撮影日記


2007年09月04日(火) 天気:晴

リコーフレックスの特徴

これまで「撮影日記」では,二眼レフカメラをそのピント合わせの機構から,2つに分けて扱ってきた。1つは,ピントリング周囲がギアになっていて,ビューレンズ(ファインダーに像を結ぶためのレンズ)とテイクレンズ(フィルムに像を結ぶためのレンズ)が連動するタイプのもので,「前玉回転式(あるいは単に回転式)」などとよぶ(実際には,テイクレンズは前玉だけが移動するようになっているが,ビューレンズは全体が移動するようになっているケースが多いようなので,単に「回転式」とよぶのがよいのかもしれない)。もう1つは,ビューレンズとテイクレンズがついたレンズボード全体が前後するようになっているもので,「前板繰出式(あるいは単に繰出式)」などとよぶ。繰出式の二眼レフカメラとしては,ローライフレックスがその代表例といえるだろう。一方,回転式の二眼レフカメラとしては,リコーフレックスがその代表例といえるだろう。
 リコーフレックスでも,とくに第二次世界大戦後のモデルの多くは,「低価格」が最大の特徴であった。その低価格を実現するための工夫は随所にあると思われるが,おもなものとしては,「3枚玉レンズ」「簡素なシャッター」「回転式ピント合わせ」そして「板金ボディ」があげられる。今回は,そのうちの板金ボディについて,見なおしてみたい。
 リコーフレックスの時代には,他社からも多くの二眼レフカメラが発売されていた。それらの大半は,ローライフレックス(あるいはその廉価版のローライコード)よりはるかに安価なものであるが,リコーフレックスにくらべると高価なものであった。たとえば,「アサヒカメラ年鑑1953年」の各社の広告によれば,リコーフレックスVI型はケース付きで8300円であるものの,それ以外のカメラは軒並み1万数千円の価格になっている。それらのカメラの説明としては「レンズ 4枚構成ハードコーテッド」「セイコーシャ・ラピッドシャッター(1秒〜1/500秒)」などとともに「ダイカストボディ」ということばも見られる。これらはすべて,「リコーフレックスよりはいいものですよ」ということを主張しているように見える。逆に,それらをすべて割り切って低価格を実現したものが,リコーフレックスなのである。だからこそ,1954年の「ヤシカフレックスA」,1955年の「ビューティフレックスT」の価格は衝撃的だったのだ(2007年1月28日の日記を参照)。それは,リコーフレックスのさらなる低価格化,1956年のケース付き4900円の「リコーフレックス・ホリディ」へとつながったのだろう。

さて,板金ボディは,一般的に精度を保つのが容易ではないとされる。しかし,レンズ固定式の二眼レフカメラであるリコーフレックスには,それほど高い精度は要求されなかったのではないだろうか。テイクレンズ,ビューレンズそれぞれの位置を決めたあとに,その周囲の「ギア」を調整しながら取りつけることができ,そこまでできればあとはきちんと連動するのである。
 また,板金では,曲面の工作も難しいとされる。しかし,リコーフレックスには,1950年代後半になってから登場してくるモデルを除けば,曲面らしい曲面は存在しない。外部も内部も,平らな板の組み合わせだけで構成されている。とくに内部における特徴は,中枠を使ってフィルムを装填するところにあらわれている。「ダイカストボディ」を謳う二眼レフカメラでは,フィルム供給部が曲面で構成されているのだ。
 このような中枠を必要とする二眼レフカメラは,リコーフレックス以前にも存在していた。たとえばこの「ヴィータフレックス」(Vitaflex)である。

左:リコーフレックスVII型,右:ヴィータフレックス

「ヴィータフレックス」は,フォクトレンダ社の「ブリリアント」に似たカメラである。ピント調整は目測式,ビューレンズは固定されており,ファインダーは構図を確認するだけのものである。そういう面では,「ヴィータフレックス」は,「簡素な二眼レフカメラ」というだけでなく,「ボックスカメラのファイダーを改良したもの」という見方もできる。
 「ヴィータフレックス」の裏蓋を開けると,なかからはリコーフレックスと同様な中枠が出てくる。

リコーフレックスVII型の中枠
ヴィータフレックスの中枠

リコーフレックスは,このような簡素なカメラの「低価格」という特徴を維持しつつ,回転式ピント調整機構を取り入れるなど,実用性を高めたカメラだったのである。ともかく,リコーフレックスというシリーズは,後世まで語り継がれるべきカメラであることは,疑いのないことである。二眼レフを語るには,両極に位置するローライフレックスとリコーフレックスを知っておかねばならないのかもしれぬ。


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