撮影日記


2008年03月31日(月) 天気:はれ時々くもり

もしも私が,
中判一眼レフカメラを買うならば

中判カメラとは,幅約6cmの120フィルム(あるいは220フィルム)を使うカメラを指す言葉である。このフィルムを使うときの画面サイズは何種類かあるが,基本となるサイズはブローニー判と呼ばれる6cm×9cmのようである。そのためか,120フィルムのことをブローニーフィルムと呼ぶ人もある。120フィルムではそのほかに,6cm×4.5cm(セミ判),6cm×6cm,6cm×7cmなどのサイズがよく使われている。いずれにしても35mmフィルムを使ったライカ判よりもずっと大きな画面サイズであり,大伸ばしを考慮する場合など画質面で圧倒的に有利であるとされている。
 私は,中判カメラとして,マミヤユニバーサルプレスのシステムを,長い間,使ってきた。このシステムには交換レンズが豊富に用意されており,作画上,好都合である。交換レンズはヘリコイドをもったものであり,交換も容易で,扱いやすい。カメラボディには二重像合致式距離計が連動したファインダーがあり,スナップ的な撮影が可能であるが,さらに,フィルムホルダの部分にピントグラスを取りつけることで,ビューカメラのように精密な構図やピントの調整が可能になる。このようにマミヤユニバーサルプレスは,6×9判という大画面をお手軽に利用できる,貴重なシステムなのである。
 しかし,過去には中判一眼レフカメラの購入を考えたこともあった。一眼レフというカメラの形態には,ミラーの動きによるショックが大きいという重大な欠点もある。しかし,それを補ってあまりある魅力があるのだ。たとえば,ピントグラスとフィルムホルダを付け替えなくても,構図やピントを精密に調整することが可能である。TTL露出計を利用すれば,露出の決定もおこないやすい。

さて,もしも私が中判一眼レフカメラを買うとすれば,なにを選べばよいだろうか。

まず最初に考えたものは,ハッセルブラッドのシステムである。「いつかはクラウン」というわけじゃないが,やはり「いつかはハッセル」なのである。「いざ」というときのハッタリも強いのだ(1997年7月9日の日記を参照)。それはさておき,問題はその価格だ(笑)。標準レンズだけならともかく,望遠レンズや広角レンズもある程度そろえようと思えば,それなりの出費を覚悟せねばならない。さすが,カール・ツァイスのレンズである。しかし,それだけの高いお金をかけたとしても,得られる画像の大きさは6×6判なのである。だから「ハッセルよりもリンホフだ」などと,話が違う方に逸れていき,私のなかでの「ハッセル」購入意欲は,薄らいでいったのであった。
 ハッセルブラッドは,多くの人が「よい」と認め,憧れるカメラであるが,たしかに高価である。そして,かつて「プアマンズ・ハッセル」と呼ばれたカメラがあった。それは「ゼンザ・ブロニカ」のシステムである。このカメラは,よく知られているように,吉野善三郎という人が開発した。「ゼンザ・ブロニカ」という名前は,「ぜんざぶろう」さんの「ブローニー」フィルム用「カメラ」を意味しているという。
 「ゼンザ・ブロニカ」は発売当初,ハッセルブラッドから「意匠,アイデアを模倣している」としてクレームが付けられたという。サンケイカメラ1959年9月号の記事によれば,そのとき(当時の)通産省はハッセルブラッド側に「模倣の具体的な点を明らかにするよう」に希望を出しており,その後 ,ハッセルブラッドとゼンザ・ブロニカの直接協議がおこなわれることになり,「円満解決の途が開けた」とされている。おそらくそれは無事に和解に至ったのであろうが,そのような「模倣品」というダーティーなイメージを植え付けられたためなのか,あるいはその複雑な機構のせいで故障が多いという風評が広まったせいなのか,「ゼンザ・ブロニカ」を「ボロニカ」あるいは「ゼンブ・ボロニカ」などと揶揄する人も少なくないようだ。ただ,私にとってはたとえ「ボロニカ」という悪評を耳にしていようとも,そのシステムの交換レンズが「ニッコール」であったことは,大きな魅力だったのである。なお,その後の「ゼンザ・ブロニカSQ」のシリーズからは「ボロニカ」ではなくなったようだが,「ニッコール」の用意もなくなったので,個人的な魅力は失われていくのであった。
 しかし,ハッセルブラッドであっても,ゼンブ・ボロニカ,もとい,ゼンザ・ブロニカ(およびSQ)であっても,得られる画像は6×6判である。長方形の印画紙にプリントするときは,その画像全体を使うことができない。実質的に6×4.5判での撮影とかわらないことになる。6×9判を「フルサイズ」とすれば,6×4.5判は「ハーフサイズ」だ。そういうこともあって,結局,これらのシステムを購入することは,やめたのであった。

