズは,ラインアップされていない。
 他社はどのような状況だろうか。有力メーカー(ブランド)の1つであるといえるミノルタには,「Auto Zoom-ROKKOR 80mm-160mm F3.5」(69,500円)が見られる。また,タムロンには「95mm-205mm F6.3」(プリセット絞り)がある。キヤノンや旭光学(ペンタックス),コニカなどには,ズームレンズのラインアップが見られない。

ところで,ビューティカメラといえば,いまはその存在がほとんど忘れられているかもしれないが,「ビューティフレックスT型」ではヤシカとともに二眼レフカメラの「価格破壊」を引き起こす(2007年1月28日の日記を参照)など,昭和30年前後にはかなりの影響力をもっていたメーカーだったと考えられる。
 そんなビューティカメラが日本カメラショー「カメラ総合カタログ」1962年版(vol.9)で占める紙面は,わずか半ページ。しかし,そこに驚くべき製品のラインアップがあった。

日本カメラショー「カメラ総合カタログ」1962年版(vol.9) p.25より

「ズーム ビオコール 50mm-100mm F3」というズームレンズである。
 8ミリや16ミリなどのムービー用ではない。カタログの文言では,「35mm一眼レフ用」として「標準50mm」が使用できるズームレンズであることが強くアピールされている。マウントも「各種」用意しているようである。しかも明るさは,十分に明るいといえるF3。
 短焦点側が50mmなので「標準ズームレンズ」とは言い難いが,「Zoom-NIKKOR Auto 43mm-86mm F3.5」より早く,焦点距離50mmをカバーしたズームレンズを発表していることは,注目に値する。
 ただ,カタログに示された仕様によれば,その重さは「約1kg」であり,かなり重いものである。価格は45,000円。これは,かなり「がんばっている」と思う。しかし,はたしてこの商品はそれなりに売れたのだろうか?
 いや,それ以前に,商品化され,市場に流通したのであろうか?

ともあれ,日本カメラショー「カメラ総合カタログ」1962年版(vol.9)に,35mm判一眼レフカメラ用のズームレンズとして掲載されているのは,わずかに4つのブランドからの5つの製品だけなのである。


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