撮影日記


2008年10月21日(火) 天気:晴

TENAXに謎のフィルタ?

ゲルツのテナックスについての話を続ける。

ゲルツ テナックス (C.P.Goerz Vest Pocket TENAX)

Vest Pocket TENAXのピント調整は目測式で,カメラ上部にあるダイアルの目盛を合わせておこなう。
 このダイアルに刻まれた目盛の単位は,yards(ヤード)である。ピントリングの目盛の単位にm(メートル)やft(フィート)が使われているカメラ・レンズはよく見かけるし,ftしか目盛のないカメラ・レンズを使う機会も少なくないので,「1ft≒0.3m」という換算には頭が慣れている。しかし,「1yards≒0.9m」という換算は,私にとってはこのテナックスが唯一のケースなので,どうしてもとまどってしまう。

ピント調整リングの距離目盛の単位は「ヤード」である。

ここで,先日の試し撮りの結果を,もう一度見てほしい(2008年10月13日の日記も参照)。

C.P.Goerz TENAX, Dogmar 75mm F4.5, PORTRA160 VC

先日も書いたように,画面の左上に見られる斜めの線は,フィルムが折れてしまったことによるものである。また,画面左上が異常にピンボケになっているのは,フィルムが曲がって浮いていたことが考えられる。
 しかし。
 実は,この写真は,そもそもピンボケなのである(笑)。
 画面中央付近の花にピントを合わせるべく,ピント調整ダイアルの目盛を5yardsあたりに合わせたはずである。しかし,実際には花の向こうの建物にピントが合っている。
 どこにもピントが合っていないわけではなく,全然違う距離にピントが合っている。ピント調整機構に,なんらかの動作不良やずれが生じているのかもしれない。

Vest Pocket TENAX用にピントグラスが用意されているのかどうかは,知らない。少なくとも,私の手元にはない。しかし,フィルムバック部は交換できるし,シャッターには「タイム露出」モードが用意されている。ピントグラス(あるいは代用品)があれば,ピント調整ダイアルにずれが生じているかどうか確認できるはずだ。
 ただ,残念ながら,手ごろな大きさのピントグラスが手元にない。
 二眼レフカメラ等から切り出すのも,もったいない話だ。
 そこで,トレーシングペーパーで代用することにした(笑)。微妙な調整をするのではなく,大きなずれが生じているかどうかの確認くらいには使えるだろう。

乾板ホルダにトレーシングペーパーを固定し,シャッターを開放してトレーシングペーパーに写る像を確認することにした。夜,ピント調整ダイアルは「inf」(無限遠)にし,カメラを遠くの明かりに向けた。
 たしかに,まったくピントが合っていない。
 次に室内の明かりを見る。やはりピントが合っていない。ピント調整ダイアルを動かすと,少しずつピントが合いそうになってくるが,最短撮影距離まできても,やはりピントは合わない。

ここで,ふと疑問が湧いた。
 レンズの前についている,これはなんだろう?

C.P.GOERZ BERLINという文字がある。
反対側には,1/3(1/8?)という文字がある。

レンズの前に,なにかフィルタのようなものがついている。「C.P.GOERZ」という文字が刻まれていることから,これは「純正パーツ」であることは間違いない。反対側には「1/3」(1/8のようにも見える)という数字が書かれている。これが,なにを意味するのかはわからない。
 もしかしたら,このフィルタのようなものは「クローズアップレンズ」だったりするのだろうか?近接撮影のために,そういうオプション品が用意されていても不思議ではない。クローズアップレンズであれば凸レンズだから,これをはずして机の上にかざせば,そこに天井の照明器具の像が写るはずだ。
 机の上に,なにも像は結ばれなかった。つまりこれは,クローズアップレンズではない。

そのフィルタのようなものをはずしたまま,もう一度,ピントグラスがわりのトレーシングペーパーを覗いてみた。
 あ,ピントが合っている。
 今度は,ちゃんと無限遠でピントが合っているように見えるのだ。

古いレンズには,現代のレンズとは異なり,丈夫なコーティングなどなされていない。そのため,傷防止を目的とする保護フィルタのようなものがつけられているのだと思っていた。しかしこのフィルタのようなものは,どうも平面ガラスではないようである。また,クローズアップレンズのような凸レンズでもない。
 ということは,凹レンズなのか?
 たしかに,ニコノス用UW-NIKKOR 28mm F3.5のように,最前面に凹レンズがあり,空気中ではピントが合わないように調整されているレンズは存在する。Vest Pocket TENAXの場合は,なんの目的で凹レンズが取りつけられているのだろうか?

C.P.Goerz TENAX, Dogmar 75mm F4.5, PORTRA160 VC

これまでに,このようにピントが合った写真が撮れていたこともある。
 このときにはきっと,「こういう付属品をなくしてはいけない」と考え,そのフィルタのようなものをはずして持ち出し,撮影していたのだろう。
 うん,そうだ。きっとそうに,相違ない。


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