撮影日記


2008年03月09日(日) 天気:曇のち雨 深夜に激しい雷雨

新しい数学

「新書マップ」(*1)というサービスはおもしろい。「連想検索」という技術により,指定したキーワードそのものが含まれていなくても,関連する書籍をピックアップしてくれるというものだ。インタフェース面も動きが楽しいものであるし,検索結果として書籍の背が書棚に並んでいるように表示されるところも,眺めていて楽しい。
 「新書」とは出版物における1つの形態であり,新書判とよばれるやや縦長の判型の書籍になっている。その内容としては,教養書や実用書に分類されるものが主流である。似たようなものに「文庫」と呼ばれる形態がある。単行本に対する廉価版として,また,携帯に便利なようにつくられたA6判くらいの小型の叢書(そうしょ)で,各出版社からシリーズ化して発行されているものを指すようである。「文庫本」と呼ばれるものは,古典を中心に採録された1927年の岩波文庫から始まったとされる。「新書」は,1938年の岩波新書から始まるとされており,こちらは新しく書き下ろされた啓蒙書で構成されるものである。他の新書シリーズの内容も,啓蒙書,教養書,実用書などに分類されるものを指し,新書判の書籍であっても,小説やコミックなどは新書とは呼ばれないのが一般的のようだ。

最近,「新しい数学」という言葉があることを知った。現在の算数・数学教育に影響を与えている考え方らしい。同時に,そういうタイトルの本が1960年代に発行されているということも耳にした。数学を専門とする友人に尋ねてみたところ,「新しい数学」は,岩波新書から発行されている矢野健太郎氏の著書のことだろう,と言う。残念ながら,絶版になっているらしい。古本屋さんで探してみるしかない。「古書」店で「新書」を探す,少し変な感じがするかもしれないが,「新書」とは「新品の書籍」という意味ではないので,気にしてはいけない。
 さて,「新しい数学」は,数学に関する啓蒙書のようだ。岩波新書からの発行ということで,それなりの部数が発売されていたものと思う。まずは新書の在庫が多そうな大規模な中古書店,BOOK OFF広島大手町店を覗いてみた。そこには新書だけでも相当な数があるが,全体に,比較的最近の書籍ばかりのようである。古くに絶版になった本は対象外なのか,残念ながらそこで見つけることは叶わなかった。

そうなると,アカデミイ書店に行くしかない。

アカデミイ書店金座街店の売り場は,1階と2階に分かれている。その階段の壁面に,多数の新書が並べられている。そこに並べられた岩波新書のタイトルを1冊ずつ眺めてみるが,残念なことに「新しい数学」は見つからない。そこでふと思いついた。階段の壁面に並べられた新書は,おもに社会科学や古典に関するものである。「新しい数学」は,理科学系の書籍として別の場所にあるのかもしれない。そうだ,2階のもっとも奥,教育系の書籍のさらに奥に,理科学系の書籍のコーナーがあった。その最下段には,講談社ブルーバックスという理科学系の新書があったはずだから,岩波新書でも理科学系の内容のものは,きっとそちらにあるのかもしれない。
 理科学系の書籍のコーナーの最下段には,記憶にたがわずブルーバックスが並べられていた。そのなかに「統計でウソをつく法」があった。この本は,ブルーバックスの中でも名著中の名著だろうと,私は思う。「だまされないためには,だます方法を知ること」というのは,「情報社会」とも呼ばれる,おびただしい情報があふれる現代社会においてこそ,強く意識するべきことだろう。

さて,ブルーバックスの隣にあった岩波新書のなかに,無事に「新しい数学」を見つけることができた。こうもあっさり見つかるとは,「新しい数学」は,「統計でウソをつく法」に匹敵するくらい,よく売れた本だったということかもしれない。よく売れたことを物語るかのように,価格は200円。奥付を見ると,1966年2月21日の第1冊から増刷が重ねられ,この第14刷は1974年8月10日発行になっていた。8年間で14刷もの増刷が重ねられたことは,理科学系の啓蒙書としては「とてもよく売れた」ものと言えるのではないだろうか。「絶版本」ということで高めの価格がつけられているのではないか,という危惧もあったので,少し安心したものである。
 「新しい数学」は,まだ,最初の方を少し読んだだけであるが,それだけでも小学校の算数で扱われていた「集合」の考え方の礎になっていることがうかがえるように感じられた。そもそも,小学校の学習指導要領で「集合」ということばが出ていたのは,1977年告示のものだけである。「新しい数学」で紹介された考え方が,学習指導要領に反映されていたとして,時代的に整合するように思われる。

 さて,アカデミイ書店金座街店の2階で,理科学系の書籍のコーナーに至る途中,足元の方に「古書」のコーナーがある。いや,アカデミイ書店は古書店なのだから「古書」があるのは当然だが,ここでは明治期あるいはそれ以前の和装本を指すものとして「古書」と書いた。ちなみにその隣は,カープ関係の書籍が集められている。その上段は宗教関係の書籍が集められている。その裏側は,広島関係の書籍が集められている・・・・・・キリがないし,このお店の宣伝をする必要もないので,やめておこう。
 その「古書」のなかに,「幼学便覧 伊藤馨 弘化2年」と記されたものがあった。価格は2000円。古いものに興味をひかれる私としては,少し気になる書籍である。この書籍は固くビニル袋でパッケージされているので,その内容を知ることはできない。ただ,「幼学」という単語からは,なにか学問的なものの入門書,教科書のようなものではないかということが想像できる。そのときは「新しい数学」が思ったよりも安かったので,この「幼学便覧」も買っておこうかなと目をつけておき,ほかの棚も眺めてみることにした。
 理科学系の書籍の背後の棚の裏側には,「鉄道」関係の書籍がある。そこで,こんな本に目が止まってしまった。

「大阪市営交通90年のあゆみ」という。ページをめくってみると,昔のようすを知ることのできる写真が多数掲載されている。うむ,買っても内容を理解できないかもしれない「幼学便覧」よりも,「大阪市営交通90年のあゆみ」の方が役に立つかもしれないじゃないか!
 こんな本を買ってしまうから,私はよく「鉄」であると誤解されるのだろう。私はあくまでも,この本で見ることのできる,昔の光景を写した写真に興味があったのだ。ということは,念のためにここで強調しておきたい。

*1 http://shinshomap.info/


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