2007年05月02日(水) 天気:晴
標準ズームレンズの変遷(4)
先月までの日記では,「日本カメラショー」の「カメラ総合カタログ」を1968年から1978年まで見返しながら,標準ズームレンズの変遷を軽く追ってきた。(※1)その後,35-70mmクラスのズームレンズが各社から発売され,また,一眼レフカメラとセットで販売されるケースが増えてくるのは,よく知られていることだろう。
さて,ズームレンズの魅力は,単焦点レンズ数本分の役割を1本でまかなえる点にある。ズーム比が2倍くらいのズームレンズでは,その魅力を十分に感じることはないであろう。「このくらいの焦点距離の範囲であれば,自分が動いた方がいい」と批判的に主張する人も少なくないと思われる。
従来,一眼レフカメラとセットで販売されるレンズは,50mmレンズに代表される「標準レンズ」であった。「標準レンズ」付きの一眼レフカメラを買った者は,さらに「交換レンズ」を買い増していくことになる。このとき,一般的には「倍数系列」で買っていくのが基本的な考え方である,と言われることが多かったようだ。焦点距離が2倍(あるいは1/2倍)になれば写る範囲が大きく変化するので,レンズを交換した効果がわかりやすい,という考えによるものとも思われる。ともあれ,そうすると,広角レンズとしては28mm,望遠レンズとしては100mmくらいのものを買うことが「基本」であるとされていたことになる。
28mmから100mmという範囲をカバーするズームレンズは,現在ではごく一般的なものになっていると言えるだろう。1978年当時にはまだ,そのようなズームレンズは登場していなかった。ズームレンズで広角域をカバーすることは難しかったようで,望遠ズームレンズは「Auto NIKKOR Telephoto-Zoom 85mm-250mm F4-4.5」が1959年という早い時期に登場したのに対し,広角ズームレンズは1975年の「Zoom-NIKKOR 28mm-45mm F4.5」の登場を待たねばならない。
28mmをカバーするようなズームレンズは,ズーム比が2倍に満たないものが多かった。もっとも,28mm〜50mmくらいのズームレンズであれば,よく使われる広角レンズである28mmと35mmそして標準レンズ50mmの役割を受け持つことができるわけで,実用的には十分であると言えたかもしれない。しかし,これが望遠域までをカバーしてくれるようになれば,「1本で多くの場面に対応できる」万能なズームレンズとして使えるようになる可能性が広がるのである。
そのようなズームレンズは,1979年の「カメラ総合カタログ」に見られる,トキナー28mm-85mmが最初のものと思われる。このレンズは,ズーム比も3倍をこえることになり,そういう面でも実用性が広がったと見ることができるだろう。
1979年ごろの28mmをカバーするズームレンズ (「カメラ総合カタログVol.67」,日本カメラショー1980年 より)
メーカー | レンズ | 重さ | 価格 |
Pentax | SMC Pentax M zoom 28mm-50mm F3.5-F4.5 | 315g | 61,700円 |
Canon | FD 24mm-35mm F3.5 S.S.C aspherical | 515g | 124,000円 |
Canon | FD 28mm-50mm F3.5 S.S.C. | 470g | 103,500円 |
Sun | 24mm-40mm F3.5 | 500g | 64,800円 |
Sigma | 21mm-35mm F3.5-F4 | 435g | 65,000円 |
Tokina | 28mm-85mm F4 | 580g | 80,500円 |
Nikon | Ai Zoom-NIKKOR 28mm-45mm F4.5 | 440g | 101,000円 |
Minolta | MD Zoom-ROKKOR 24mm-50mm F4 | 395g | 98,000円 |
Yashica | ML zoom 28mm-50mm F3.5 | 475g | 70,000円 |
この当時,標準ズームレンズとしては,各社から35mm-70mm前後のものがラインアップされるようになっていたが,まだ40mm-80mmクラスのものしか用意されていないメーカーもあったりした。一方で,1981年にかけて,トキナーのほかにオオサワ,サン,シグマからも28mm-80mmクラスのズームレンズが登場するようになった。この間に,広角側が35mmのズームレンズの望遠側の焦点距離が少しずつ伸びていく傾向も見られた。1982年の「カメラ総合カタログ」では,あらたな28mm-80mmクラスのズームレンズの登場は見られないが,トキナーから35mm-200mm F3.5-F4.5というズームレンズがあらわれている。こちらの流れも,また追ってみたい。
28mm-80mmクラスのズームレンズ (「カメラ総合カタログ」より(※2))
メーカー | レンズ | 重さ | 価格 | 掲載年 |
Tokina | 28mm-85mm F4 | 580g | 80,500円 | 1979 |
Sun | 28mm-80mm F3.5-F4.5 | 460g | 64,300円 | 1980 |
Osawa | 28mm-80mm F3.5-F4.5 | 480g | 62,800円 | 1981 |
Sigma | 28mm-80mm F3.5-F4.5 | 455g | 55,000円 | 1981 |
日本カメラショー「カメラ総合カタログ」(1979年,1980年,1981年,1982年) 1980年版までは中綴だった製本様式が,1981年版からは平綴に変更されている。
※1 http://www.awane-photo.com/olddiary/2007/200703/070301.htm
http://www.awane-photo.com/olddiary/2007/200703/070319.htm
http://www.awane-photo.com/olddiary/2007/200704/070428.htm
※2 「カメラ総合カタログVol.64」,日本カメラショー1979年
「カメラ総合カタログVol.69」,日本カメラショー1980年
「カメラ総合カタログVol.71」,日本カメラショー1981年
「カメラ総合カタログVol.73」,日本カメラショー1982年
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