画面サイズを意識すれば,マミヤRB67が魅力的に感じられてくる。これは6×7判のカメラで6×9判よりわずかに短いわけだが,印画紙の標準的な形状は6×9判よりも6×7判に近いため,プリントすることを考慮するならば,問題はない。また,Mamiya RB67 Pro SDというモデルであれば,6×8判のロールフィルムホルダが利用できるようになっている。どうしても6×7判よりも長い画面がほしいときの選択肢が用意されているわけだ。
 しかし,RB67については,やはりその大きさに躊躇せざるを得なかった。携行性を重視すれば,アサヒペンタックス6×7という選択肢もある。これもよく売れたカメラのようで,中古カメラ市場には多数のボディや交換レンズが,あまり高価でない価格で流通しており,そういう面でも魅力的である。しかし,マミヤユニバーサルプレスで「フィルムバック交換」という機能を知ってしまった私にとっては,それができないアサヒペンタックス6×7を選ぶことはなかったのである。シャッターの動作に電池が必須である,というのも,その選択を躊躇した一因だった。
 ゼンザ・ブロニカGS-1は,昔の「ボロニカ」ではない。しかしながら,これにはまったく魅力を感じることはなかった。マミヤRZ67と同様に,シャッターの動作に電池が必須だからである。まあ,結局はなにも選ばなかったのだが,もしも6×7判一眼レフカメラを選ぶとすれば,マミヤRB67か,アサヒペンタックス6×7のどちらかを選んでいたことであろう。

6×4.5判一眼レフカメラについても,考えてみたことがあった。6×6判を使っても,プリントするときには6×4.5判の範囲しか使わないのだから,最初から6×4.5判で撮っておけばよいのである。ペンタックス645のシステムは,35mm判AE一眼レフカメラのようなイメージがあり,魅力を感じなかった。一方,マミヤM645には,80mm F1.9という大口径レンズがあることに魅力を感じた。マミヤユニバーサルプレスを長く使ってきたことから,マミヤをどうしても贔屓目で見てしまうという影響は,もちろん無視できないとは思うが。しかし,結局,それにも手を出さなかったのは,シャッターの動作に電池が必要とされているためである。よく見れば,ペンタックス645も,マミヤM645も,ゼンザ・ブロニカETRSも,これらの6×4.5判一眼レフカメラは,いずれもシャッターが電子制御なのである。
 ということで,中判一眼レフカメラの購入を考えたとき,これらの中でいちばん関心を持てなかったカメラは,「ゼンザ・ブロニカETRS」のシステムだったのである。そんな「ゼンザ・ブロニカETRS」を入手してしまったというのは,いったいどうした「縁」なのであろうか(笑)。

中判一眼レフカメラには,上記のほかにもいろいろなものがあった。たとえば,キエフ88,キエフ60,コーワ6,ノリタ66,フジタ6などなど。キエフは,レンズの評判は悪くないようだがカメラのメカニズムの信頼性が低いという風評があった。コーワ,ノリタ,フジタ等は,中古市場で見かけることも少なく,実用品として入手の対象にされることは稀であろう。


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