撮影日記


2008年03月24日(月) 天気:曇

「アサヒカメラ」復刊第1号

2008年3月21日の日記のつづき。
 東京駅到着は,10:33。その日の用事まで少し余裕があったので,友人と少し早い昼食にした。昼食後,八重洲地下街にある古書店「八重洲古書館」に立ち寄ったが,そこで「気になるもの」と出会ってしまったのである。

「八重洲古書館」の店内の一角には,カメラ・写真関係の書籍が集められていた。明らかに古いカメラ雑誌が数十冊並んでいる。
 古い雑誌は,おもしろい。1つは広告である。広告には,その当時,どんなカメラがどんなキャッチコピーで発売されていたかが示されている。それを通じて,そのカメラがどんなユーザ層を対象にしていたかが想像できるわけだ。同様に,新製品紹介の記事もおもしろい。ところで広告には,メーカーや代理店によるものだけでなく,販売店によるものもある。とくに中古カメラのリストも掲載しているような販売店の広告を見れば,その当時のカメラの実売価格が想像できることになる。
 掲載されている写真もおもしろい。たとえば,今となっては伝説になってしまっているような大先生が現役だった時代であることが理解できる。また,そこに写っているような日常の光景も,興味深く見ることができるだろう。

以前,「アサヒカメラ」昭和13年6月号を大阪の古書店で入手したことがある。昭和13年というと,日本とアメリカとの戦闘はまだはじまっていないものの,中国との戦闘状態は続いており,緊張状態がかなり高まっていた時代であることは間違いない。そのような空気は広告にもよく反映されており,たとえば精機光学研究所の広告には「大陸を席惓する皇軍兵士の如く、世界の注視と瞠目の裡にキヤノン・カメラも堂々と躍進して行く。」と謳われていたりする(2006年2月15日の日記も参照)。第二次世界大戦中およびその直前の時代は,いろいろなことが制限されていた「暗い時代」というイメージだけが強いかと思う。しかし,こういう雑誌を見ていると,少なくともそういう制限のなかでも,せいいっぱい趣味を楽しんでいた人たちも決して少なくなかったのではないか,ということを想像してしまう。そのような人たちの絶対数はわからないが,少なくとも雑誌の経営が成り立つくらいの読者はついていた,ということである。むしろ,趣味を楽しんでいるような人たちが少なくなかったからこそ,彼らを引き締めるために,さまざまな制限やスローガンなどが出されたのではないだろうか。そして,意図的であろうとなかろうと,そういう文言は記録として残りやすいため,その時代の暗いイメージだけが強調されて現代に伝わっているのではないか,とも思ったりする。いや,これは考えすぎか?

さて,「八重洲古書館」には,古い「アサヒカメラ」がたくさん並んでいた。第二次世界大戦前(あるいは戦中)のものがないか,1冊ずつ発行年を確認してみたのだが,戦前ないし戦中のものは見つからず,昭和25年前後のものばかりであった。とはいえ,その時代の雑誌等はまだ入手していないため,どれか「意味のありそうなもの」を1冊,購入しようと考えた。
 そのなかにあった「アサヒカメラ」昭和24年10月号の表紙には,「復刊第1號」という気になる文字が書かれていた。

「アサヒカメラ」昭和24年10月号
右下に「復刊第1號」の文字が見える

店頭ではビニル袋にきっちりと包まれていたので,中身を確認することはできなかった。購入後,早速,表紙をめくってみると,そこには,「復刊の辞」がある。それによると,大正15年4月に創刊された「アサヒカメラ」は,昭和17年4月に「戦時下に情報局の指示により休刊」になったとの記載がある。少なくとも,昭和17年4月までは,写真という趣味を楽しもうとする人がいたのであろうが,その一方で,それを引き締めようとする動きもあったことがうかがえる。逆に,なんだかんだ言っても,昭和17年あたりまでは,まだいろいろと「余裕があった」ということかもしれない。
 それから7年。「アサヒカメラ」の復刊は,「趣味」に目を向ける人が増えはじめたことをあらわしているのではないだろうか,それはすなわち,戦後の混乱が収まりはじめた時代であることを示しているのかもしれない。そうなると,「アサヒカメラ」以外の雑誌の動向も気になってくるというものだ。

復刊についての経緯が簡単に示されている。

ともあれ,八重洲地下街のこんな場所に古書店があることには,今まで気がついていなかった。東京駅で少し空き時間があるときなどに立ち寄る場所が増えたのは,とてもありがたい。神保町まで足を延ばせば,古い雑誌の1つや2つ,いくらでも売られていると思うのだが,あそこまで規模が大きいと,どのお店がどういう分野に強いかということを把握し,かつ,ふだんから足繁く通っていないと,なかなかほしいものが見つけられないような気がする。「BOOK TOWN じんぼう」のような便利なウェブサイト(*1)もあるとはいえ,「八重洲古書館」のようなコンパクトなお店の方が楽しみやすいと感じるのであった。

*1 http://jimbou.info/


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