撮影日記


2009年02月03日(火) 天気:雨

ウエストンマスターのロマンを求めて

かつてのカメラは,だれにでも簡単に写真が写せるようなものではなかった。しかし現在,多くのカメラは「押せば写る」ようになっている。これは,カメラの操作が自動化されてきたことの影響が大きい。とくに,露出とピントの調整が自動化されたことで,カメラは,だれにでも簡単に写真が写せるものになったのである。

ピントの合っていない写真は,ぼんやりしてなにが写っているのかわからないものになる。最近のカメラにはオートフォーカス機構が内蔵され,自動的にピントを合わせてくれるようになっているものが多い。自動焦点カメラとして最初に商品化されたものは,よく知られているように1978年に発売されたコニカC35AF,通称「ジャスピンコニカ」だ。
 「ジャスピンコニカ」以前のカメラでも,もちろんピントが合っているかどうかを知る術は用意されていた。たとえば,ピントグラスに写る像を確認するというものがある。そのほかには,距離計を利用する方法もあった。距離計(range finder,レンジファインダー)とは,たとえば三角測量の原理を利用して,被写体までの距離を知ることができる装置である。とくに,ライカやコンタックスなどのような,レンズのピントリングと連動した二重像合致式距離計が内蔵されたファインダーをもつカメラの使いやすさは,当時としては抜群に優れたものだったようだ。最近では「レンジファインダーカメラ」と呼ばれるが,古い雑誌等においては,それらのカメラを「自動焦点カメラ」と呼ぶケースも見られる。
 しかし,ピントグラスの像を確認するにしても,距離計を利用するにしても,ピントを合わせるのにはある程度の時間が必要である。また,慣れも必要だ。最近のカメラに内蔵されたオートフォーカス機構は,かなり迅速にピントを合わせてくれるようになっているが,それでもある程度の時間は必要だし,被写体によってオートフォーカス機構が苦手とする状況になっていれば,機械がピントを合わせられずに右往左往したり,まったく違ったところへピントを合わせてしまったりすることもある。
 そのため,目測でピントを合わせるような撮り方を好む人もある。目測でそれなりによいピントを得るためには,経験と勘が重要になるが,迅速に撮影できるメリットは大きい。また,そのような撮り方ができると,ベテランっぽくてカッコイイ。

露出のよくない写真は,フィルムに写った像が明るすぎたり暗すぎたりして,良好なプリントを得るのが困難になる。最近のカメラでは,自動的に露出を調整してくれるAE機構を内蔵していることが一般的だが,一眼レフカメラなどプロやマニアが好むタイプのカメラには,シャッター速度や絞りを自分で調整するマニュアル露出機能が用意されているものも多い。AE機構を利用したり,適正な露出のために現在の明るさを知ったりするためには,露出計が必要になる。
 ただし,いつもいつも露出計が示す値の通りに撮ればよい,というものでもない。
 たとえば順光(被写体の手前側から光があたっている状態)であれば,露出計が示す値をそのまま利用しても問題ないことが多いが,逆光(被写体の向こう側から光があたっている状態)であれば,露出計が示す値のままでは被写体が意図したよりも暗く写ってしまう場合がある。順光であっても,被写体の色や反射率などによって,露出計が示す値のままでは,意図した明るさに写らない場合がある。また,意図的に被写体が明るく写ったり暗く写ったりするようにして,意図的な表現をおこなう場合もある。
 ともあれ,露出計を使う場合でも,結局は経験と勘が重要なのである。
 だから撮り慣れている人は,一度,基準となる露出を決めて,あとは状況の変化に応じて勘で絞りを開いたり閉じたりして撮影するような人もある。それはそれで,カッコイイ。実際,1960年代半ばくらいまでは,「プロは露出計を使わない」なんてことも言われていたらしい。

そうは言っても,露出計は便利である。また,少なくとも基準の露出を知るためには,露出計は必須となる。先の「露出計を使わない」というのは,「露出計に頼りきらない」「露出計の示す値をそのまま使うとはかぎらない」くらいに読みかえるのが,状況を正確にあらわすことになるかもしれない。
 露出計には,たとえば濃度の違う文字が書いてあって,それがようやく見える明るさで判断するようなものや,季節や時刻,天候などの条件にあわせた適切な露出の値を読み取ることができるような表形式のものもあった。しかし,一般的に露出計と言うときには,電気を利用したものを指している。これらは,電気露出計とも呼ばれていたこともある。
 電気露出計は,明るさによって電気の流れ方が変化する部品を利用し,明るさに応じてメーターの指針を振らせるなどして,明るさを示すようになっている。初期の電気露出計には,セレン光電池と呼ばれる部品が使われていた。セレン光電池は,明るさに応じて電力が発生するもので,その電力によってメーターの指針を振らせることができ,明るさを示すようになっていた。そのような製品として有名なものに,アメリカのウエストン社のものがある。この露出計はアメリカ製,すなわち「舶来品」である。この「ウエストンマスター」というシリーズは,1950年代を中心に広く普及した製品だ。当時はきっと,それなりに高級品として扱われていたのではないかと思うのだが,出回っている数が多いせいか,中古品市場に流通する価格はそんなに高いものではないようだ。まあ,古い露出計は精度があやしくなっているだろうから,実用性がほとんどないというのも,流通する価格があまり高くならない理由になるのかもしれないが。
 ともあれ「舶来品」には,あこがれのようなものも含まれていたはずだ。ちょっとそんな気分を味わってみたくなったのである。こういうのも一種のロマンというものではないだろうか(笑)。

ウエストンマスターII モデル735 (WESTON MASTER-II model735)

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