撮影日記


2006年06月06日(火) 天気:晴

キヤノンT80の意義

ミノルタ「α-7000」は,オートフォーカスシステム一眼レフカメラを形作った,歴史的名機といえるカメラである。その新しいシステムのために,ミノルタはレンズマウントを変更した。それ以前から定評のあった,MDマウントシステムとの互換性は失われたのである。ミノルタのオートフォーカス一眼レフカメラは「α」シリーズであり,マニュアルフォーカス一眼レフカメラ「MDマウント」のシリーズとは,まったく別物となったのである。
 一方,ニコン様やペンタックスは,マウントの互換性を維持した。そのため,オートフォーカス一眼レフカメラとマニュアルフォーカス一眼レフカメラとは,レンズシステムの互換性がある。
 キヤノンは,ミノルタと同様に,オートフォーカス一眼レフカメラの開発にあたって,レンズマウントの変更をおこなった。オートフォーカス一眼レフカメラ「EOS」シリーズと,それ以前の「FDマウント」のシリーズとは,まったくの別物となっている。

キヤノン「FDマウント」のシリーズのカメラは,まず2つに大別できる。それは,「F−1」とそれ以外である。「F−1」以外のカメラは,3つに大別できる。Aシリーズよりも前のもの,Aシリーズ,Tシリーズである。Aシリーズは,カメラの動作の電子化を目指したもので,露出の自動化(AE)が実用化されたモデルであると言ってもいいだろう。Tシリーズは,Aシリーズの自動化をさらに発展させたものといえる。その内容として,「T50」や「T70」におけるプログラムAEの積極的な採用,ワインダーの内蔵があげられる。さらに,「T80」ではピント調節の自動化も実現された。オートフォーカス撮影用に,「FDマウント」と互換性のある3本のACレンズ(50mm F1.8, 35-70mm F3.5-4.5, 75-200mm F4.5)が用意された。それらのレンズは,ピントリングを駆動するモーターがレンズに内蔵されたタイプのもので,モーター部分が四角くでっぱった,不格好なものであった。ところで,「T80」の登場は,1985年のことである。1985年というと,ミノルタ「α-7000」が登場した年である。「T80」は,「α-7000」の大ヒットに隠れて,目立たない存在になってしまったようだ。

ところで,「T80」の特徴は,オートフォーカス一眼レフであることだけではない。「T80」は,5種類のプログラムAEをもち,それらのモードを液晶パネルに「絵文字」で表示する。このようなユーザインタフェースも,「T80」の特徴であるといえる。
 現在では,「T80」には,「初期のオートフォーカス一眼レフカメラ」「絵文字を使ったインタフェース」などの「歴史的意義」が評価されるばかりで,それが実用的かどうかということは,すでに語られなくなっているようだ。
 「T80」のもつプログラムAEは,次の5種類がある。
 通常のプログラムAE
 被写界深度を深くとるプログラムAE
 被写界深度を浅くとるプログラムAE
 動くものを止めるプログラムAE
 動くものを流すプログラムAE
 これらの名称として,あまり聞きなれない英語が使われている。あえて聞きなれない単語を使って,「絵文字」による表現の優位さをアピールするつもりだったのだろうか。

とりあえず,それらのモードに,明らかな効果の違いがあるかどうか,試してみよう。まずは,通常のプログラムAEで,走っている電車を撮ってみよう。これは,駅のすぐそばであり,あまり速くは走っていない。

Canon T80, AC 75-200mm F4.5, JX100

次に,「動くものを流すプログラムAE」で撮影してみよう。

Canon T80, AC 75-200mm F4.5, JX100

このとき,「絵文字」と同時に「30」という文字が表示される。1/30秒のシャッター速度になっていることをあらわしているのだろう。たしかに,このような背景の流れ方は,それくらいのシャッター速度で撮影したときのものである。

ところで,「被写界深度」や「被写体の流し方」を意図的にコントロールしたいような場合は,それぞれ「絞り優先AE」や「シャッター速度優先AE」を使うことが多いだろう。ところが,「T80」には,それらの撮影モードは用意されていないのである。「T80」は,「プログラムAE」専用機なのである。

「絞り」や「シャッター速度」ということばや,その数値を意識せず,ある程度,意図的な表現をできるようにという工夫が,「T80」のインタフェースなのである。オートフォーカス機能とあわせて,「誰にでも」表現ができるような,そういう工夫については,やはり「歴史的な意義」は認めてあげたいものだ。


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